退職する会社から競業避止義務があるといわれた! どうしたらいい?

2021年02月04日
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退職する会社から競業避止義務があるといわれた! どうしたらいい?

最新の国勢調査の結果によりますと、平成27年の姫路市における労働力人口は約25万7千名です。この中には、会社に勤めていて転職を考えている方や独立して起業を考えている方もいることでしょう。

労働者の転職や独立が珍しくない今、転職や独立により会社の営業上や技術上の秘密が漏えいし、それをめぐるトラブルが頻発しました。そこで多くの会社は、いわゆる「競業避止義務」を設け、労働者の退職による会社の営業上や技術上の秘密が漏えいすることを防ごうとしています。中には、優秀な労働者を退職させたくないために競業避止義務を過大に伝える会社もあるようですが、競業避止義務の本質を知っておけば過剰に気にする必要はないのです。

そこで本コラムでは、労働者が知っておくべき競業避止義務の基本から過去の裁判例、そして競業避止義務に関して注意しておくべき点について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。

1、競業避止義務とは何か?

会社に勤務するうえで労働者が遵守すべき誠実義務としては、主に企業秘密を保持する「秘密保持義務」、そして会社と競業する他社に就職したり自ら起業したりしないよう、「競業避止義務」があります。

この秘密保持義務と本コラムのメインテーマである競業避止義務は、ともに密接な関係にあります。以下で、秘密保持義務と競業避止義務それぞれの内容とその関係性についてご説明します。

  1. (1)企業秘密の保持義務とは何か?

    企業秘密の保持義務については、労働契約上の秘密保持義務と並び、不正競争防止法第2条第6項においても「営業秘密」の定義が定められています。

    不正競争防止法第2条第6項
    この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。


    さらに、不正競争防止法第2条1項では、全22号に至るまで不正競争とはどのようなものか、さらにはその禁止事項について定義しています。その中でも、同法第2条第1項の7号において、営業秘密を保護する目的で禁止事項を定めています。

    不正競争防止法第2条第1項7号
    営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為


    そのうえで法律では、その秘密を労働者から漏えいされた会社に対して、差止請求(同法第3条)、損害賠償請求(同法第4条)、信用回復措置請求(同法第14条)などの救済措置を定めているのです。

    なお、労働者に対する不正競争防止法上の秘密保持義務は、労働契約が存続し労働者が会社に在職している期間だけではなく、退職後も及ぶとされています。

  2. (2)競業避止義務とは何か?

    近年は雇用の流動化が進み、会社の営業上または技術上の秘密を知る労働者が、同業他社に転職したり競合する会社を設立したりするケースが多くなりつつあります。そこで会社の営業上または技術上の秘密が漏れ活用されることが会社側から問題視されるようになっていました。

    先述のとおり、労働者には退職後も業務に関連して知り得た企業秘密については保持義務があります。そして、会社側はそれをより実効性のあるものにするために、競業避止義務を就業規則に定めたり労働者の入社時あるいは退職時に「競業避止に関する誓約書」などを徴求したりするケースが一般的です。退職する社員の同業他社への転職や企業により企業秘密が漏えいすることを防ごうとしているのです。

    会社による労働者への競業避止義務は、労働者の職業選択の自由を制限する側面があります。しかし、憲法第22条では労働者の「職業選択の自由」を定めていることはよく知られているところです。

    このため、会社の就業規則に競業避止義務に関する規定があろうとなかろうと、労働者が会社に競業避止義務に関する誓約書を提出していようといまいと、退職後の競業避止義務は直ちに認められるわけではありません。競業避止義務の有効性は、職業選択の自由との関係でその合理性を総合的に判断するものとされています

    具体的には、会社の正当な利益を保護する必要性、労働者の職業選択の自由を制限する程度、保護すべき秘密の内容、会社における当該労働者の地位や業務内容、競業制限の期間・場所的範囲、代償や特約の有無が判断の要素として考慮されます。

    なお、競業避止義務を根拠づける就業規則や誓約書がない場合であっても、企業秘密の漏えい行為や競業行為の態様が悪質と考えられる場合は、退職した会社の営業の利益を侵害する不法行為として労働者に損害賠償責任が発生することもありえますので、注意が必要です。

2、実際に訴えられたケースを確認

裁判で競業避止義務が争われた事件は数多くあります。以下では労働者が勝訴あるいは敗訴した事件の実例をご紹介します。

  1. (1)労働者が勝訴したケース

    甲社は、専任講師や甲社の監査役として勤務し退職した労働者Aらが、退職後に独立し営業行為をしたことが競業避止義務を定めた特約等に違反しているとして、労働者Aらの営業禁止の仮処分を申し立てました。

    東京地方裁判所は、以下の理由等から、甲社が労働者Aと締結した競業避止義務を定めた特約は公序良俗に反して無効と判断し、甲社による仮処分の請求を却下しています(平成7年10月16日東京地方裁判所決定・判例タイムズ894号73頁)。

    • 在職中の甲社に対する労働者Aの貢献が大きかったのにもかかわらず退職金が1千万円程度と相対的に少なかったこと。
    • 競業行為の禁止される場所の制限がないこと。
  2. (2)労働者が敗訴したケース

    労働者Bと労働者Cは乙社の製品販売の業務に従事し、「会社の重要な機密技術」に関与し、それを知り得る立場でした。
    そのため、乙社は労働者BとCと以下のような契約(特約)を締結していました。

    • 業務上知り得た秘密を、在職中はもちろんのこと退職後も漏えいしないこと
    • 乙社と競合関係にある企業に対して、退職後2年間は直接・間接を問わず関与しないこと


    なお、労働者BおよびCは、在職中、機密保持手当を受け取っていました。

    労働者BとCは乙社を退職後、乙社と同業かつ競合している丙社が設立されると同時に、丙社の役員に就任しました。労働者BとCは乙社の取引先にも乙社と競合する製品をセールスに従事していたのです。これを重くみた乙社は、競合行為をやめさせるために労働者BとCを相手方として訴訟を起こしました。

    判決では、本件契約の制限期間が比較的短期間であること、制限の対象は比較的狭いこと、在職中に機密保持手当が支給されていたこと等を理由に、本件契約を公序良俗に反しないとし、乙社の訴えを認めています(昭和45年10月23日奈良地方裁判所判決・判例時報624号78頁)。

3、サインをする前によく確認、会社と折り合いをつけることが大切

どのような会社でも知識・情報・顧客網・技術などにおいて独自のものを蓄積しています。そして、これは会社を存続・発展させるために重要な資産です。だからこそ会社側の立場からすれば漏えいだけは絶対に避けたい、これが労働者の退職時に会社が競業避止義務に関する誓約書へのサインを求めてくる背景です。

中には、就業規則に「退職届と競業避止義務の誓約書は一緒に提出すること」を規定している会社もあるようです。そして、もし退職する労働者が退職届だけを提出してきたら「競業避止義務の誓約書を提出しないことは就業規則に違反しているので、退職届は受理できない」として、あくまで退職届と競業避止義務の誓約書の同時提出を求めてくる会社もあるでしょう。

雇用の期間を定めていない労働契約の場合、このような方法は、労働者からの労働契約の解約の申し入れの日から2週間を経過することで労働契約を終了することができるという民法第627条1項の規定に抵触する可能性があります。しかし、中には退職前に会社とトラブルになりたくない、早く退職したいと考える労働者もいることでしょう。そのようなときは、会社の求めに従って競業避止義務の誓約書を提出することもひとつの手です。

その際は、サイン・押印をする前にしっかりと競業避止義務の誓約書を読み、その内容が公序良俗や労働者の利益などに反していないか確認する必要があります。そして、もし疑わしい点があったら、内容について会社と話し合い双方が納得したうえでサインしてください。

4、迷ったら弁護士事務所に相談を

契約内容をしっかり読み理解することは非常に重要なことです。しかし、競業避止義務の誓約書が公序良俗に反していないか、あとで自身の不利益の芽にならないかということを、労働者自身が判断することはなかなか難しいものです。

もし会社が提示してきた競業避止義務の誓約書の内容に疑わしい箇所があった場合は、ご自身で判断せず弁護士にご相談することをおすすめします

労働関連法令に知見があり、会社と労働者間の労働紛争の解決に経験と実績のある弁護士であれば、会社が提示してきた競業避止義務の誓約書を精査し、サインするべきか否かのアドバイスを行います。また、会社が提示してきた競業避止義務の誓約書に明らかな公序良俗違反が見受けられる場合は、その是正のためにあなたの代理人として会社側と交渉することも可能です

5、まとめ

競業避止義務をめぐる労働者と会社のトラブルは非常に多いと考えられます。したがって、会社を辞めるときはあなたの今後の仕事が会社に提出した競業避止義務の誓約書の規定に抵触しないように、事前に弁護士のような専門家にチェックしてもらうことがおすすめです。さらには公序良俗に反する競業避止義務の誓約書かわからないときは、すぐにサインしないことも非常に重要です。

ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは、競業避止に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています