内定取り消しを言われたら? 過去の事例や対処方法を解説
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2020年度に兵庫県内12カ所の総合労働相談コーナーが受けた労働相談件数は5万1450件で、2019年度と比較して8.7%増加しました。
労働問題の中には、内定に関するものも寄せられているのではないでしょうか。たとえば、せっかく決まった内定を会社に取り消されてしまうケースは、内定者の生活にも直結する深刻な問題といえます。
法的には、会社は自由に内定を取り消してよいわけではありません。合理的な理由のない内定取り消しは違法・無効ですので、弁護士を通じて会社への反論も検討してみましょう。
今回は内定取り消しについて、違法性の判断基準や過去の裁判例、違法な内定取り消し似遭った場合の対処法などをベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和2年度 個別労働紛争解決制度施行状況」(兵庫労働局)
1、内定取り消しとは│違法性はあるか?
まずは内定取り消しに関する基礎知識として、そもそも「内定」とは何か、また内定取り消しが違法となる場合はあるのかについて、法的な整理を確認しておきましょう。
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(1)内定とは? 内々定との違い
「内定」とは、内定者が将来会社に入社することについて、会社と内定者の間で合意に至った状態を意味します。
法的には、内定の時点で「始期付解約権留保付労働契約」が成立するものと解されています(大日本印刷事件、最高裁昭和54年7月20日判決)。
「始期付」とは、将来のある時点から契約が開始することを意味します。内定の場合、労働契約の「始期」は入社日です。
「解約権留保付」とは、当事者の一方が契約の解約権を有していることを意味します。
内定の場合、会社が解約権を留保しているものと解されており、解約権の行使が「内定取り消し」に当たります。
なお就職・転職活動では、内定と区別して「内々定」という言葉が使われることもあります。内々定とは、「将来のある時点で労働契約の締結を申し込む(オファーを出す)」という会社側の意思表示に対して、内々定者側が承諾した状態を意味するのが一般的です。
内々定の段階では、正式な労働契約締結のオファーが行われていないため、労働契約はまだ成立しないものと解されます。この点が、すでに労働契約の成立が認められる「内定」との大きな違いです。 -
(2)内定取り消しは違法となる場合あり
内定に関する法的な整理の中で重要なポイントは、内定の時点で労働契約が成立しているということです。成立した契約は当事者双方を拘束し、原則として勝手に解約することはできません。
最高裁の判例上、会社側は内定者との労働契約につき解約権を留保していると解されます。
しかし後述するように、他の会社への就職機会を放棄して内定を受諾した内定者にとって、内定取り消しを安易に認めることはあまりにも酷です。
そのため、会社による解約権の行使には一定の制限が加えられており、内定取り消しが違法となる場合もあると解されています。
2、内定取り消しの違法性判断基準│適法なケース・違法なケース
内定取り消しは、使用者が自由に行うことができるものではありません。
内定を受けた段階で、内定者側は就職活動(転職活動)を打ち切り、他の会社への就職機会を放棄するのが一般的です。それなのに、内定取り消しによってはしごを外すことを安易に認めてしまっては、内定者にとって非常に酷な結果となってしまいます。
最高裁の判例では、内定取り消しの適法・違法を判断するための基準が示されており、要件を満たさない内定取り消しは違法・無効です。
内定取り消しの違法性判断基準と、適法な内定取り消し・違法な内定取り消しの例を見てみましょう。
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(1)内定取り消しの違法性判断基準
最高裁昭和54年7月20日判決では、内定取り消しが適法と認められるための要件として、以下の2つを挙げています。
- ① 内定取消事由が、使用者側にとって採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること
- ② 採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できること
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(2)適法な内定取り消しの例
最高裁判例の基準に照らすと、以下の事情がある場合については、内定取り消しが認められる可能性が高いと考えられます。
- 内定者が重要な経歴、職歴を詐称していた場合
- 内定者の職務上の経験に関するアピールが、事実に反してあまりにも過剰だった場合
- 内定者が職務上必要な資格を有しておらず、そのことについて会社にウソをついていた場合
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(3)違法な内定取り消しの例
これに対して、以下に挙げる事情を理由とする内定取り消しについては、解約権の濫用として違法・無効になる可能性が高いと考えられます。
① 内定者が内向的な性格であること
② 内定者の実際の性格が、面接時の印象と違ったこと
これらの事情は、内定通知を出す前に内定者と接する機会を増やせば、会社にとって知り得た内容と考えられます。
③ 内定者がシングルマザーであること
④ 内定者に軽微な犯罪の前科があること
資質・性格・能力などを後日の調査・観察によって見極めるという解約権留保の趣旨に鑑みても、これらの事情は、内定者の資質・性格・能力と直接関係がない事柄であり、内定取り消しの理由として客観的合理性・社会的相当性が認められないと考えられます。
3、内定取り消しが認められた裁判例・認められなかった裁判例
実際に過去の裁判例において、内定取り消しが認められた事例・認められなかった事例をそれぞれ紹介します。
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(1)内定取り消しが認められた裁判例
大阪高裁昭和48年10月29日判決(日本電信電話公社事件)では、内定者が公安条例違反の現行犯で逮捕され、起訴猶予処分を受けたことを理由に行われた内定取り消しの有効性が争われました。
大阪高裁は、内定者が見習社員として適格性を欠くと認めるべき事由がある場合にも、使用者が内定取り消しを行い得るとしました。
そのうえで、内定者が非合法活動を誇示し、武力闘争を掲げる組織に所属していることに加えて、実際に無届けデモを行う違法を犯していることを指摘しました。
これらの事情に鑑み、職員として稼働させた場合には職場の秩序が乱され、業務が阻害される具体的な危険性があるという使用者側の判断は妥当であるとして、内定取り消しは有効と判示しました。 -
(2)内定取り消しが認められなかった裁判例
内定取り消しの基準を示したリーディングケースである、前掲の最高裁昭和54年7月20日判決では、会社が内定者の性格を理由に行った内定取り消しの有効性が問題となりました。
会社は内定者について、「グルーミー(陰気)な印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかもしれないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかった」と主張しました。
しかし最高裁は、グルーミーな印象であることは当初からわかっており、その段階で調査を尽くせば従業員としての適格性を判断できたと指摘して、内定取り消しは解約権の濫用に当たり違法・無効と判示しました。
4、不当な内定取り消しに遭った場合の対処法
内定先の会社から不当に内定を取り消された場合、まずは会社の主張する取り消しの理由を精査することが大切です。
そのうえで、会社の主張の問題点を突く形で、弁護士を通じて内定取り消しの無効を主張しましょう。
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(1)内定取り消し理由の証明書発行を請求する
内定取り消しは、会社による一方的な労働契約の打ち切りであり、法的には解雇と同等であると解されます。
そのため、内定者は会社に対して、内定取り消し理由の証明書の発行を請求することが可能です(労働基準法第22条第1項)。
証明書に記載された内容は、会社が主張する正式な内定取り消しの理由に当たります。内定者としては、前述の最高裁判例に基づく基準に照らして、会社の主張する内定取り消しの理由に潜む問題点を洗い出しましょう。 -
(2)弁護士を通じて内定取り消しの無効を主張する
会社の主張する内定取り消し理由への反論が組み上がったら、実際に会社に対して内定取り消しの無効を主張しましょう。
内定者側の主張が合理的であれば、会社側が一転して内定取り消しを撤回するか、少なくとも会社から解決金の支払いを受けられる可能性が高いです。
内定取り消しの無効を主張するに当たって、会社との交渉や労働審判・訴訟などの手続きへ臨む際には、弁護士を代理人とすることをおすすめいたします。弁護士を通じて対応することで、法的に妥当性のある主張を展開できるほか、ご自身で会社と交渉するストレスも大きく軽減されるでしょう。
不当な内定取り消しを受けてしまった場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
会社による内定取り消しは、決して自由に認められているわけではありません。内定当時に会社側が知ることのできた事情などを理由に行われた内定取り消しは、違法・無効となります。
会社による理不尽な内定取り消しに対抗するためには、弁護士に相談して、過去の事例を踏まえた対応を検討することをお勧めいたします。
ベリーベスト法律事務所では、内定取り消しなどの企業側とのトラブルにつき、労動者の方からのご相談を受け付けております。内定先から不当な内定取り消しの通知を受けた方は、お早めにベリーベスト法律事務所 姫路オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています