残業代カットがされている場合に確認すべきことと未払い残業代の請求方法
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兵庫労働局は令和2年3月23日、労働基準法第32条違反に基づき、姫路市内の会社を送検したことを公表しています。労働者1名に対し、三六協定の延長時間を超える違法な時間外労働を行わせたことを事案の概要としています。
会社による労働基準法違反の事例は、全国的に後を絶ちません。その中でも特に多い事例は、さまざまな理由を付けて残業代をカットし、人件費を削減するというものです。そこで本コラムでは、会社から不当に残業代をカットされたときに確認しておくべきこと、備えておくべき知識、そして対処法について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、残業代はどのようなときに発生する?
労働基準法第32条によりますと、労働者の労働時間は原則1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えてはならないと規定されています。これを法定労働時間といいます。
しかし、労働基準法第36条に基づいた会社と労働組合または労働者の代表との間で残業に関する協定(いわゆるサブロク協定)が締結されていることを前提に、会社は、労働者に対して、法定労働時間を超えた残業を命じることができます。労働基準法第37条の規定により、会社の労働者に対する残業代の支払い義務は、この法定労働時間を超えた分について発生するのです。
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(1)法内残業
就業規則や雇用契約などで、法定労働時間よりも短く所定労働時間を定めている会社もあります。たとえば、所定労働時間が7時間と定められているような会社です。
このような会社で労働時間が8時間となった場合は、1時間の残業に対して残業代が発生します。この場合の残業は法内残業として扱われ、基本的には、基礎賃金に対する割り増しはありません。 -
(2)法外残業
労働基準法第32条が定める1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える残業を法外残業といいます。法外残業の基礎賃金に対する割増率は25%です。
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(3)深夜労働
午後10時から午前5時までの勤務を、深夜労働といいます。深夜労働に対する割増率は25%です。
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(4)休日労働
使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりません(4週間を通じ4日以上の休日を与えるということもできます。)。この休日を法定休日といい、法定休日に労働をした場合には、法定休日労働として、35%の割増率による残業代が発生します。
2、「残業代カット」は違法! 発生するケース
さまざまな根拠に基づき残業代カットを正当化する使用者も多く存在します。しかし、その中には違法性が疑われるものも存在します。以下で、その代表例をご紹介します。
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(1)名ばかり管理職(管理監督者)
労働基準法第41条第2号によりますと、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」に対しては、労働基準法上の労働時間に関する規制は適用されません。
しかし、本条文における管理監督者の定義は、あくまで「監督若しくは管理の地位にある者」です。実際に厚生労働省においても、「管理監督者は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」であり、管理監督者に該当するか否かは「役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断」するものとされています。
したがって、「統括部長」「担当課長」というような役職にあっても、部下がおらず実質的に管理監督者に該当しない労働者、いわゆる「名ばかり管理職」は、管理監督者には該当せず、残業代の支給対象となると考えられます。 -
(2)フレックスタイム制
フレックスタイム制は、労働者が自ら毎日の労働時間や始業・終業時刻を決めることができるという制度です。しかし、フレックスタイム制を選択している労働者に対しても、労働基準法第32条第1項の「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」という規定は適用されます。したがって、週ベースまたは月ベースで40時間の法定労働時間を超えて労働した分に対しては、残業代が発生します。
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(3)固定残業代、みなし残業代
固定残業代やみなし残業代とは、あらかじめ基礎賃金に一定額の残業代を加算するというものです。しかし、固定残業代分を超えた労働時間に対しては、その超過分に対して残業代が発生するという考えが一般的ですし、そもそも会社が運用している固定残業代制度が無効である場合もあります。
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(4)在宅勤務
昨今のコロナ禍で、日本でも在宅勤務が定着しつつあります。ところで、「会社に来ていないのだから、在宅勤務に残業代は発生しない」などという誤った考え方をする会社も存在するようです。
在宅勤務と会社における勤務は、労働者が会社に労務を提供している場所に違いがある過ぎません。したがって、在宅勤務であろうと、労働者が会社の指揮命令の下、労務を提供している以上は、法定労働時間を超えた残業時間に対して残業代が発生します。
3、残業代を請求することができないケース
あなたが以下のいずれかのパターンに該当している場合、残業代の請求をできない可能性があります。
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(1)時効が完成している
会社に対して労働者が未払い残業代の支払いを請求する権利には時効が存在します(労働基準法第115条)。時効が成立すると、請求できる権利が消滅してしまいます。つまり、請求できるはずの残業代を請求できなくなってしまうのです。
時効を迎えるまでの期間は、民法改正の影響により、未払い分の残業代が発生した日によって変わります。具体的には以下のとおりです。- 令和2年3月31日までに発生した残業代を請求する権利……給料支払日の翌日から2年
- 令和2年4月1日以降に発生した残業代を請求する権利……給料支払日の翌日から3年
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(2)残業が禁止されている場合など
会社が就業規則などで明確に残業を禁止しており、かつ客観的にも残業が必要ないほどの仕事量と認められた場合は、割増賃金の生じる残業と認められることが難しくなります。
残業代が発生していると認められるために、業務上の命令があった証拠が必要になることがあります。特に在宅勤務中で、残業代カットを言い渡されている会社で働いているのであれば、上司や経営者から残業するよう指示を受けた履歴(メールなど)をできるだけ残しておくべきです。
4、不当にカットされた残業代を請求する方法
未払い分の残業代を請求する具体的な方法を解説します。
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(1)証拠を集める
労働時間の証拠になり得るものは以下のとおりです。
タイムカード、パソコンのログイン・ログオフ記録、会社のパソコンから送信したEメール、業務日誌、タコグラフなど
あなたが実際に残業した時間を証明する証拠を集めましょう。なお、自ら付けていた勤務時間の記録(手帳メモなど)も、証拠となり得ます。 -
(2)時効の完成を猶予し使用者に請求する
労働者が使用者に対して未払いの残業代を請求する権利は、前述のとおり2年(3年)で時効となり消滅してしまいます。したがって、会社との交渉が長期化することが予想される場合は、まずは時効の完成を猶予する必要があります。
時効の完成を猶予するために、会社に対して、内容証明郵便による通知で、不当な残業代カットによる未払い残業代の支払いを求める催告を行います。また、会社に対して裁判上の請求(訴訟提起)を行うことによっても時効の完成は猶予されます。
もし会社から不当な残業代カットをされており、それに対して残業代の支払いを請求する場合は、まず弁護士に相談しましょう。
弁護士は、残業代の額を法律に従って適正に算出したうえ、代理人として会社との交渉、訴訟を行います。
5、まとめ
使用者側がさまざまな残業代カットの理由を主張してくるケースは数多く存在します。しかし、その中には、使用者側による残業代未払いについて、正当な根拠がないケースも多く存在します。まずは、使用者側の主張が正当なものかどうか確認するとともに、あなた自身が交わした労働契約書や給与明細、タイムカードなどを、入念に確認してみてください。
会社の残業代カットが不当であり、未払い分の残業代が相当分あると考えられる場合には、弁護士に相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは、不当な残業代カットなど労働問題全般に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています