親子間でお金を盗んでも罪に問われない? 親族相盗例について解説

2022年09月15日
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親子間でお金を盗んでも罪に問われない? 親族相盗例について解説

親子や家族の間柄であっても「お金や物を盗んではいけない」というのは当然のモラルです。もし盗ってしまったとしても、幼少期や思春期のころまでなら厳しく叱られて終わることがほとんどでしょう。

しかし成人後に家族からお金を盗んだ場合、盗んだ金額や頻度によっては、親であっても「警察に届け出をする」と憤って許してくれないケースもあるかもしれません。

この場合、親や家族が相手でもお金を盗めば窃盗罪に問われるのでしょうか。親子間でおきた窃盗には「親族相盗例」という窃盗罪などに適用される特例が深く関係します。

本コラムでは「親族相盗例」に注目しながら、親・家族からお金を盗んだ場合に問われる罪や責任について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。

1、「親族相盗例」とは?

刑法第235条の「窃盗罪」は市民の生活にもっとも身近な犯罪といえるでしょう。

兵庫県警察が公開している統計によると、令和3年中に県下で警察が認知した刑法犯事件の件数は3万3件でしたが、うち、窃盗事件は1万8313件でした。これは、全刑法犯の61.0%を窃盗事件が占めている計算です。

しかし、窃盗罪に「親族相盗例」という特例が適用されるということは知らない方も多いででしょう。親族相盗例とはどのような特例なのでしょうか。

  1. (1)親族間の窃盗は刑が免除される

    親族相盗例は、刑法第244条1項に定められた「親族間の犯罪に関する特例」です。

    一定の親族関係にある者の間で起きた窃盗は、その刑が免除されます。刑法の条文には「刑を免除する」と明記されており、もし刑事裁判が開かれたとしてもかならず刑が免除されるのが決まりです。

    当然、警察や検察官が逮捕や取り調べといった捜査を進めることは基本的にはありません。

  2. (2)親族相盗例が適用される犯罪

    刑法第244条1項が定める親族相盗例の適用対象は、窃盗罪に加えて同第235条の2に定められている不動産侵奪罪、およびこれらの未遂罪です。

    さらに、ここで挙げる犯罪も、刑法第244条を準用するかたちで親族相盗例が適用されます。

    • 詐欺罪(同第246条)
    • 電子計算機使用詐欺罪(同第246条の2)
    • 背任罪(同第247条)
    • 準詐欺罪(同第248条)
    • 恐喝罪(同第249条)
    • 横領罪(同第252条)
    • 業務上横領罪(同第253条)
    • 遺失物等横領罪(同第254条)


    窃盗罪や不動産侵奪罪を含めて、ここで挙げた犯罪はすべて対象物が財産となる「財産犯」です。

    そもそも、親族相盗例は、古くから根付く民事不介入や「法律は家族間の問題に関与しない」という考え方を根幹に存在しています。家庭内の金銭的な問題は家庭内で解決するべきだという考え方です。

    一方で、ほかの犯罪は親族相盗例が適用されません。たとえば、窃盗の機会に暴力行為があると刑法第236条の強盗罪が成立しますが、強盗罪は親族相盗例の適用外です。

2、刑が免除される「親族」の範囲

親族相盗例が適用される範囲は、刑法第244条1項に明記されています。

  1. (1)配偶者

    配偶者とは、法律上の婚姻関係にある者です。離婚した元配偶者や婚姻を前提とした婚約者・同棲相手は含まれません。

    また、近年ではさまざまな夫婦関係が受け容れられるようになっていますが、婚姻を結んでいない内縁・事実婚の関係にある者も対象外です。

  2. (2)直系血族

    直系血族とは、血のつながりがある血族のうち、本人を中心に直接の上下関係にある者を指します。具体的には、父母・祖父母・子・孫が直系血族です。

    また、養子縁組を結んだ子は、生物学としての血縁がなくても法律上は血族なので直系血族に含まれます。

  3. (3)同居の親族

    親族とは、6親等以内の血族と3親等以内の姻族です。兄弟姉妹、本人方の叔父や叔母などは6親等以内の血族に含まれます。

    姻族とは配偶者側の血族を指すので、配偶者の親や養子縁組を結んでいない連れ子などは3親等以内の姻族です。これらの者のうち、本人と同居している者のみが親族相盗例の対象となります。

3、罪に問われなくても民事的な責任は免れられない

親族相盗例の適用を受ける以上、親のお金を子どもが盗んでも罪には問われません。しかし、法的にみて「なんら問題はない」と考えるのは間違いです。

  1. (1)刑事事件と民事事件は別問題

    親族相盗例は、刑法に定められた特例です。本特例によって免除されるのは刑事事件における刑罰のみで「盗んだ財産を賠償しないといけない」という民事的な責任までは免れられません。

    そもそも、刑事事件と民事事件はまったく別の問題です。刑罰を受けても、民事責任は残ったままになります。

    この点は、一般的な刑事事件で検察官が刑事裁判を見送った場合に下される「不起訴」となった場合でも同じです。不起訴になると、刑事裁判が開かれないので刑罰も受けませんが、民事責任も問われないという意味ではないことを心得ておきましょう。

  2. (2)弁済しなければ民事訴訟に発展するおそれがある

    親族相盗例が適用される関係だったとしても、盗んだお金を弁済する義務は解消されないので「盗んだお金を返せ」と求められることになるでしょう。

    弁済しないままだと、親が裁判所に損害賠償請求訴訟を申し立てて、民事訴訟に発展するおそれがあります

    民事の面には「親・親族が相手なら、盗んだお金は返さなくてもよい」といった定めがあるわけではありません。実際にお金を盗んだ事実があるなら、民事訴訟では「損害を賠償せよ」と支払いを命じる判決がくだされるでしょう。
    判決が出た後で弁済しなければ財産や給与などの差押えを受ける危険も待ち構えています。

    民事訴訟を起こされてしまう事態を避けるには、たとえ刑が免除されるとしても盗んだお金を返す、あるいはすでに使い込んでいたとしても相当額を弁済するほうが賢明です

4、親族相盗例と「告訴」の関係

親族相盗例は親族間の窃盗などについて刑を免除する特例ですが、適用される範囲を超えた親族の間には適用されません。

すると、親族相盗例が適用されない親族が被害者となった場合は罪を免れられないことになりますが、遠近の差があるとはいえ親族であることに変わりはないので、一定の制限が設けられます。

  1. (1)親族相盗例の適用外でも「告訴」が必要になることがある

    刑法第244条2項には、配偶者・直系血族・同居の親族のいずれにもあたらない親族への窃盗罪について「告訴がなければ公訴を提起することができない」と明記しています。

    検察官が刑事裁判を提起するためには被害者の告訴が必要となる犯罪のことを「親告罪」といいますが、窃盗罪のように一定の条件下のみで親告罪として扱われる犯罪を「相対的親告罪」と呼びます。

    配偶者・直系血族・同居の親族のいずれにもあたらない親族が被害者となった場合は、親族相盗例の適用を受けないので、被害者の意向次第では事件化が可能です。

    とはいえ、被害者・加害者の間には親族としての関係があるうえに、比較的に軽微な被害であればほかの親類縁者が仲裁して穏便な解決を図るほうが望ましいでしょう。

    そこで、親族相盗例の適用外であっても、親族間の窃盗事件は「犯人を厳しく罰してほしい」という強い処罰意思を確認する意味で、告訴を必要としています

    なお、配偶者・直系血族・同居の親族は、告訴をもってしても「刑を免除する」という結論は変わらないので、実際には事件化することは、およそ不可能です。

  2. (2)告訴された場合の流れ

    被害者が警察に告訴状を提出すると、裏付け捜査などがおこなわれたうえで被疑者として取り調べを受けることになります。

    逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあると判断されれば、逮捕されてしまう可能性も否定できません。

    警察が捜査を終えると、事件は検察官へと引き継がれます。一般的な事件では、警察限りで事件を終結することも可能ですが、告訴を受理した事件はすべて検察官へと引き継がれるのが決まりです。

    刑事裁判を提起するか、それとも刑事裁判を見送るのかという判断は検察官が下します。
    刑事裁判を開く必要があると判断すれば「起訴」、その必要はないという結論にいたれば「不起訴」です。

    起訴されると刑事裁判が開かれます。実際に窃盗を犯したのなら、有罪判決が下され、法律が定めた範囲内で量刑が言い渡されることになります。

    有罪判決を受けて刑罰を受けると「前科」がついてしまうので、親族相盗例の適用外の親族に窃盗をはたらいてしまった場合は、告訴を防ぐための対策を講じるべきでしょう

5、まとめ

親子間での窃盗は「親族相盗例」の適用を受けるため罪を問われません。ただし、親族相盗例が適用されても被害を弁済する義務は免れられないので「罪にならない」などと開き直らず、謝罪と弁済を尽くすべきです。

弁済を尽くさないと、最終的には民事訴訟を起こされてしまうおそれもあります。刑が免除されるといっても、禍根を残す事態は避けるよう留意しましょう。

また、窃盗時に暴力行為がある強盗罪や傷害罪などは親子間であっても犯罪となります刑事事件に発展するような親子間のトラブルでお悩みの場合は、弁護士までご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています