株式は財産分与の対象? 離婚時に保有している株はどうなるのか
- 財産分与
- 財産分与
- 株
姫路市では「養育費確保事業」として、養育費に関する公正証書作成費用などで必要な費用や保証会社との養育費保証契約締結の際の保証料を助成する事業を行っています。子どもを引き取り育てる側にとっては、とても有用な制度です。
離婚時に取り決めるべき費用としては、養育費のほかにも財産分与があります。公正証書を作成するのであれば、この財産分与についても記載すべきでしょう。なお、婚姻中に夫婦のどちらか一方が株式を取得していた場合、原則として、株式も財産分与の対象となります。
特にご自身で経営している会社の株式が財産分与の対象になる場合には、配偶者との間での財産分与の方法に注意しないと、後々トラブルにつながってしまいかねません。そこで本コラムでは、離婚時に株式が財産分与の対象になる場合や、財産分与時の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、離婚時の財産分与とは?
まずは、夫婦が離婚をする際の「財産分与」とは何かについて、基本的な事項を理解しておきましょう。
-
(1)夫婦の共有財産を公平に分ける手続き
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた共有財産を公平に分ける手続きをいいます。
たとえば夫が会社員、妻が専業主婦の家庭を考えてみましょう。
この場合、妻には収入がありませんが、婚姻期間中については、夫婦は協力して生活を送る義務を負っています(民法第752条)。また、夫が会社員として収入を稼げているのは、妻が家事などで夫を支えているからという側面があります。言い換えれば、夫の収入は夫婦が共同で形成している資産ということになるのです。
しかし夫の収入として入ってきた金銭については、夫の単独名義になっていることが多いです。婚姻期間中はそれでも特に問題ありませんが、もし夫婦が離婚をする場合には、夫のもとにある財産を夫婦間で公平に分けなければなりません。
これを「財産分与」といいます。財産分与については、離婚に関する交渉や、離婚調停、財産分与調停などの場において、夫婦間で話し合われます。 -
(2)「特有財産」は財産分与の対象外
財産分与の対象は、あくまでも夫婦の共有財産のみです。
これに対して、①夫婦の一方が婚姻前から有する財産および②婚姻中自己の名で得た財産は、「特有財産」として財産分与の対象外となります(民法第762条第1項)。
ただし、婚姻中に得た財産が特有財産にあたるかどうかについては、夫婦の協力関係とは無関係に獲得されたものであるかどうかにより実質的に判断されます。
2、株式を財産分与しなければならない場合とは?
もし夫婦のどちらかが株式を所有している場合、それが実質的に夫婦の共有財産といえるのであれば、財産分与の対象にする必要があります。
-
(1)婚姻中に株式を取得した場合、財産分与の対象となる
株式を取得したのが婚姻期間中である場合には、株式を特有財産と解すべき特段の事情がない限り、夫婦の共有に属するものと推定されます(民法第762条第2項)。
そのため、婚姻期間中に取得した株式については、原則として財産分与の対象になります。 -
(2)株式は半々に分けなければならない?
株式が財産分与の対象になるとして、財産分与の際には夫婦間で株式を半々に分けなければならないのでしょうか。
この点、単にキャピタルゲインの獲得などを目的として保有している上場株式などであれば、基本的には半々に分けることになるでしょう。
しかし、たとえば夫が経営している会社の株式が財産分与の対象になる場合には、問題は複雑になります。というのも、自社株式の価値は、夫個人の経営努力により高められてきたという部分が大きいと考えられるからです。
裁判例上、夫が医師として形成した財産について、夫個人の勉学・労力・手腕・能力によって形成することができた側面が大きいとして、夫の方に多くの財産分与割合を認めたケースがあります(大阪高判平成26年3月13日、福岡高判昭和44年12月24日など)。
以上のことから、自社株式の財産分与割合については、経営に関与している側に多く認められる可能性があります。 -
(3)夫婦の合意があれば株式の代わりに金銭を分与することも可能
なお、自社株式を財産分与する場合には、株主が分散することにより、会社経営に関する意思決定に支障が生じてしまう可能性があります。
たとえば自社株式を夫と妻で半々に分けてしまった場合、どちらかが反対をした時点で、株主総会決議を通すことができません。このような事態を避けるためには、株式の代わりに、財産分与の対象となる株式の時価評価額を一方が支払うことにより財産分与を行うべきです。
財産分与の具体的方法については、夫婦間での合意により自由に決められるので、相手方とどのように分与の方法や割合について協議をしていくかがポイントとなります。 -
(4)婚姻前から保有している株式は財産分与の対象外
婚姻前から保有している会社株式については、特有財産として財産分与の対象外となります(民法第762条第1項)。
財産分与の対象にすべきか悩む財産がある場合は、弁護士に相談して検討することをおすすめします。
お問い合わせください。
3、株式を財産分与する方法とは?
実際に株式を財産分与する場合、どのような手続きを経て株式を譲渡すれば良いのかについて解説します。
-
(1)財産分与の内容を書面(離婚協議書など)に記録する
まずは、財産分与の内容を記録した離婚協議書などの書面を作成し、夫婦双方が署名・押印をします。
書面には、株式だけでなく、財産分与の対象となる一切の財産の分け方を、具体的に記載することが必要です。作成の際には弁護士に相談するのが安心でしょう。 -
(2)上場株式の場合は、証券会社などを通じて名義変更の手続きを行う
株式に関する財産分与の内容が確定したら、実際に株式を移転する手続きに着手します。
財産分与の対象が上場株式である場合には、株式を管理している証券会社に対して、株式の名義変更を申請する必要があります。
証券会社は、株主の代わりに、証券保管振替機構における株式移転の手続きと、会社が保管する株主名簿の書き換えに関する手続きを行います。
詳しい方法については、ご自身が証券口座を保有している証券会社にご確認ください。 -
(3)自社株式の場合は、譲渡承認手続きと株主名簿の名義書き換えを行う
ご自身が経営している非上場会社の株式を財産分与する場合には、まず会社に対して株式譲渡の承認請求を行い、株主総会決議または取締役会決議による会社の承認を得る必要があります(会社法第136条、第139条1項)。
株式譲渡について会社の承認が得られたら、離婚協議書などに基づいて、財産分与としての株式の譲渡を行います。そして、譲渡人と譲受人が共同して、会社に対して株主名簿の名義書き換えを請求します(会社法第133条第1項、第2項)。
株主名簿の名義書き換えが完了すれば、財産分与を受けた側が、会社に対して株主として地位を主張できるようになります。
4、株式の財産分与をする前に弁護士に相談を
特に自社株式が財産分与の対象となる場合には、事前に弁護士に相談することをおすすめいたします。
-
(1)財産分与の方法についてアドバイスを受ける
会社の株式が財産分与の対象になる場合であっても、実際に株式自体を夫婦で分けてしまう前に、一度立ち止まって考える必要があります。
特に自社株式が財産分与の対象である場合は、株主が分散してしまうことによって経営上の支障が生じる可能性に注意しなければなりません。そのため、できる限り、金銭での分与を行うようにすることが望ましいでしょう。
会社株式についての財産分与を金銭による精算とする場合、株式の時価総額の評価を行ったうえで、適切な内容の財産分与となるように調整する必要があります。専門的な作業になりますので、弁護士や税理士のサポートを受けることをおすすめします。 -
(2)会社法上の手続きについてのサポートを受ける
自社株式を譲渡する際には、会社法上の手続きを適切に踏むことが必要です。
会社法上の手続きに漏れがあると、株式譲渡の効力自体に影響が出てしまう可能性もあります。
ベリーベスト法律事務所には、会社株式が関係する財産分与に関する知見を豊富に有している弁護士や税理士が多数所属しています。株式譲渡に関する会社法上の手続きについて、連携したサポートが可能です。まずはお気軽にご相談ください。
5、まとめ
財産分与は原則、婚姻期間中の財産が対象となります。したがって、結婚してから取得した会社株式については、原則として財産分与する必要があることを知っておきましょう。
とはいえ、特にご自身が経営する会社の株式については、単純に譲渡してしまうと、経営上の意思決定に影響を及ぼすことになってしまいます。したがって、自社株など特定の株式については、金銭での分与を行うことが望ましいでしょう。
会社株式に関する財産分与の方法や、もし実際に会社株式を相手方に譲渡することになった場合の法的な手続きなどについては、ベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。離婚問題だけでなく、企業法務についての知見を豊富に有する弁護士が、親身になって対応します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています