無期労働契約直前に雇い止め! 労働者が泣き寝入りしないための対策
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姫路市は、労働に関する諸問題についての相談会を、第1・第3木曜日に市民相談センターで実施していることをホームページで案内しています。
契約社員や派遣社員、パートタイマーといった有期労働契約を結んでいる労働者にとって「雇い止め」は重大な問題です。有期労働契約の労働者を守るため、新たに「無期転換ルール」も設けられていますが、適用直前に雇い止めを受けてしまったケースも少なくありません。理不尽な解雇にあっても対応がわからず、泣き寝入りをしている方もいるのではないでしょうか。
本コラムでは、雇い止めに関する基本的な知識を中心に、理不尽な雇い止めに納得できない場合に労働者がとるべき対策について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、「雇い止め」とは? 定義やルールについて解説
契約社員や派遣社員の方が契約更新を受け入れてもらえなかった場合は、会社から「雇い止め」を受けたと判断できる場合があります。
まずは「雇い止め」とはどのような行為なのかを確認していきましょう。
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(1)雇い止めとは?
雇い止めとは、契約社員や派遣社員などのように雇用される期間が定まっている「有期雇用」の労働者について、契約期間の満了をもって更新せず、契約を終了させることをいいます。
雇用する会社側の立場になってみれば、ごく当然のことに感じられるかもしれません。まさしくそのとおりで、雇い止めそのものは違法ではありません。契約期間を満了すれば、基本的にその契約は終了します。
ただし、雇い止めの理由が不当だとみなされる場合は、雇い止めが無効とみなされることがあります。つまり、不当な雇い止めは無効撤回され、雇用が続く可能性があるのです。 -
(2)不当な雇い止めにあたるかは、雇い止め法理によって判断される
どのようなケースが不当な雇い止めとされるかは、これまでに数多く争われてきた、雇い止めに関する裁判の結果に照らして判断されます。数々の裁判によって争われ、蓄積された結果のことを「判例法理」といい、雇い止めに関する判例法理のことを「雇い止め法理」と呼びます。
雇い止め法理のなかで、もっとも広く活用されているのは、次のふたつです。- 東芝柳町工場事件(最高裁:昭和49年7月22日)
- 日立メディコ事件(最高裁:昭和61年12月4日)
いずれも、不当な雇い止めと判断されて労働者の主張が認められた判例です。
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(3)不当な雇い止めを防ぐために設けられた無期転換ルール
不当な雇い止めを防ぐために、平成25年から法改正によって新たに設けられたのが「無期転換ルール」です。
契約社員、派遣社員、パートタイマー、呼び名は違いますがこれらの労働形態はすべて「有期労働契約」となります。
有期労働契約によって雇用されている労働者が、更新をふくめて通算5年を越えて勤務した場合、有期労働から無期労働に転換できるのが「無期転換ルール」です。
注意しなければいけないのは、無期転換ルールは、労働者からの申し出が必要ということです。労働者から無期転換の申し出があると、会社はこれを拒めません。無期転換ルールが適用されることで継続雇用が約束され、安定した生活基盤を築くことが望めます。
厚生労働省は、労働者に無期転換の権利を与えないために、契約期間が満了する直前に雇い止めをすることは、労働契約法の立法趣旨に反するという見解を示しています。また、更新年限・更新回数の制限など、会社が労働者にとって一方的に不利な規則を設けた場合も、雇い止めが不当と判断される場合があると注意喚起しています。
2、雇い止めが制限される働き方
どのような働き方をしている場合に、雇い止めが制限されるのでしょうか?
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(1)更新が当然となり実質上は正社員と同様であった場合
労働契約法第19条1号は「有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇い止めが『解雇』と社会通念上同視できる場合」の雇い止めは認められないと定めています。
たとえば、1年の有期労働契約が、更新を繰り返して10年も続いたとしましょう。
それだけの長きにわたって有期労働契約者として勤務していれば、立場はもはや無期労働契約の正社員と同じであると考えられます。
具体的には、次のような場合が該当します。- 更新回数が多い
- 雇用の通算期間が長い
- 更新手続きが形骸化している、契約書を作成しないなど、契約管理がずさんな状態
この点は、雇い止め法理だけでなく、無期転換ルールによっても労働者の保護が具体的に強化されています。
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(2)契約が更新されるものと期待を抱かせる言動があった場合
同条第2号は「有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合」の雇い止めについては、認められないと定めています。
会社側から「来期も契約更新の予定だ」などと伝えられていたことが証明できれば、雇い止めは認められない可能性が高いです。また、有期労働契約者でも、長期の継続雇用を念頭においた制度である配置転換や休職が適用されている場合は、雇い止めが認められない可能性が高いでしょう。
3、雇い止めを受けた!まず確認するべきこと
不当な理由だと認められる雇い止めは、労働契約法第19条を根拠に無効となります。
もし、あなたが「雇い止めを受けた」という場合は、雇い止めが不当なものではないかを確認しましょう。
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(1)契約書の内容を確認する
雇い止めを受けたら、まずは雇用に関する契約書を確認しましょう。
次回の更新で無期転換ルールの対象となるというタイミングだったのに、突如として契約内容や就業規則の変更を受けた場合。また、労働者に対して一方的に不利な不更新条項が設けられている場合も、不当な雇い止めと判断されることがあります。 -
(2)雇い止めの予告通知を確認する
雇い止めをおこなった会社は、雇い止めの理由などについて明らかにする予告通知を交付する義務があります。雇い止めの理由を確認する意味でも大切ですが、会社が正しい手続きをもって雇い止めをおこなっているのかの判断材料にもなります。
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(3)実際におこなっていた業務の内容を確認する
有期労働契約者といえども、正社員とまったく同じ業務内容を任されているケースは多々あります。
なかには、正社員と同様に配置転換される場合もありますが、実際の業務が無期労働契約の正社員と同等だと評価される場合は、不当な雇い止めだと判断される可能性が高まります。
4、雇い止めに納得できない!労働者がとるべき対策とは?
不当な雇い止めを受けた場合、労働者としてはふたつの道を選択することになります。
- 前回までと同じ条件で有期労働契約者として雇用を求める
- 雇い止めを無効として、雇い止めをされていた期間分の賃金支払いを求める
どちらの道を選択するにしても、労働者がとるべき対策は同じです。
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(1)証拠を集める
雇い止めを撤回させるためには、雇い止めが不当であることの証拠を集める必要があります。
証拠となり得るものとして、次のものがあげられます。- 労働条件などを示す契約書
- 雇用年数や更新回数を記録しているもの
- 更新手続きの内容がわかるもの
- 雇い止めの理由を明らかにする通知書
- 次回の更新を期待させる文書、音声の録音、メールなどの記録
- 他の労働者の更新・雇い止めの状況を明らかにする証言
雇い止めに関する労働問題は複雑になりやすく、裁判に発展すれば必ず具体的な証拠の提出が求められます。雇い止めを受け入れて勤務先を離れてしまうと、証拠収集が難しくなる場合があるので、雇い止めを受ける可能性を感じた時点で証拠収集に努めましょう。
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(2)関係機関に相談する
不当な雇い止めを受けた場合、関係機関に相談するのも解決への糸口となります。
都道府県の労働局や市町村の総合労働相談コーナーを利用するのも有効ですが、こちらは指導・アドバイスにとどまることが多く、根本的な解決はあまり期待できません。
労働基準監督署に相談すれば、会社と労働者が話し合いをする場を設けてくれる場合があるので、まずは管轄の労働基準監督署に相談することをおすすめします。 -
(3)弁護士に依頼する
雇い止めに納得できず、会社に雇用や賃金支払いを求める場合は、労働問題の対応実績が豊富な弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士のアドバイスがあれば、雇い止め法理に基づいて有効な証拠を集めることができます。また、弁護士は労働者の代理人として会社と交渉できる立場なので、法的な知見が深い専門家が交渉に立つことで、会社はいい加減な弁明ができなくなります。
とくに、契約更新が形骸化しているような会社や、不当な雇い止めが常態化している会社では、弁護士に依頼することで話し合いを有利に進めることが期待できるでしょう。
5、まとめ
契約社員・派遣社員・パートタイマーの方にとって、雇い止めは重大な問題です。
理不尽な雇い止めを受けることで、職を失い、収入を断たれてしまえば、その後の生活に大きな不都合が生じます。国は雇用の安定化をはかるために、不当な雇い止めを防ぐ対策に力を注いでいる最中です。雇い止めが不当だと判断される場合は、泣き寝入りをせず、労働者としての権利を主張することが大切でしょう。
ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは、不当な雇い止めをはじめとした労働問題の対応実績が豊富な弁護士が、有期労働契約者の方を徹底的にサポートします。
無期転換ルールの適用を目の前に控えての雇い止めや、不当な労働条件に関するトラブルでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています