会社が突然倒産! 未払いの賃金や退職金を回収する方法を弁護士が解説
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東京商工リサーチの調査によると、令和元年中に兵庫県内で倒産した企業の件数は492件、負債総額は630億6800万円でした。令和2年は新型コロナウイルスの感染防止のための自粛措置が行われたことから、さらに多くの企業が倒産することが予想されています。
倒産した企業で働いていた方にとって、大きな問題になるのが、未払い賃金や退職金の存在です。倒産する企業は、会社の運転資金が尽きて倒産を選択していますので、賃金や退職金が未払いになってしまっている状態は珍しいことではないでしょう。
そこで本記事では、会社が突然倒産して、給与や退職金が未払いになっている方に向けて、給与や退職金を回収する方法を、姫路オフィスの弁護士が解説します。未払い賃金、退職金問題でお困りの方のお役に立てると幸いです。
1、倒産した場合の賃金・退職金を確保するための原則
まずは、企業が倒産することの意味や、賃金、退職金を確保するために知っておくべき基礎知識を解説します。
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(1)企業の倒産とはどのような状態なのか
「企業が倒産した」という状態は、企業が債務(借金や未払いになった家賃や賃料、買掛金など)の支払いができない状態になったことを指します。具体的には、会社を清算する清算型の倒産と、会社を存続させて再生をはかる再建型に分類されます。
いずれの場合も、会社の財産を清算した上で、債権者と呼ばれる、お金を貸した人や、賃料、給与を受け取るべき人に、残った財産を分配します。ただし、ほとんどのケースで、債権者は自身が受け取るべき金額を満額受け取ることは難しいでしょう。 -
(2)給与や退職金などの「労働債権」には先取特権がある
企業の倒産においては、債権者に残った財産が分配されますが、給与や退職金などの債権は、「労働債権」といいます。
代表的な労働債権は以下のとおりです。- 賃金
- 残業代、休日出勤手当
- 解雇予告手当
- 退職金
これらの労働債権は、労働者の生活を脅かすことになるため、他の債権への支払いよりも優先されます。このように、労働債権には「先取特権」が認められています。
裁判所に申し立てて行う、「破産」という手続きでの債権の優先順位は以下のとおりです。労働債権の優先度が高いことがわかります。- ①抵当権等の被担保債権
- ②管財人の報酬、破産手続開始3か月前の未払い賃金、納付期限が破産手続開始前1年以内の税金
- ③納付期限が破産手続開始前1年以前の税金
- ④一般債権
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(3)未払い給与や退職金の回収のためには行動が必須
労働債権は、前述のとおり債権の中では優先順位が高いです。しかし、何もしなくても倒産した会社の財産から支払ってもらえるものではありません。
労働債権を回収するためには、所定の手続きが必要です。手続きを行わなければ、他の債権者たちが労働債権だからと譲ってくれる可能性もありません。
したがって、会社が倒産した場合は、いち早く労働債権を回収する手段を講じる必要があります。
2、差し押さえは可能か?
次に未払い給与や退職金を回収するための方法を解説します。
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(1)先取特権を行使する方法
倒産の際に連想されるケースが多い、いわゆる借金や売掛金などの債権は、「強制執行」という手続きを行わなければ、差し押さえをすることはできません。強制執行のためには、「債務名義」と呼ばれる、裁判の確定判決や和解調書、認諾文言付き公正証書が必要です。
しかし、労働債権は「先取特権」が認められているため、債務名義がなくても強制執行と同様の効力がある、「担保権の実行」という手続きを行うことができます。「担保権の実行」により、裁判所に必要な書類を提出することで、会社の財産の差し押さえが可能となります。ただし、「先取特権」が認められている労働債権も、「担保権の実行」を行わなければ差し押さえはできません。
労働債権の場合は、「強制執行」も可能ではありますが、「債務名義」がなければ、申し立てることができません。強制執行は、スピードが重要となる会社倒産後の未払い給与の回収には向いていませんので、「担保権の実行」を検討することになります。 -
(2)「担保権の実行」のために必要な書類と手続き方法
担保権の実行を申し立てるためには、「未払いの給与や退職金が存在することを証明する書類」を用意する必要があります。たとえば、会社側が、給与が未払いになっていることを認める書類を作成して、署名押印されていれば、それも証拠となり得えます。
ない場合は、以下のものをそろえたうえで、確かに給与が未払いであることを証明することになります。- 就業規則
- 雇用契約書
- 過去の給与明細
- 労働者の銀行通帳
- タイムカードや出勤簿など
担保権を実行する際は、以上の書類とともに、申立書と収入印紙4000円分を用意して、地方裁判所に提出します。
3、未払賃金立替払制度
裁判所に申し立てて、未払い賃金を回収する方法も有効ではありますが、一刻も早く未払い給与を受け取りたい方にとっては、少しスピード感にかける手続きです。また、倒産後は財産がほとんど残っておらず、未払い給与や退職金を受け取れない可能性も大いにあるでしょう。
そこで、役に立つのが、「未払賃金立替払制度」という制度です。ここでは、未払賃金立替払制度の概要、手続きの方法を解説します。
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(1)未払賃金立替払制度の概要
未払賃金立替払制度は、倒産によって賃金が支払われなかった労働者を救済するもので、独立行政法人労働者健康安全機構によって未払い賃金の一部を立て替えてもらえます。
同機構によると、昭和51年に制度が創設されてから、平成31年3月までの間に、約124万人に対して総額約5198億円の立替払いがなされたとのことです。 -
(2)未払賃金立替払制度の利用条件
未払賃金立替払制度を利用するためには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 労災保険の適用事業で1年以上事業活動を行っている事業主に雇用されていたこと
- 倒産 (法律上の倒産もしくは事実上の倒産(中小企業のみ))にともない、賃金などが支払われないまま退職したこと
- 破産手続の申し立てや、事実上の破産の認定申請の6か月前の日から2年の間に退職したこと
- 未払いの賃金等について、破産管財人が証明していること
- 事実上の倒産の場合は、労働基準監督署長が確認していること
- 破産手続開始の決定の翌日から2年以内に請求していること
なお、ここで示す中小企業事業主とは、以下が該当します。
- 一般産業(以下3事業を除く)……資本の額または出資の総額が3億円以下、従業員数300人以下の法人
- 卸売業……資本の額または出資の総額が1億円以下、従業員数100人以下の法人
- サービス業……資本の額または出資の総額が5千万円以下、従業員数100人以下の法人
- 小売業……資本の額または出資の総額が5千万円以下、従業員数50人以下の法人
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(3)立替払いの対象になる賃金とは?
未払賃金立替払制度の対象になる賃金は、給与と退職金です。
賃金は基本給だけでなく、残業代や休日出勤手当、家族手当や通勤手当なども含まれます。対象になる期間は、退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している賃金です。 -
(4)立替払いされる金額は?
未払賃金立替払制度には上限額が設定されています。原則として、「未払賃金の総額の80%」で、年齢ごとに上限額が設定されています。
- 退職日の年齢が45歳以上……立替払上限額296万円
- 退職日の年齢が30歳以上45歳未満……立替払上限額176万円
- 退職日の年齢が30歳未満……立替払上限額88万円
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(5)未払賃金立替払制度の請求方法
「法律上の倒産の場合」に、未払賃金立替払制度を申請する手順は以下のとおりです。
①立替払請求に必要な証明書を請求する
会社の倒産の種類によって、破産管財人や清算人、管財人などに、未払い賃金の存在を証明する書類を請求します。
②請求書類を作成する
管財人等から証明書が発行されたら、立替払請求書及び退職所得の受給に関する申告書・退職所得申請書に必要事項を記載して、独立行政法人労働者健康安全機構に送付します。
③未払賃金立替払決定・支払通知書が送付される
同機構が、書類を確認して未払い賃金の立替払を決定した場合は、支払通知書が送付されます。立替払いされた賃金は、「退職所得」の取り扱いになり、所得税が課税されます。ただし、退職所得控除が受けられますので、全額に所得税が課税される訳ではありません。
勤続年数が20年以下の場合は、40万円に勤続年数をかけた金額が所得から控除されます。たとえば5年勤務していた場合は200万円が控除されますので、200万円までは非課税ということになります。
勤続年数が20年を超える場合は、「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」という計算式で、控除額が算定されます。
4、未払い賃金、退職金の回収は弁護士に相談を
勤務先が倒産して、給与や退職金などを支払ってもらえないという方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
未払い賃金や退職金の回収のために重要なのは、「速やかに行動すること」です。裁判所に対して差し押さえを申し立てる前に、会社との任意の交渉で、賃金や退職金を回収できれば、どの方法よりも最速で未払い給与等を受け取ることができます。ただし、そのためには会社の財産状況を事前に確認しておく必要があります。債権回収を行っている弁護士であれば、これらの手続きをスピーディーに実行できることがあります。
また、交渉で受け取れなかった場合は、弁護士が迅速に差し押さえの手続きに着手します。差し押さえるべき財産がなければ、未払賃金立替払制度を利用したほうがよいなど、早い段階でアドバイスできます。できるだけ早期にご相談いただいたほうがよいケースがほとんどです。ひとりで悩まず、まずはお問い合わせください。
5、まとめ
勤務先が倒産して、未払いの賃金等が発生している場合に、労働者側がとれる措置は以下の3つです。
- 任意の交渉による回収
- 裁判所に差し押さえを申し立てる
- 立替払制度を活用する
いずれの方法が、最適な方法なのかは会社の財産の状況や、未払い賃金の額によって異なります。
倒産による賃金の未払いなどでお困りの方、回収したいとお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士にご相談ください。丁寧にヒアリングした上で、最適な対処法をアドバイスします。ひとりで悩んだりあきらめたりせず、まずはお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています