会社の経費やお金を勝手に使ったら犯罪? 横領罪で逮捕されるケース
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令和4年11月、姫路市に本社がある企業の子会社に勤務していた男性が13年にもわたり経費の着服を繰り返していた事実を裏付けたとして、業務上横領の容疑で男性を追送検したという報道がありました。
経費で私物を購入する行為や、交通費や出張費などの会社の経費を領収書の書き換えや偽造などによってごまかし、勝手に私的な目的に使用する経費の不正使用は、一般的には「横領」と呼ばれる犯罪にあたる可能性がある行為です。横領として罪に問われるケースから、逮捕されたときすべきことについて、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、経費の不正使用にあたるケース
まずは、どのようなケースが経費の不正使用に該当するのか、いくつかの例を挙げます。
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(1)交通費・出張費のごまかし
通勤や社外に営業に行く際の交通費を過大請求したり、実際とは異なる移動ルートに基づいて請求したりといったケースです。また、タクシー代(タクシー券)の私的利用も、トラブルが発生しやすいです。
出張は、不正使用が行われやすい場面でもあります。上記のように出張の行き帰りの交通費だけでなく、宿泊する場合にはホテル代でも不正が起こり得ます。もっとも典型的なのは、いわゆる「カラ出張」です。これは、実際には行っていない出張を、行ったものとしてその経費を請求するものです。一般的に出張時の交通費や宿泊費は高額になりがちである一方で、会社としては出張先のことまでは監視しきれないため、発生しやすい不正使用の類型であるといえます。もっとも悪質なのは、取引先のホテルや飲食店などと通謀して領収書を作成してもらうという手法です。その他に、自身のクレジットカードで決済を行い、領収書を印刷した後で、そのクレジット決済をキャンセルして返金を受けるというものもあります。 -
(2)接待費用
顧客や取引先の接待にかかる費用の過大請求もあります。やはり接待時の飲食代などは、会社としても、注文した料理名やコース料理の内容など、そのすべてを把握することが難しいため、過大請求が発生しやすいといえます。あるいは、友人との飲食代など、全くの私的な支出を接待と偽って、経費申請するというパターンもあります。
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(3)私的流用
より直接的な横領として、会社のお金の着服があります。たとえば、銀行の窓口の係員が、顧客の預金を着服するといったケースです。
2、経費を勝手に使うとどのような罪に問われるのか
上記のような経費の不正が何罪にあたるのかを解説します。
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(1)横領罪(単純横領・業務上横領)
横領とは、他人や公共のもの、つまり、金銭を含め自分のものではないものを勝手に自分のものとする行為を指します。刑法には、単純横領罪(刑法252条)、業務上横領罪(刑法253条)、遺失物等横領罪(刑法254条)の3種類の横領罪が規定されています。このうち遺失物等横領罪は、忘れ物や落とし物を勝手に自分のものにしてしまう罪であり、経費の不正使用とは関係がないので今回は説明を省きます。単純横領罪と業務上横領罪を合わせて、委託物横領罪といいます。
刑法252条(横領)
①自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。
②自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。刑法253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
さて、委託物横領罪における「横領」とは、委託信任関係に基づき自己が占有し、他人が所有する物を領得、処分する行為のことをいいます。ここで占有と所有という言葉が出てきました。似た言葉ですが、法律用語としての占有と所有は異なる概念です。所有とは、ある特定の物を全面的に支配(使用・収益・処分)することです。一方で、占有とは、ある物を自己のためにする意思をもって所持するという事実的支配状態のことをいいます。そして、所有または占有する権利のことを、それぞれ所有権、占有権といいます。
先ほどの銀行の窓口の係員が顧客の預金を着服する例で考えてみましょう。係員が預かった顧客からお金は、銀行が所有するものです。本質的には、顧客は窓口の係員ではなく銀行にお金を預けたのです。しかしながら、その現金は今、窓口の係員が占有しています。このように、自己が占有し、他人が所有する物が、横領罪の対象となる物です。
さらに、この他人所有・自己占有という関係は、委託信任関係に基づくものでなければなりません。簡単に言えば、頼まれて占有しているということが必要なのです。そして、そのような物を領得(取ること)・処分すると、委託物横領罪が成立します。
そして、単純横領罪と業務上横領罪の区別ですが、委託信任関係に基づく占有が業務上のものであるかどうかによって区別します。たとえば、友達から頼まれて1度だけ預かったお金を着服する場合は単純横領罪、上記の銀行の例は業務上横領罪となります。
単純横領罪の法定刑は5年以下の懲役、業務上横領罪は10年以下の懲役です。罰金刑はなく、比較的重い罪であるといえます。 -
(2)背任罪
委託物横領罪とよく似た犯罪として、背任罪があります。
刑法247条(背任)
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
背任罪は、任務に背いて財産上の損害を与えたときに成立します。自己もしくは第三者の利益を図ること、あるいは、本人(背任罪の被害者のこと)に損害を加えることが目的である場合に背任罪となります。法定刑は5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。委託物横領罪と異なり、罰金刑もあります。
さて、横領罪と背任罪の違いは、個別財産に対する罪なのか、それとも全体財産に対する罪である、とされています(個別財産か全体財産かを区別することが困難な場合も多く、これだけで完全に分類できるわけではないのですが、ここではこの分類による区別のみを紹介します)。個々の物の所有権や占有権を個別財産といい、(被害者の)財産状態全体のことを、全体財産といいます。個別財産は簡単ですが、全体財産のイメージがつかみづらいかもしれません。
たとえば、会社役員が会社の定める基準を満たしていないにもかかわらず、返済能力の低い第三者の借金の保証人になり、会社に損害を与える行為には、背任罪が成立します。損害と書きましたが、保証契約によって債権が発生するのみで、法律上の損害があるとはいえません。きちんと第三者が借金を返済すれば、問題ないからです。
しかしながら、不履行の段階になっているわけでなくとも、返済能力の低い者の保証人となること自体が経済的見地からは財産的価値の減少であり、全体財産への損害であるということなのです。
一般的な経費の不正のケースでは、そのほとんどが個別財産に対する損害であり、背任罪ではなく横領罪が成立すると考えられますが、場合によっては背任罪となる可能性もあるということだけ、覚えておいてください。
3、逮捕されたらどうなるのか
そもそも、経費不正のケースでは、いきなり刑事事件(いわゆる警察沙汰)になることはあまりありません。会社はまず、「不正をした分のお金を返してくれ」と言ってきます。会社としては、刑事事件に発展させなくとも、お金が返ってきて、当該社員を処分できれば構わないと判断することが多いのです。警察への対応や裁判への準備など、時間的、経済的なコストが高く、表沙汰になることで会社の社会的評判が低下することが懸念されるからです。
したがって、不正が確かなのであれば、お金を返し、示談を成立させることによって逮捕や刑事裁判といった刑事手続きを回避できる可能性が出てきます。示談交渉は、弁護士のアドバイスを受けながら行うことをおすすめします。弁護士と共に、会社に納得してもらえるような形を模索し、会社との示談交渉にあたることで、スムーズで確実な示談成立へと結びつけることができます。
しかしながら、(事実であるにもかかわらず)否定し返金を拒み続ければ、刑事事件に発展するおそれがあります。逮捕された後は、送致、起訴、刑事裁判という流れになります。ここでもやはり、なるべく早い段階から弁護士のアドバイスを受けて警察や検察による取り調べに対応しつつ、示談交渉を進めていくのがベストです。
4、解雇されてしまうのか
一般に、どのような場合に懲戒解雇されるのか(懲戒解雇事由といいます)は、就業規則に規定されている場合が多い傾向があります。そして、「故意又は(重大な)過失により会社に重大な損害を与えたとき」という項目があれば、経費不正は故意によって会社に対して重大な損害を与える行為といえるため、懲戒解雇となる可能性が高いでしょう。そのような直接的な項目がなくとも、その他の懲戒解雇事由に準ずる不適切な行為があったときに懲戒解雇となる旨の規定があれば、やはり懲戒解雇となる可能性が高いです。
自分の会社の就業規則にどのように規定されているのかを確認してみてください。
5、まとめ
会社の経費で私物を購入したり、領収書の改ざんなどにより経費を受け取ったりなど、会社の経費を勝手に使うと、会社の経費を勝手に使うと、横領罪や背任罪に問われる可能性があります。経費の不正使用が発覚した場合、まずは会社からの求償、解雇を求められるケースが一般的でしょう。最悪の場合には刑事事件に発展し、前科が付く可能性があります。
経費の不正利用を行ったことが発覚し、どうすべきかお悩みのときには、なるべく早く弁護士のアドバイスを求めることをおすすめします。いち早く会社との示談交渉を進めていくことによって、重すぎる罪に問われてしまう事態を回避できる可能性が出てきます。まずはベリーベスト法律事務所 姫路オフィスへご相談ください。刑事事件についての知見が豊富な弁護士が示談交渉から弁護活動まで対応します。
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