現場代理人を退職したい! 損をしない辞め方を弁護士が解説

2021年03月30日
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現場代理人を退職したい! 損をしない辞め方を弁護士が解説

姫路市内でも、あちこちで工事をしている様子を見かけます。工事の現場代理人は責任も重く、仕事量も多くて大変な仕事でしょう。場合によっては、なんらかの理由で任務を降りたいとお考えになっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、現場ではなかなか辞めさせてくれないケースがあります。忙しい現場を目の当たりにしていると、どうしても退職をためらいがちになるものです。退職を申し出てトラブルになるのも避けたいとお考えになる方も少なくありません。

しかし、早めに退職したほうがかえってトラブルを防げる場合もあります。本記事では、現場代理人の立場から見た適切な辞め方について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。

1、これって違法? 現場代理人を退職しようと思ったら、引き留めにあった

  1. (1)現場代理人の引き留めとは

    現場代理人は、建設の現場を監督し、工程管理を行うという重要な任務についています。誰でも現場代理人の仕事内容をこなせるわけではないので、会社にとって貴重な人材といえます。

    特に、最近は建設工事業界や電気設備工事業界での人手不足が深刻化しており、簡単に辞めさせてくれないこともあります。決断のうえで退職を伝えても、退職届を受け取ってもらえない、無視される、相変わらず仕事のスケジュールを入れられる、しつこい引き留めにあう、といった事態も生じているようです。

    現場は実際に動いていますから、現場代理人としての仕事を次々と入れられてしまうと、事実上ずるずると仕事が続きます。そして、辞めるタイミングを失って自分の負担だけがふくらんでいきます。こうした事態に対応するには、会社による引き留めが適法なのかどうかを判断することが先決です。

    なお、現場代理人は工事現場の監督を行う責任を負う人であり、工事の請負人である会社と雇用関係にあるとは限りません。しかし、公共工事では、通常、現場代理人と請負人が雇用関係にあることが求められます。以下は、現場代理人と請負人とが雇用契約にある場合について説明します。まずは、ご自身と請負人との契約書をしっかりチェックしてみてください

  2. (2)引き留めは原則として違法

    期間の定めのない労働者が仕事を辞めたいと申し出た場合、原則としては会社側がそれを阻止できる根拠はありません

    民法上の一般的な定めとしては、労働者が退職届を提出してから2週間が経過すれば退職することが可能です(民法第627条1項)。言い換えれば、労働者には退職の自由が認められているわけです。ただし、正社員以外の、期間の定めのある雇用契約の場合には、退職の期間制限があります。具体的には、契約社員や派遣社員などで「6か月」「1年」といった雇用の期間があらかじめ決まっている労働契約です。

    この場合は、その期間は必ず勤務することを条件として、比較的短期の期間を設定した契約です。そのため、原則として、その期間が終了するまでは退職ができません。ただし、人にはいろいろな事情がありますので、「やむを得ない事由」があれば、契約期間中でも退職が認められます。たとえば、労働者本人が病気などで働けなくなった場合は、出勤自体ができないのに契約を維持しても意味がありません。このような場合には「やむを得ない事由」として退職が認められるでしょう。
    なお、期間の定めがある契約でも、最初の契約から1年以上が経過した日以後は、労働者の意思で退職することができます(労働基準法137条)

  3. (3)民法改正に伴う影響は?

    なお、旧民法626条では、雇用期間が5年を超える場合、または、その終期が不確定であるときには、労働者・使用者側のいずれから雇用契約を解除する場合でも、3か月前の予告が必要とされていました。

    つまり、退職を申し出てから3か月は退職できないという規制です。これに対しては、労働者の退職の自由が過度に制約されているという批判がありました。その批判に応えて、2020年4月から施行された改正民法では、労働者側からの雇用契約解除は、2週間前に予告すれば足りると変更されました。

    また、旧民法627条2項と同条3項では、雇用の期間を定めずに期間に応じて報酬を定めていた場合、労働者からの退職の場合でも、退職の予告期間を別途定めていました。完全月給制や年俸制を採用した場合の特例ともいえる規定です。改正民法では、労働者の退職の自由の観点からこれらの規定は修正されました。

    これにより、労働者側からの退職は2週間前に行えば足りるという内容に変更されています。このように、民法改正による規定の変更がたくさんありますので、退職を決意した時は、弁護士に相談したほうが安全です。

  4. (4)就業規則が優先する?

    また、就業規則で退職に関する規定がある場合は、その規定にも注意する必要があります。自分の会社の就業規則を見たことがない人もいますが、就業規則は作成のうえで従業員に周知することが義務付けられています。もし就業規則を見せてもらえないならば、そのこと自体が違法です

    退職を検討し始めたら、まずは就業規則を確認しましょう。会社によっては、就業規則で「1か月前に退職を申し出ること」などと、2週間より長い退職予告期間が定められているケースもあります。このような場合、民法の規定と就業規則のどちらが優先されるのかが問題となります。この点に関しては、原則として民法の規定が優先されるものの、就業規則の内容に合理性があれば、就業規則が優先されるという考え方が一般的です。仕事の内容にもよりますが、おおむね、就業規則の規定が1か月程度であれば、合理性が認められる可能性があるでしょう。

    以上をまとめると、自己都合で会社を辞めるときは、基本的には2週間前、自社の就業規則の制限期間が1か月程度ならその期間までに、退職意思を告げれば、退職が可能ということになります

2、やめる場合の手順とは

いくら法的に退職が可能としても、会社とトラブルになれば心理的な負担も大きくなってしまいます。退職をスムーズに進めるために、次のような手順を取ることをおすすめします。

  1. (1)退職の意思を自分で整理する

    退職は自分にとっても一大事です。自分だけでなく家族への影響もあります。仕事がつらい時には、精神的に落ち込んでしまい判断力が低下しがちです。退職してから後悔することのないよう、なぜ退職するのか、退職後はどうするのか、しっかりと考えましょう。場合によっては、休職制度などを利用して考える時間をとることもできます。焦ることなく、転職先や退職後の収入のめどについても十分に整理してから決断するようにしましょう

  2. (2)決断したら早めに伝える

    熟考の末、退職を決意したならば、早めにその意思を伝えましょう。法律では2週間前と規定されていますが、社員がひとり辞めるということは会社にとって大きな影響を受けることです。特に、現場代理人ともなると、退職の影響は広範囲に及びます。できるだけ早く退職意思を伝えることで、現場の混乱を避けることもできます退職は言い出しづらいという人もいますが、早めに伝えたほうが自分のためになると考えましょう

  3. (3)退職の決意が固いことを伝える

    法的に退職の自由があるといっても、会社としては、高いスキルを持った技術者である現場代理人を失うのは痛手です。ここで引き留められたときに、退職を迷うような発言をすると、会社としては引き留めに成功したと思ってしまいます。そうなると、次々と仕事を与えられて、辞めるタイミングがなくなってしまいます。会社から引き留められても、自分の退職の意志が固いこと、すでに決断済みであることをしっかりと伝えましょう

3、未払い残業代も確認しよう

従業員に引き留めを行う会社は、法的にしっかりとした体制を整えていない可能性もあります。特に、建設現場の残業代の管理はずさんであるケースが頻繁に見られます。仕事を続けていくなら、多少の未払いには目をつぶるという人もいるでしょう。

しかし、退職する際には、退職金や、これまでの未払い残業代もきちんと清算してもらうべきです。未払い給与を請求する流れは、以下のようになっています。

  1. (1)未払い残業代を計算する

    未払い残業代の計算には、自分の業務時間や会社の規定など、たくさんの資料が必要です。そして、労働基準法を正しく理解して、決められた計算方法を適用しなければなりません。自分で計算することができない場合は、労働事件の経験豊富な弁護士に相談するほうが得策でしょう

  2. (2)未払い残業代を請求する

    会社に対して、未払い残業代を請求します。請求の方法は、内容証明郵便などの証拠が残るものを選びましょう。会社が請求に応じて全額を払ってくる可能性は必ずしも高くありません。しかし、いつどんな請求をしたのか、証拠として残しておくことは、時効やその後の手続きにおいて重要な意味を持ちます

  3. (3)労働審判

    請求しても会社が未払い残業代を払わない場合には、裁判所に「労働審判」の申し立てを行いましょう。労働審判とは、労働者と事業主との間の労働関係に関する紛争について専門に取り扱う裁判所の手続きです。原則として3回以内の期日で終了するため、通常の裁判に比べてかなり迅速な解決が期待できます。

    ただし、労働審判では、請求する側が、請求の根拠となる証拠を提出しなければなりません。労働者と会社との関係では、会社側が証拠を握っているケースがほとんどです。労働者が自分の権利をすべて立証することは簡単ではありませんので、早めに弁護士に相談するほうが得策です。

  4. (4)裁判

    労働審判の結果に納得できなければ、労働者からも会社からも「異議申立て」をおこなうことができます。異議申立てが行われた場合には、労働審判から通常の裁判へと移行します。裁判でも、証拠の有無が重要な意味を持ちますので、争いが予想される場合は、退職を決意したのなら、残業に関する証拠をできるだけ集めておくようにしましょう

4、弁護士に依頼するべき理由

退職に関するトラブルについては早めに弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)退職時のサポートを得られる

    弁護士に退職時のサポートを依頼することができます。具体的には、次のような点でアドバイスや支援が得られ、力強い味方になってくれます。

    • 退職する旨の通知
    • 退職金や残業代未払いについての交渉
    • 未払い残業代の計算
    • 在職中にハラスメントがあった場合の慰謝料請求


  2. (2)会社との交渉を任せられる

    弁護士が代理人となると、会社との交渉はすべて弁護士を通して行うことになります。つまり、会社から本人に直接連絡がきて、いやな思いをするということがなくなるのです。
    弁護士は退職に伴うさまざまな手続きや交渉も代理する権限を持っています。退職の際には、会社から無理を言われたり、暴言を浴びたりするなどしてつらい思いをすることもあります。弁護士に依頼すればそのような負担をすべて弁護士に任せることができます

  3. (3)退職前に確保すべき証拠がわかる

    いったん退職してしまうと、会社に出入りすることはできませんし、会社の情報にアクセスすることもできません。万が一、退職後に給料や退職金が払われないなどのトラブルがあっても、請求の根拠となる資料が労働者の手元にないこともあります。弁護士に早めに相談することで、在職中に確保しておくべき証拠についてアドバイスを受けることができます。退職後に泣き寝入りすることのないように、早めに労働問題に詳しい弁護士に相談してみましょう

5、まとめ

現場代理人は責任のある大変な仕事です。貴重な人材でもありますから、本人が辞めたいと思っても会社が認めないという場合も多いものです。しかし、会社が退職を引き留めても、その引き留めに法的な根拠がなければ応じる必要はありません。引き留めが適法なものかを判断したうえで、適切な対処方法をとりましょう。また、退職時には、退職までの給料はもちろん、退職金や未払いの残業代も請求できる可能性があります。今まで会社に尽くしてきたわけですから、退職にあたっては、自分の権利をしっかりと行使しましょう。とはいえ、会社と交渉することは、精神的に負担が大きく、また法的な判断で迷うこともあるでしょう。

退職に関するトラブルでお困りの方は、ぜひベリーベスト法律事務所までご相談ください。当事務所は退職時の引き留め事案の解決に多数の実績があります。また、弁護士が代理人として会社と交渉し、円満な退職をサポートする「退職サポートプラン」もご用意しています。退職トラブルや在職強要に関するご相談は、初回相談60分まで無料、さらに、残業代請求に関するご相談は何度でも無料です。どうぞお気軽にお問い合わせください。

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