出勤強要する会社に損害賠償請求できる? 法的な対処方法を解説します
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令和2年3月、長時間労働が原因で心筋梗塞を発症した労働者が勤務先である姫路市内の企業を相手取って損害賠償を請求する訴訟を起こしたという報道がありました。当該労働者は時間外労働時間が月118時間を超えることもあったとのことです。
発熱などの体調不良で休みたくても、業務の繁忙度合いによっては会社や上司から出勤を強要されることもあるかもしれません。本コラムでは、会社や上司による出勤強要が持つ問題点、さらに出勤強要にお悩みの方が解決のためにとるべき方法について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、労働者に課されている義務とは?
会社と労働契約を締結することで、労働者はさまざまな義務を負うことなります。そのうち、以下ではもっとも基本的な義務といえる「労働義務」と「服務義務」についてご説明します。
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(1)労働義務
労働契約法第3条第4項では、使用者(会社)だけではなく、労働者も労働契約上の義務を負わなければならないことを規定しています。
その労働者が負わなければならない義務の第一が、労働義務です。労働者は会社と労働契約を締結することで、会社に労働を提供し、その対価として会社から賃金の支払いを受ける法律関係にあります。
したがって、会社に対して雇用目的を達成するために必要な労働の給付義務を負うことになります。労働の給付とは、単純に会社に出勤すればいいというものではありません。会社が命じた仕事を遂行できる状態で出勤しなければならないのです。
このように労働者は、労働契約上の債務として労働義務を負うことになります。そして、労働の提供方法や内容については、会社の指示命令によって決定されます。 -
(2)服務義務
労働者には、使用者である会社の指図や指揮命令に従う「服務義務」があります。
つまり、使用者である会社は必要な業務上の命令と指示を発する権限を有し、労働者にはそれに従って業務に従事する義務があるのです。
したがって、会社が労働者に対して出社し労働することを命令することは、特段不合理なものではないのです。
2、会社側が出勤を強要することは法律違反になることも
前述の通り、労働契約の成立により労働者は会社に対して労働義務や服務義務を負うことになります。しかし、それと同時に、会社は労働者に対して「安全配慮義務」を負うのです。この安全配慮義務により、労働者の事情次第では会社側は労働者の負う労働義務や服務義務などを理由として一方的に出社を強要することはできません。
労働契約法第5条によりますと、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。これは、安全配慮義務の根本的な考え方です。
また、労働安全衛生法第3条第1項では、以下の通り規定しています。
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
したがって、発熱などの症状がある労働者に対してその症状を悪化させかねない出勤の強要は、当該労働者に対する社員への安全配慮義務違反となる可能性があります。
特に、感染力が非常に高い季節性インフルエンザやコロナウイルスが原因と疑われる発熱は、他の労働者にも感染させる可能性があります。そのため、発熱した労働者に対して出勤を強要することは他の労働者に対する安全配慮義務違反にもなり得ます。
この安全配慮義務に違反したとしても、会社に何らかの罰則が科されるわけではありません。しかし、労働者は会社に対し、債務不履行責任(民法第415条)および不法行為責任(同第709条)で、損害賠償を請求できる可能性はあります。
3、出社を強要されたとき、拒否しても大丈夫?
会社から出社を強要され、それを断った場合、懲戒処分や解雇などの不利益を被ることはあり得るのでしょうか。
結論を先に言いますと、その可能性は低いといえます。労働契約法第15条によって、労働者に対して会社が懲戒処分を行うためには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」であることが必要と規定されているためです。
発熱など体調不良を原因とした出社の拒否に対して懲戒処分を行うことは、客観的に合理的な理由と社会通念上相当とする懲戒処分の要件を満たしていないといえるでしょう。
しかし、会社や上司によっては、業務を優先するあまり労働者の体調不良など二の次として引き続き出社を強要してくるかもしれません。もしかしたら、「サボるためにウソをついている」などと言いがかりをつけてくるかもしれません。
しかし、あなたが業務よりも体調を優先すべきと考えるのであれば、欠勤することについては上記の理由から問題ないといえるでしょう。さらに、後日に会社からサボりなどと言いがかりをつけられたときのために、体温計の写真や病院に赴いた履歴を残しておくことをおすすめします。
4、解決方法別、労働問題を相談すべき場所
会社から労働者に対する一方的な出勤強要は、法的に問題が発生するケースもあり得ます。それにもかかわらず、会社や上司が発熱や体調不良など欠勤したいあなたの言い分を聞かず出勤を強要してくる場合は、以下のようなしかるべき機関などに相談して解決を目指すとよいでしょう。
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(1)総合労働相談コーナー
総合労働相談コーナーとは全国の労働局や労働基準監督署内に置かれている相談窓口であり、さまざまな労働問題についての相談を受け付けています。
会社の出勤強要の実態が労働関連法令に違反するものなのか迷うときは、まず総合労働相談コーナーに相談してみましょう。もし総合労働相談コーナーが会社の出勤強要について労働関連法令に違反している疑いがあると判断した場合は、行政指導の権限を持つ労働基準監督署などに連携されます。 -
(2)労働基準監督署
労働基準監督署とは厚生労働省の出先機関であり、会社の労働基準関連法令を遵守しているかどうか監督する業務を行っています。
労働基準監督署の職員である労働基準監督署長および労働基準監督官は、労働基準関係法令の違反などが疑われる会社に対して捜査を行う権限を持ちます。さらに、法令違反が認められ悪質と判断した会社および責任者に対して、逮捕・送検などを行う権限もあるのです。このように、労働基準監督署が持つ労働基準関係法令遵守への監督権限は、とても強いものなのです。
ただし、会社や上司による出勤強要について労働基準監督署に動いてもらいたい場合でも、会社や上司に明らかな労働関連法令の違反が認められる、あるいは会社や上司の労働関連法令違反行為によって労働者に被害が発生していると客観的に立証できない事案については基本的に事件として扱うことができません。そのようなケースの場合、労働基準監督署は積極的に動いてはくれない点に注意が必要です。 -
(3)弁護士
労働基準監督署の動きに期待することが難しそうな事案でも、労働問題の解決に実績豊富な弁護士に相談すればそれが解決の第一歩になることが期待できます。
相談相手としての弁護士が総合労働相談コーナーや労働基準監督署などの公的な相談窓口と大きく異なる点は、弁護士はあなたの代理人になることができることです。
弁護士に相談すれば、各種の法的なアドバイスはもちろんのこと、さらに会社に対して損害賠償を請求するときにおいても会社や上司との交渉だけではなく、裁判上の手続きも行います。
5、まとめ
会社や上司による執拗な出勤強要に悩むあなたにとって、弁護士は問題解決に向けた頼もしいパートナーとなり得ます。
ベリーベスト法律事務所は、労働問題に関するご相談を承っております。出勤強要などでお悩みの際は、ぜひ姫路オフィスまでご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています