上司に殴られた! 暴行の加害者に対して慰謝料請求を行う手順とは

2021年08月19日
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上司に殴られた! 暴行の加害者に対して慰謝料請求を行う手順とは

令和2年11月、同僚に暴行を加えた姫路市の職員が懲戒処分を受けたという報道がありました。

他人への暴力は、たとえ相手が怪我をしなくても罪に問われる犯罪行為です。では、暴力をふるった加害者や、それを黙認していた会社などに対して慰謝料は請求できるのでしょうか。今回は姫路オフィスの弁護士が、暴行の慰謝料請求を行う方法などについて解説します。

1、暴行の加害者が負うべき法的責任とは

刑法上の暴行とは、人に対して暴力を加えたが相手が怪我をしなかった場合に成立する犯罪です。したがって、あなたが上司の暴力を受けたのであれば、怪我をしていなければ暴行罪に、怪我をした場合は傷害罪を問える可能性があります。

暴行罪の刑罰は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。傷害罪の刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。ここでは、負傷したかどうかによって刑罰に差があります。

暴行罪や傷害罪として、加害者に罪を問いたいのであれば、被害者が警察に被害届や告訴状を提出する必要があります。

暴行行為をした加害者は、これらの刑事罰とともに、加害者による不法行為によって被害者が受けた被害状況によって、民事上の責任も負わなければなりません。

2、会社で上司から暴行を受けたら慰謝料は請求できる?

上司から暴行を受けた場合、慰謝料の請求が可能となるケースが一般的です。ただし、慰謝料などが認められる内容は、状況によって大きく異なります。

慰謝料とは、犯罪などの不法行為によって被害を受けた場合に請求できるお金の一部です。事件や事故の加害者が被害者の損害を賠償するために支払うお金のことを「損害賠償金」といいます。損害賠償金の内訳は事案によって異なりますが、怪我の治療費や通院の交通費、通院や怪我によって会社を休んだ場合の休業損害、そして慰謝料などです。他方、示談金とは、損害賠償金や慰謝料を含め、示談が成立した際に支払われるお金を指します。

たとえば、上司による暴力によって怪我をしていない場合は、治療費等は発生していません。そこで、請求できる損害賠償金・示談金は慰謝料のみということになります。暴行罪の慰謝料の相場は、暴行の度合いや悪質性、ご自身の処罰感情、相手側の支払い能力によって大きく異なるため一概にはいえないでしょう。感情的にも多額を請求したいと考えるかもしれませんが、場合によっては恐喝のように受け取られてしまう可能性は否定できません。どの程度の額で交渉すればよいのかなどについては、弁護士に相談することをおすすめします。

上司の暴行によって怪我をしている場合は、もちろん治療費の請求が可能となります。さらには、慰謝料も高額になる傾向があります。怪我による後遺障害が残った場合は、後遺障害の慰謝料や逸失利益等も請求できる場合があります。怪我の度合いが重い場合は、早期に弁護士に依頼した上で上司に適切な手段にて慰謝料を請求しましょう。

3、相手に慰謝料を請求する方法とは

次に、上司に慰謝料を請求する方法を解説します。これからご自身で慰謝料を請求しようと考えている方はぜひ参考にしてください。

  1. (1)証拠を確保する

    暴行を加えた上司に慰謝料を請求するためには、「証拠」が必要となります。特に怪我をしておらず診断書を取得できない暴行においては、暴行が確かにあったことを立証できる証拠が重要です。

    会社内での暴力であれば、社内監視カメラの映像や同僚や部下、上司などの証言が証拠となり得ます。会社外で上司から暴力を受けた場合は、暴力を受けたことを第三者に知らせたメッセージや個人的な日記でもよいでしょう。証拠が裁判でも通用するかどうかは、弁護士に相談して確認しておくほうが確実です。

  2. (2)内容証明等で慰謝料請求の意思を通知する

    暴行の証拠が確保できたら、内容証明郵便で慰謝料を請求する内容の書面を送付しましょう。内容証明郵便とは、郵便局が提供する郵便サービスのひとつで、送付した文書の内容を郵便局が証明するものです。送付する文書の写しとなる「謄本」を郵便局が保管しておきます。

    内容証明郵便によって、「請求した内容」を公的に立証できますので、のちの裁判等で有利に働くこともあります。また、内容証明郵便自体に法的な効力はないものの、内容証明郵便を送付することで、心理的圧力を与えることが可能です。特に弁護氏名による内容証明郵便の場合は、それだけで「対応しないと大変なことになる」という印象を与えられますので、より効果的です。

  3. (3)被害届や刑事告訴を検討する

    証拠の確保や慰謝料請求と同時に検討すべきなのが、被害届や刑事告訴状の提出です。暴行の現場を警察が見ていたり、第三者が通報したりしていなければ、暴行の事実を警察等は知りません。ですので、警察に被害届や告訴状を提出することも検討しておきましょう。

    刑事事件として捜査や取り調べを受けることになると、刑事罰を回避したいと考える加害者が、示談交渉を申し入れてくるケースが少なくありません。

  4. (4)示談交渉を行う

    加害者に内容証明郵便を送付したら、示談交渉のスタートです。暴行の示談交渉のメインは受け取る示談金=慰謝料の金額になります。相手が示談金の支払いに了承すれば示談書を取り交わして、示談金を受領することで示談が成立します。示談の際は、示談金だけでなく今後の禁止事項なども盛り込んでおくとよいでしょう。

  5. (5)相手が示談交渉に応じなければ損害賠償請求訴訟の提起

    相手が示談交渉に応じず、慰謝料を支払う余地がない場合は、損害賠償請求訴訟の提起などの法的手段を検討することになります。

  6. (6)示談に応じる場合は、示談書の取り交わし

    上司が、慰謝料の支払いを認め示談を成立させる意思がある場合は、示談書を作成して双方が署名捺印します。示談書には、暴行を加えたことを認める文言や被害に遭った日時、慰謝料の請求金額や支払い方法、期限などを記載しておきます。

  7. (7)慰謝料を受け取る

    上司と示談書を取り交わしたら、慰謝料の支払いを待ちます。ただ、上司に現金がない場合は、分割払いや未来の期日での支払いになりますので、慰謝料が支払われるまでは気が抜けません。万が一慰謝料が支払われなかった場合は、電話や文書で督促をして支払いを促す必要があります。

4、上司に暴行を受けたら弁護士に相談すべき?

上司から暴行を受けた場合は、ご自身で対応しようとせず弁護士に相談すべきです。その理由は以下の4点です。

  1. (1)上司との示談交渉を一任できる

    暴行を加えてきた上司とは会話をすることすら苦痛であり、大きなストレスになります。暴行の恐怖によって思うように交渉できない可能性も大いにあります。

    部下と上司という立場の違いによって、しっかりと自分の言い分を主張できず泣き寝入りになるおそれもあるでしょう。しかし、弁護士であれば依頼者の代理人となって毅然とした対応が可能です。

  2. (2)慰謝料請求の成功確率が高まる

    弁護士に慰謝料請求を依頼した場合、ご自身で行うよりも慰謝料請求に成功する可能性が高くなります。弁護士は、法律と交渉の専門家です。多くの方は、弁護士からの請求というだけでプレッシャーを感じ慰謝料を支払う姿勢を見せます。

  3. (3)法的に有効な示談内容で交渉できる

    弁護士に慰謝料請求の交渉を依頼することで、法的に隙のない示談が可能となります。

    暴行の示談交渉においては、適切な慰謝料の請求だけでなく、今後の禁止事項等もしっかりと決めておく必要があります。たとえば、今後は暴力を加えないことや接近を禁じることなどです。また、示談の成立によって、警察への告訴を取り消す場合はその旨も記載しておかなければなりません。慰謝料の支払いが即時ではなく後日になる場合や分割払いになる場合は、不払いについての対策も講じておく必要があります。

    弁護士であれば、考えられるすべてのリスクを考慮して、適切な示談内容で示談を進めることができるため、後日トラブルが発生する可能性を最低限におさえることが可能です。

  4. (4)上司への慰謝料請求以外の方法も検討できる

    上司による暴行が、会社内や業務中に行われた場合は、会社にも慰謝料を請求できる可能性もあります。日頃から暴力が行われており、会社側が黙認していたなどのケースでは、慰謝料の請求が認められるケースが少なくありません。

    会社への慰謝料請求については個別の事情によって、請求の可否を判断する必要がありますので弁護士に依頼の上、上司個人と会社への慰謝料請求を検討しましょう。

    また、上司による暴行が日常的に行われている、暴行だけでなく暴言もあったなどの場合は、上司の行為はパワハラに該当する可能性もあります。このように、弁護士に依頼することで上司への慰謝料請求だけでなく、会社への慰謝料請求やパワハラによる損害賠償請求なども検討可能ですので、まずは弁護士にご相談ください。

5、まとめ

相手が上司からであろうと、暴行を受けた場合、慰謝料の請求が可能となります。上司の暴力によって怪我をしている場合は、怪我の治療費と慰謝料、怪我がなかった場合は慰謝料が主な損害賠償金の内訳です。

上司が慰謝料の支払いに応じない場合は、弁護士に交渉を一任するなどして毅然として対応しましょう。また、状況によっては上司だけでなく会社への慰謝料請求も可能となります。暴行の慰謝料請求は、警察への被害届の提出と並行して行うなど、繊細なバランス感覚が求められますので、弁護士にご相談ください。

ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは、暴行の慰謝料の請求に関する相談やご依頼を広く受け付けております。まずはお気軽にお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています