令和元年会社法改正の内容は? 主な変更点と気をつけるべきポイント
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令和元年経済センサス基礎調査(令和元年経済センサス‐基礎調査 甲調査 新規把握事業所に関する集計 都道府県別結果 28 兵庫県)の結果によると、姫路市には、法人が経営する事業所数が1400を超えることがわかりました。
令和元年12月4日に、会社法の一部を改正する法律が国会で成立しました。新設予定の「株主総会資料の電子提供制度」を除き、改正会社法は令和3年3月1日から施行されています。本コラムでは、令和元年会社法改正の内容について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、令和元年会社法改正の目的・概要
まずは、令和元年会社法改正の目的と概要について、その大枠を理解しておきましょう。
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(1)会社法改正の目的は?
前回の平成26年(2014年)会社法改正時に、企業統治にかかる制度の在り方について引き続き検討することの必要性が指摘され、その後も会社法のさらなる見直しについて議論が重ねられてきました。
今回の令和元年(2019年)会社法改正では、会社をめぐる社会経済情勢の変化を考慮しつつ、株主総会の運営および取締役の職務執行の適正化などを目的として、さまざまなルールの変更・追加が行われています。 -
(2)令和元年会社法改正による主な変更点一覧
令和元年会社法改正において、変更・追加が予定されている主なルールは以下のとおりです。
- ①株主総会に関する規律の見直し
・ 株主総会資料の電子提供制度の創設(改正会社法第325条の2~第325条の5)
・ 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備(同法第305条第4項、第5項) - ②取締役等に関する規律の見直し
・ 取締役の報酬に関する規律の見直し(同法第361条第1項、第7項、第202条の2、第236条第3項、第4項、第409条第3項)
・ 会社補償に関する規律の整備(同法第430条の2)
・ 役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備(同法第430条の3)
・ 社外取締役に関する規律の見直し(同法第327条の2、第348条の2) - ③社債に関する規律の見直し
・ 社債の管理に関する規律の見直し(同法第714条の2~第714条の4、第737条第1項)
・ 株式交付制度の創設(同法第2条、第774条の2~第774条の11、第816条の2~第816条の10) - ④その他(同法第311条第4項、第5項、第331条第1項、第331条の2、第706条第1項、第930条~第932条)
- ①株主総会に関する規律の見直し
2、令和元年会社法改正で新設された「株主総会資料の電子提供制度」とは?
株主総会資料の電子提供制度は、施行日は現状未定であるものの、会社にとって株主総会の運営コストを大きく抑えられる可能性がある有益な制度です。
以下では、株主総会資料の電子提供制度の概要について解説します。
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(1)株主総会資料を株主の同意なく電子提供できるようになる
現行の会社法上、インターネットなどを用いて株主総会資料(株主総会参考書類・計算書類・事業報告など)を株主に提供するためには、株主の個別承諾が必要です。
株主総会資料の電子提供制度が導入されれば、定款への規定などの後述する所定の手続きをとることによって、会社が株主の同意をとることなく、株主総会資料を電子提供することが認められます(改正会社法第325条の2、会社法施行規則95条の2)。
これによって、会社はすべての株主に対して株主総会資料を郵送する時間的・経済的コストを削減することが可能になります。 -
(2)株主総会資料を電子提供する際に必要な手続きが定められた
株主総会資料を電子提供しようとする場合、会社は、電子提供の対象となる資料を定款で定めたうえで、その内容を登記しなければなりません(改正会社法第911条第3項第12号の2)。
また、書面や電磁的方法による議決権行使が可能である旨を定めた会社、および取締役会設置会社については、株主総会の日から3週間前、または株主総会の招集通知を発した日のいずれか早い日から、株主総会資料の電子提供を開始する必要があります(同法第325条の3第1項)。
この電子提供は、株主総会の日から3か月後まで継続しなければなりません。 -
(3)株主は書面交付請求も可
インターネットなどに不慣れな株主を救済するため、株主には従来通り、株主総会資料を書面で交付するように、会社に対して請求する権利が認められています(改正会社法第325条第1項)。
3、令和元年会社法改正により株主総会実務が受ける影響
すでに解説した株主総会資料の電子提供制度をはじめとして、令和元年改正会社法は、従来の株主総会実務を改善するポジティブな影響を与えることが期待されています。
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(1)株主総会資料の電子提供制度による郵送コストの低減
株主が多数の会社では、株主総会資料の郵送にかかる手間・人件費・郵送費は膨大であり、少なからず会社にとって負担になっています。
株主総会資料は議決権行使の参考となる重要な書面なので、すべての株主に確実に行き渡らせる必要があります。
他方で、今日ではインターネットが広く普及しており、これを活用することで、企業にとってのコスト削減を実現できる可能性があります。
株主総会資料の電子提供制度が適切に導入されれば、大部分の株主に対する郵送コストをカットしつつ、インターネット弱者に対しては紙の資料を郵送してカバーする形で、適正手続きとコストの合理化という両方のメリットを実現することが可能です。 -
(2)提案議案数の制限による総会進行の円滑化
改正前の会社法に基づく株主総会では、ひとりの株主が膨大な数の議案を提案するなどして、株主総会の議事を妨害する事案が散見されました。
株主に認められた株主提案権は重要な権利ですが、一方で株主総会の議事進行を円滑化することも、株主全体にとっての利益の観点から重要です。
そこで改正会社法では、株主が提案できる議案の数を10までとする制限が新たに設けられました(改正会社法第305条第4項、第5項)。
この改正により、無益な議案が提出されることを抑制し、株主総会の議事進行が円滑化することが期待されます。
4、令和元年会社法改正により取締役・取締役会が受ける影響
令和元年会社法改正では、取締役の職務執行の適正化も大きなポイントのひとつとなっています。
以下では、改正によって取締役・取締役会に関する実務が受ける影響について解説します。
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(1)取締役の報酬に関する情報開示の充実
取締役の報酬は、株主総会においてその総額を決定した後、個別の取締役に対する配分は取締役会または代表取締役が決定するのが一般的です。
しかし取締役の報酬は、職務執行のインセンティブを付与する手段として重要であるため、株主によるモニタリングを及ぼす必要があります。
そこで上場会社等については、取締役の個人別報酬の内容が株主総会で決定されない場合、取締役会がその決定方針を定め、その概要を開示しなければならないルールが新たに規定されました(改正会社法第361条第7項)。
さらに、取締役に対して付与される株式やストックオプションが、会社法上の報酬として明確に規定され、その上限数が株主総会の決議事項となりました(同条第1項)。 -
(2)上場会社では社外取締役の設置が完全義務化
改正前の会社法では、上場会社であっても、社外取締役の設置は法律上の義務ではありませんでした。
しかし上場規定との関係で、社外取締役を設置しない場合には合理的な説明を行うことが必要であり、実際にはほとんどの上場会社が社外取締役を設置している実情があります。
今回の会社法改正では、上場会社における社外取締役の設置が完全義務化されました(改正会社法第327条の2)。
すでに社外取締役を設置している会社にとっては実務上の影響はありませんが、法律上も社外取締役の設置が義務化されたことにより、外国投資家に対して会社制度の透明性をアピールする狙いがあると考えられます。 -
(3)会社補償・D&O保険に関する見直し
役員等の責任を追及する訴えが提起された場合に備えて、会社が費用や賠償金を補償したり、会社役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料を拠出したりすることが一般的に行われています。
しかし会社補償やD&O保険は、本来会社と役員の間に利益相反を生じることから、一定のルール化が必要と考えられます。
そこで改正会社法では、会社と役員の間の補償契約の締結や、会社によるD&O保険への加入については、株主総会または取締役会の決議を必要としました(改正会社法第430条の2第1項、第430条の3第1項)。
その他、補償契約やD&O保険の内容についても、改正会社法において詳細なルールが定められています。
5、まとめ
令和元年改正会社法によるルール変更に合わせて、各企業は株主総会・取締役会をはじめとする自社のオペレーションを見直す必要があります。
新ルールに対して適切に対応するためには、弁護士によるリーガルチェックを受けることが有効です。
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