婚姻費用と生活保護の関係|受給している場合はどうなる?
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姫路市が公表している姫路市統計要覧によると、令和2年度の生活保護の被保護世帯(生活保護を受けている世帯)は7万9783世帯であり、被保護人数は9万9015人でした。毎年多少の増減はありますが、一定数の方が生活に困窮して生活保護を受給していることがわかります。
別居をしている夫婦の場合には、夫婦の一方から他方に対して生活費として「婚姻費用」というお金が支払われます。婚姻費用は、夫婦双方の収入や家族構成を基準に金額が決められることになりますが、配偶者が生活保護を受けている場合には、支払うべき婚姻費用の金額に影響はあるのでしょうか。
今回は、生活保護を受給している場合における婚姻費用の考え方について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、婚姻費用の考え方
そもそも婚姻費用とはどのようなものなのでしょうか。以下では、婚姻費用に関する概要について説明します。
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(1)婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を維持するために必要となる費用です。婚姻中の夫婦には、お互いに生活を助け合う義務があります(民法752条)。
離婚を前提に別居をしていたとしても、この義務がなくなるわけではありません。そのため、収入額や監護している子の有無などに応じて、夫婦の一方が他方に対して婚姻費用分担義務の履行として生活費を支払わなければなりません。
ただし、婚姻費用を請求する側に婚姻関係破綻に関する主な原因がある場合には、信義則または権利濫用を理由に、婚姻費用の請求が制限されることがあります。 -
(2)婚姻費用と養育費の違い
婚姻費用と養育費は、以下の通り、それぞれ目的が異なります。
- 婚姻費用……婚姻中の夫婦間が分担する家族の生活費のこと
- 養育費………離婚後に支払われる子どもの養育に関する費用のこと
子どものいる夫婦の場合には、夫婦間の扶養義務の他に親子間の扶養義務もありますので、配偶者の生活費と子どもの養育に関する費用の負担が必要になります。しかし、離婚によって夫婦間の扶養義務は消滅しますので、離婚後は子どもの養育に関する費用である養育費の支払いのみになるのです。
このように、婚姻費用には、配偶者の生活費と子どもの生活費が含まれていますので、養育費よりも高額になることが一般的です。
2、相手が生活保護を受給していれば婚姻費用の支払いは不要?
別居中の配偶者が生活保護を受給している場合、婚姻費用の扱いはどうなるのでしょうか。婚姻費用を受け取る側、支払う側、それぞれの立場から解説します。
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(1)権利者(婚姻費用を請求する側)が生活保護を受給している場合
婚姻費用の金額を決める場合には、権利者(婚姻費用を請求する側)と義務者(婚姻費用を支払う側)の収入を基準にして決めるのが一般的です。
権利者が生活保護を受給している場合、生活保護として一定の収入があることになりますので、婚姻費用の金額を決める場合には、生活保護費をどう考慮すべきかが問題となります。
しかし、権利者が生活保護を受給する場合でも、扶養義務者による扶養は生活保護の受給に優先することになります(生活保護法第4条第2項)。すなわち、権利者が生活保護を受給することにより扶養義務者の義務が免除されることはなく、扶養義務者から婚姻費用を受け取っている場合には、権利者に生活保護として支給される最低生活費の金額から婚姻費用の金額が差し引かれるという関係にあるのです。
そのため、権利者が生活保護を受給しているとしても、婚姻費用の金額を定める場合には、それを理由に婚姻費用の支払いを拒絶したり、生活保護費を収入と認定して婚姻費用の減額を求めたりすることはできません。 -
(2)義務者(婚姻費用を支払う側)が生活保護を受給している場合
義務者(婚姻費用を支払う側)が生活保護を受給している場合には、義務者が支払う婚姻費用の金額を算定するにあたって、生活保護の金額が収入として考慮されることはあるのでしょうか。
生活保護を受給しているということは、義務者本人が無収入であるか、本人の収入だけでは最低限度の生活を維持することができない状態であるといえます。生活保護は、あくまでも本人が最低限度の生活を送るために必要最低限の費用を国が援助するという制度ですので、生活保護費から婚姻費用や養育費を支払うということは予定されていません。
したがって、義務者が生活保護を受給している場合には、生活保護の金額が収入として考慮されることはありません。
3、婚姻費用の決め方
婚姻費用を決める場合には、一般的に以下のような方法で決めることになります。
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(1)夫婦の話し合い
婚姻費用についての取り決めする場合には、まずは、夫婦間の話し合いで決めることになります。
婚姻費用の金額については、夫婦の収入状況によって適正な金額が異なってきますので、一概にいくらが妥当であるかを示すことはできませんが、金額に争いがある場合には、裁判所のホームページで公表している「養育費・婚姻費用算定表」を利用することによってスムーズに話し合いが進むことがあります。
婚姻費用の算定表は、夫婦の収入と家族構成(子どもの有無、年齢)によって簡易かつ迅速に標準的な婚姻費用の金額を算定することができるツールであり、後述する家庭裁判所の調停や審判でも利用されています。
婚姻費用の算定表から算出される婚姻費用の金額は、「2万円~4万円」などの幅のある金額になりますので、その幅の範囲内で話し合いを進めるとよいでしょう。 -
(2)婚姻費用分担請求調停
婚姻費用の取り決めをする夫婦は、基本的には別居をしていることになりますので、お互いに顔を合わせて話し合いをするのが困難な状況であることも少なくありません。また、当事者同士の話し合いでは、感情的になってしまい婚姻費用の金額を決めることができない場合もあります。
そのような場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てます。婚姻費用分担請求調停では、家庭裁判所の調停委員が当事者の話を聞いてくれますので、当事者同士が直接顔を合わせて話し合いをする必要はありません。
調停では、当事者双方から収入に関する資料(源泉徴収票、所得証明書、給与明細など)の提出を求め、その資料をもとにして婚姻費用の金額を算定し、合意に向けて話し合いが行われます。
婚姻費用の金額や支払い方法について当事者間で合意が成立した場合には、調停成立となり、合意した内容が調停調書に記載されます。調停調書は、確定判決と同一の効力を有する書面ですので、義務者が合意した婚姻費用を支払わなかった場合には、直ちに強制執行の手続きをとることが可能です。 -
(3)婚姻費用分担請求審判
調停手続きは、当事者の合意を前提とする話し合いの手続きになりますので、調停を申し立てたとしても当事者間で合意が得られない場合には、調停は不成立となります。しかし、それで婚姻費用に関する手続きはすべて終了というわけではなく、調停が不成立になった場合には、自動的に婚姻費用分担請求審判に移行することになります。
婚姻費用分担請求審判では、調停のような話し合いの手続きではなく、裁判官が当事者から提出された資料や調停でのやり取りなどの一切の事情を考慮して適切な婚姻費用の金額を判断することになります。
なお、審判に不服がある場合には、審判を受け取った日の翌日から起算して2週間以内に、高等裁判所に対して即時抗告という不服申し立ての手続きをとることができます。
4、弁護士に相談することで得られるサポート
離婚に関するトラブルを一人で抱え込んでしまう方は少なくありません。しかし、離婚分野の実績がある弁護士に相談をすることで解決につながる可能性があります。
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(1)法的観点からアドバイスが可能
離婚をする際には、婚姻費用の問題だけでなく、親権、養育費、財産分与、慰謝料といったさまざまな問題が生じます。適切に解決するためには、離婚に関する法的知識が不可欠となります。
弁護士であれば、婚姻費用や養育費の相場、慰謝料請求の可否・金額、財産分与の方法、親権獲得の可能性などについて、適切に判断し、対応することができます。離婚に関するサポートを受けることによって、精神的負担も軽減するでしょう。 -
(2)交渉、調停、審判、裁判などの対応を任せることができる
弁護士に相談をすれば対応方法についてアドバイスを受けることが可能ですが、一人で対応することが不安だという方は、弁護士への依頼をご検討ください。
弁護士であれば、本人に代わって相手との交渉を行うことができます。交渉の負担が軽減されるだけでなく、より有利な条件で離婚することができる可能性が高くなります。
また、話し合いで解決することが難しい事案については、家庭裁判所に調停を申し立て、調停期日には同席するなど、初めての調停であっても安心して対応できるよう弁護士がサポートします。
5、まとめ
権利者が生活保護を受給していたとしても、原則として婚姻費用の算定にあたってはその事実が考慮されることはありません。しかし、個別事情によっては、婚姻費用の算定表によって算出された標準的な婚姻費用の金額を修正することも可能となる場合がありますので、まずは弁護士に相談をすることをおすすめします。
婚姻費用や養育費など離婚に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています