クビになったら退職金はどうなる? 懲戒解雇でも受け取れる条件とは
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姫路市を管轄する兵庫労働局が公表している「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争相談件数のうち、雇用契約の終了に関するもの(自己都合退職、解雇、退職勧奨、雇止め)が全体の約3割を占めています。
長年会社に勤務している労働者の場合、会社を辞めることになったときには、会社から退職金が支給されることがあります。退職金は、老後の資金や再就職先を決めるまでの生活費として考えている方も多くいるはずです。したがって、退職金が支払われることに対する期待は一定程度保護される必要があります。
もっとも、会社を辞める理由には、定年や円満退職だけでなく、懲戒解雇によって会社を辞めなければならないこともあります。このような場合には、退職金は受け取れることができるのでしょうか。本コラムでは、会社を解雇された労働者が退職金を受け取れることができるかどうかについて、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも退職金制度があるかどうかを確認
退職金は、会社を辞めるときには当然のようにもらえると思っている方が多いだろうお金の一種です。そもそも退職金とは、どのようなときに支払われる金銭なのでしょうか。以下では、退職金についての基礎知識について説明します。
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(1)退職金とは
退職金とは、会社を退職した労働者に対して会社が支払う金銭のことをいいます。退職金の支給方法としては、退職時に一時金として一括で支払う方法と、定期的に一定の金額を支払う年金払いという2つの方法があります。前者を「退職一時金制度」、後者を「企業年金制度」と呼び、これらを総称したものとして退職金制度が存在しています。
退職金が支給されるのは、会社を定年で退職したときに限らず、自己都合による中途退職、解雇、死亡などの場合があります。 -
(2)退職金が支給される条件とは
退職金は、給料のように会社で働いていれば当然に支払われるというものではありません。意外かもしれませんが、退職金を支給するか否か、いかなる基準で支給するかについては、基本的には会社の自由であるとされています。
ただし、労働協約、就業規則、労働契約などによって退職金に関する支給条件を明確に定めている会社もあるでしょう。また、労使慣行として一定の支給基準によって退職金が計算されるという実態があるときには、法的な権利として退職金請求権が発生します。
このような就業規則などによる明確な規定か労使慣行がない限り、退職したとしても、労働者は退職金を請求することができません。
企業としては、退職金制度を設けることによって、優秀な人材を採用し、長期的に雇用することができるというメリットがあります。だからこそ、多くの会社においては退職金制度を採用し、就業規則などによって支給基準を明記しているのです。
会社を退職する際に退職金が支給されるかどうか不安に感じた従業員の方は、まずは、会社に退職金規程が整備されているかどうかを確認してみるとよいでしょう。
2、就業規則に不支給条項・減額条項はある?
会社の就業規則などに退職金の支給規定がある場合には退職金を請求する権利があります。もっとも、労働者の非違行為などが原因で懲戒解雇となったときにも、退職金はもらうことができるのでしょうか。
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(1)退職金の不支給条項・減額条項を設けることは可能
退職金は、賃金の後払い的性格を有していることから、退職金の不支給条項または減額条項を設けることは、労働基準法24条1項の賃金の全額払の原則との関係で問題となります。
しかし、退職金は、勤続年数が増えるにつれて増加することや、自己都合退職のほうが会社都合退職よりも支給率が低いことから、退職金には功労報償的性格もあります。また、退職金は、具体的な退職金額が確定するのは退職時に退職金規定や退職金不支給・減額条項を適用して初めて発生するものです。つまり、すでに発生した賃金債権を控除するものではないということを知っておきましょう。
したがって、退職金の不支給条項・減額条項を設けること自体は、賃金の全額払の原則には反しませんので、そのような条項を設けること自体は有効です。 -
(2)退職金の不支給・減額措置の有効性
退職金の不支給条項・減額条項が存在していたとしても、具体的な場面でその条項を適用すること自体、有効かどうかが問題となることがあります。
多くの裁判例では、賃金の功労報償的性格に着目しています。つまり、退職金の減額・不支給規定は、労働者がそれまで勤続した功労を抹消または減殺してしまうほどの著しい背信行為があった場合に限定して適用するものとしているのです。
退職金には賃金の後払い的性格もありますので、全額不支給とすることは極めて限定的となります。多くのケースでは、退職金の不支給・減額規定を限定解釈して、労働者の非違行為の程度などに応じて一定程度の減額を認めることによって妥当な解決を図ることになるでしょう。
退職金の不支給・減額がされるケースがないわけではありません。たとえば、労働者の著しい非違行為を原因とする懲戒解雇によって会社を退職するケースなどです。懲戒解雇以外の理由で会社をクビになったということだけであれば、退職金の不支給や減額は認められない可能性があります。
なお、退職金を減額・不支給とするためには、その旨の条項が就業規則などによって規定されていることが必要になります。労働者の非違行為を理由に懲戒解雇をする場合であっても、退職金の減額・不支給条項が存在しないときには、退職金の減額・不支給は認められません。
3、リストラの場合は上乗せされる可能性も!
リストラとは、事業を再構築するために経費を削減することをいい、一般的には、人件費の削減をするための人員整理を指すケースが多いと考えられます。
会社の就業規則などで退職金規定が整備されているのであれば、リストラによって解雇されたときでも会社に対して退職金を請求することができるでしょう。
もっとも、リストラにあたっては、通常、その前段階として、希望退職者を募集することが多いと考えられます。希望退職者を募集するにあたっては、退職金の上乗せなどの優遇措置を設けることもあります。つまり、その制度を利用することによって、退職金に上乗せした金額を受け取れることもありうるでしょう。
退職金の金額については、退職金規定などによって、その計算方法が決まっていますので、会社との交渉によって上乗せができるものではありません。そのため、リストラの対象なることが明らかである場合には、解雇通知を受ける前に早期退職による退職金の優遇措置を得るということも検討してみてもよいかもしれません。
なお、リストラをするときであっても、会社は解雇予告手当を支払う必要がありますので注意が必要です。
4、あるはずの退職金がもらえないときには弁護士に相談を
会社をクビにされ退職金が支給されなかった場合でも、退職金規定の有無や解雇の理由によっては会社に対し、本来支払われるべき退職金を請求することができる場合があります。そのようなときには、以下の理由から弁護士に相談をするとよいでしょう。
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(1)解雇の有効性の判断が可能
会社をクビにされたといっても、どのような理由によって解雇をされたかによって、その有効性を判断する基準が異なってきます。解雇には、大きく分けて普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類があり、普通解雇は労働契約法16条によって、懲戒解雇は労働契約法15条及び同法16条によって、整理解雇は判例法理によってその解雇の有効性が厳格に判断されることになります。
退職金の不支給・減額を争う前に、そもそも解雇の有効性を争うことができる可能性があります。そのためには、まずは会社に解雇の理由を明らかにしてもらうために、解雇理由証明書の交付を求めるようにしましょう。
解雇された労働者から交付請求があったときには、会社は必ず解雇理由証明書を交付しなければならないとされています。解雇理由証明書を持って弁護士に相談をすることで、会社との争い方について適切なアドバイスをもらうことができます。 -
(2)会社との交渉を一任することが可能
解雇にあたって退職金を不支給・減額とした会社に対して、その有効性を争うためには、まずは会社と話し合いをしなければなりません。
しかし、退職金の不支給・減額を自ら決定した会社が労働者からの申し入れを素直に聞くとは考えにくいです。労働者個人から会社に対して申し入れしたとしても、さまざまな理由をつけて退職金の支給を拒まれることが予想できます。
会社との交渉については、法律の専門家である弁護士が労働者の代理人として行ったほうが、より適切に交渉を進めることができます。会社としても弁護士から説得的な理由を付して退職金の支給を求められれば、再検討を余儀なくされるでしょうし、それによって、退職金の支給に応じるということも考えられます。 -
(3)必要な証拠についてアドバイスをもらえる
会社に対して退職金を請求するためには、会社に退職金規程が整備されているかどうか、退職金の不支給・減額条項は存在するか、退職金の不支給・減額条項の適用は有効かどうかについて、検討する必要があります。
そのためには、就業規則などの退職金関連規程の取得、解雇理由証明書の取得などが必要になります。また、解雇の理由によっては、その他にも必要となる証拠があり、それについては、個別具体的な事案によって異なるため、弁護士に具体的な事案を相談しなければ判断することができません。
証拠の有無が退職金請求にあたっては重要なポイントになりますので、有利に退職金請求を進めるためにも、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
5、まとめ
退職金については、賃金の後払い的性格だけでなく、功労報償的性格から退職金の金額を減額するということも認められています。しかし、どの程度の減額が相当かについては、当該労働者の非違行為の程度との関係で変わってきますので、事案に応じて個別具体的に判断しなければなりません。
会社をクビになり退職金が支給されなかったという労働者の方は、場合によっては会社に対して本来支払われるはずであった退職金を請求することができる場合があります。まずは、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでご相談ください。
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