妻が不妊で子どもができないから離婚したい! 話し合い時の注意点4つ
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姫路市のホームページでは「ご出産を望まれる方への支援」として、不妊や不育症の相談から特定不妊治療などにかかる先進医療費助成事業などを紹介しています。子どもが欲しいと望み、ともに不妊治療などにも取り組んでおられるご夫婦はたくさんおられるでしょう。その一方で、「嫁が不妊だから子どもができない」という理由で離婚したいと思う方もおられます。
しかし、そのような理由で離婚することは基本的には難しいと考えられます。本コラムでは、妻の不妊を理由に離婚をすることができるのか、話し合いを進めるときの注意点について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、「嫁の不妊」を理由に離婚することはできるか
ご存じのとおり、子どもができない原因は一つだけではありません。もちろん男性側に原因があることもあります。しかし、さまざまな検査を行った結果、妻に不妊の原因があることが判明した場合には、それを理由として離婚をすることができるのでしょうか。
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(1)協議離婚であれば不妊を理由に離婚ができる
離婚をする場合には、まずは、夫婦で話し合いをして離婚をするかどうかや離婚をする場合の条件を決めることになります。このように、夫婦が話し合いによって離婚をすることを「協議離婚」といいます。
協議離婚は、離婚に合意した夫婦が離婚届に署名押印をして、市区町村役場に提出することだけで成立するという方法です。裁判所の手続きが不要となるため、ほとんどの夫婦は、この協議離婚での離婚を目指すことになります。
協議離婚の場合には、お互いに離婚に合意すれば離婚をすることができますので、離婚をするに至った理由や経緯を問われることはありません。そのため、夫が離婚をしたいと考えた理由が妻に不妊の原因があるということであったとしても、妻がそれに納得して離婚に応じてくれるのであれば、不妊を理由に離婚をすることも可能です。 -
(2)妻の不妊は法定の離婚事由には該当しない
妻に対して不妊を理由に離婚をしたいと伝えたとしても、離婚に応じてくれないことがあります。そのような場合には、まずは調停を行い、それでも合意を得られなければ最終的には、離婚裁判をすることになります。
しかし、裁判で離婚が成立するには、民法770条1項に列挙されている以下のような法定離婚事由があることが必要になります。- ① 不貞行為
- ② 悪意の遺棄
- ③ 3年以上の生死不明
- ④ 回復の見込みのない強度の精神病にかかったこと
- ⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
不妊を理由に離婚をする場合には、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるかどうかが問題になります。しかし、妻に不妊の原因があるというだけでは、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」には該当しません。なぜなら、子どもを授からなくても幸せに暮らせるご夫婦がたくさんおられるためです。
したがって、「嫁が不妊だ」という理由で裁判離婚をすることは難しいといえます。
2、不妊離婚の場合、慰謝料は発生するのか
妻に不妊の原因がある不妊離婚の場合には、慰謝料を請求することができるのでしょうか。
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(1)離婚と慰謝料との関係
慰謝料とは、違法な行為によって精神的苦痛を被った被害者に対して支払われるお金のことをいいます。離婚にあたっては、婚姻関係を破綻させる原因となる行為をした配偶者に対して、慰謝料を請求することができます。
慰謝料を請求することができる代表的なケースとしては、配偶者による不貞行為があった場合、配偶者による暴力があった場合などが挙げられます。
離婚理由としてよくある性格の不一致は、夫婦のどちらか一方に婚姻関係を破綻させる原因があったというわけではありません。したがって、性格の不一致による離婚では、慰謝料請求をすることはできません。
離婚時の慰謝料は、妻が夫に請求するものと考える方もいますが、あくまでも有責な原因のある側に請求することができるものですので、有責な原因が妻にある場合には、夫が妻に対して請求することも可能です。 -
(2)不妊だけを理由に慰謝料請求はできない
妻に不妊の原因があったとしても、それだけでは婚姻関係を破綻させる原因があったとまではいえませんので、不妊だけを理由として慰謝料請求をすることはできません。また、慰謝料を払う必要もありません。
もっとも、一般的な離婚と同様に不妊以外に相手に有責な事情(不貞、DV、モラハラなど)があった場合には、それを理由に慰謝料請求をすることができる場合があります。
ただし、慰謝料請求をする場合には、慰謝料を請求する側で慰謝料の発生原因となった事実を証明する必要があります。そのためには、証拠の収集が必要になりますので、十分な証拠を集めてから慰謝料請求をするようにしましょう。逆に、あなたが有責であることがわかるそれらの証拠があれば、あなたが慰謝料を支払う必要がある、ということになるのです。
どちらかわからない、離婚を切り出したら慰謝料を請求されたなどの事態に陥ってしまったら、まずは弁護士に相談してください。
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3、不妊離婚を切り出す際に注意すべきこと
妻に対して不妊離婚を切り出す場合には、以下の点に注意が必要です。
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(1)不妊離婚を切り出すタイミング
夫婦で子どもを望んでいたにもかかわらず、妻に不妊の原因があり、子どもを授かることができないという場合には、妻も相当な精神的ショックを受けています。そのような状況で、不妊の原因が妻にあることを理由として離婚を告げられると、妻がうつ病を発症してしまったり、最悪のケースでは自殺をしてしまったりという事態も起こり得ます。
そのため、不妊離婚を切り出すタイミングは、不妊の原因が妻にあることが判明した直後などは避けるようにし、お互いに落ち着いて話し合いができるタイミングを待つべきです。 -
(2)相手を傷つけるような言動をしない
不妊の原因にはさまざまなものがありますが、妻の体質が不妊の原因である場合には、妻の努力ではどうにもならない部分です。それにもかかわらず不妊の原因を執拗に責めるような言動をされると妻は精神的なダメージを負ってしまいます。
それがあまりにも行き過ぎたものになると、場合によっては、暴言やモラハラを理由として離婚時に妻から慰謝料請求をされてしまう可能性もありますので、相手を傷つけるような言動をしないように気をつけましょう。 -
(3)冷静になって話し合いをする
不妊離婚に限らず、離婚の話し合いをする際には、お互いの意見が衝突しますので、どうしても感情的になってしまいがちです。感情的になった状態では、離婚をするかどうかや離婚をする際の条件などについて落ち着いて話し合いをすることができません。できる限り冷静になって話をすることが大切なことのひとつとなります。
当事者同士の話し合いでは、冷静な話し合いが難しいという場合には、弁護士を介して話し合いを行うというのも有効な方法です。 -
(4)何度も話し合いの機会を持つ
離婚の話し合いを何度も行うのはストレスですので、早期に決着をつけてしまいたいと考えるのも理解できます。しかし、離婚を切り出す側は、時間をかけてよく考えた結果、離婚を決断したと思いますが、離婚を切り出された側は、突然離婚を伝えられていますので将来のことも含めて十分に整理ができていない状況です。
そのため、一度の話し合いだけで結論を出すのではなく、時間をかけて、何度も話し合いの機会を設けながら、離婚に向けて話し合いを重ねていくことが大切です。
4、不妊離婚の流れ
不妊離婚をする場合には、一般的に、以下のような流れで進んでいきます。
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(1)協議離婚
夫婦による話し合いで離婚をする方法を「協議離婚」といいます。離婚をする場合には、まずは、協議離婚による離婚を目指すことになります。
特に、不妊離婚の場合には、法定離婚事由に該当しないケースが多いため、後述する裁判離婚を成立させることが困難だといえます。そのため、お互いに納得できる条件で離婚をすることができるように夫婦で話し合いを進めていくことが大切です。 -
(2)調停離婚
話し合いによる離婚が成立しない場合には、次の段階として、家庭裁判所に離婚調停の申し立てを行います。離婚調停は、当事者だけの話し合いである協議離婚とは異なり、男女1名ずつの調停委員が間に入って話し合いを進めてくれます。そのため、当事者だけでは感情的になってしまい、話し合いが進まないというケースでも冷静になって話し合いを進めることが可能になります。
ただし、離婚調停も話し合いによる解決が前提となっています。したがって、どちらか一方が離婚に同意しない場合には、調停は不成立となり、離婚をすることはできません。 -
(3)裁判離婚
離婚調停が不成立になるなどして調停でも解決することができない場合には、最終的に家庭裁判所に裁判を起こして、裁判所に離婚を判断してもらうことになります。
しかし、すでに説明したとおり、裁判所が離婚を成立させるためには、夫婦に裁判上の離婚原因(法定離婚事由)があることが必要になります。不妊離婚の場合には、妻に不妊の原因があるということだけでは、裁判上の離婚原因にはなりません。そのため、不妊離婚をするためには、長期間の別居などそのほかに裁判上の離婚原因があることを主張していく必要があります。
5、不妊離婚を回避するための選択肢
妻に不妊の原因があったとしても離婚だけが解決の方法ではありません。不妊離婚を回避するために以下のような方法を検討してみるとよいでしょう。
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(1)養子縁組
子どもに恵まれずに不妊治療を長期間続ける夫婦がいる一方で、望まない妊娠で人工中絶せざる得ないケースや、生まれてから虐待を受けている子どもも存在しています。不妊の原因が妻にあり子どもができないという場合には、何らかの事情で子どもを育てることができない親に代わって子どもを引き取ることも検討してはいかがでしょうか。
特別養子縁組という制度を利用することによって、実親との親子関係は解消し、新たに養親との間で法律上の親子関係が生じることになります。 -
(2)子どもを持たない選択
子どもを授かることができないことが分かった場合には、子どもを持たないという選択も検討してみるとよいでしょう。
子どもを持つことが夫婦の幸せとは限りません。子どもを持たないことによって、夫婦だけの時間を楽しむこともできますし、経済的にも余裕のある生活を送ることができますので、旅行や趣味などを楽しむこともできます。
子どもにお金や時間をかけるのではなく、夫婦2人の時間を楽しむというのも幸せの形のひとつかもしれません。
6、まとめ
夫婦の形として子どもを持つことだけがすべてではありません。しかし、不妊が発覚した場合には、離婚することを検討する方もいらっしゃるでしょう。ただし、法律上は、相手の不妊は一方的に離婚ができる事情に当てはまりません。
それでも離婚をしたいのであれば、話し合いを重ねて相手を説得する必要が出てきます。不妊が原因での離婚は、非常にデリケートな問題です。トラブルを回避するためにも、離婚を検討するのであれば、まずは一度、離婚問題についての知見が豊富なベリーベスト法律事務所 姫路オフィスにお早めにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています