単純逃走罪と加重逃走罪の違いとは? 弁護士がわかりやすく解説
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- 単純逃走罪
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平成28年9月、神戸地裁姫路支部で開かれていた公判の最中に、刑務官のすきをついて被告人が逃走し、およそ20分後に逮捕される事件が起きました。令和5年2月にも、同じく神戸地裁姫路支部で、判決の言い渡し途中に被告人が法定の外に逃走しようとし、その場で取り押さえられる事件が起きています。
このような事件で問題となるのが「逃走罪」です。逃走罪とは、その名の通り逃げることで問われる罪です。ただし、成立するには一定の条件があります。たとえば事件を起こして気が動転して逃げてしまった場合でも、逃走罪となり処罰されるのか、気になるところです。
本コラムでは、刑法の「逃走罪」に注目し、単純逃走罪と加重逃走罪の違い、逃走を手助けした人に適用される罪などを、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、「逃走罪」とは? 単純逃走罪と加重逃走罪の違い
刑法の第6章には「逃走の罪」が定められています。
逃走の罪として規定されているなかで、基本となるのが「逃走罪」です。
まずは逃走罪とはどんな犯罪なのかを確認していきましょう。
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(1)逃走罪とは? 成立の要件や科せられる刑罰
「逃走罪」とは、刑法第97条に定められている犯罪です。裁判の執行により拘禁された既決または未決の者が逃走したときに成立する犯罪で、1年以下の懲役が定められています。
本罪は、逮捕・送致されたあとに検察官の請求による「勾留質問」を受けて、勾留状が発付された被疑者や起訴後に勾留されている被告人が逃走した場合に成立する犯罪です。ここでいう「逃走」とは、拘禁状態から離脱することで開始し、看守者の実力支配から脱したときに既遂となります。
たとえば、看守のすきをついてその場から逃げ出した時点で逃走開始となり、刑事施設から脱出して追跡する看守から逃げ切ることで既遂となります。
ただし、本罪は刑法第102条に未遂を罰する規定があるため、刑事施設から脱出する前に確保されて結果的に逃走が失敗に終わったとしても未遂として処罰されます。 -
(2)事件直後や逮捕前に逃げても逃走罪になる?
逃走罪は、勾留状の効力によって拘禁状態にある者が逃走したときに成立する犯罪です。
そのため、
・ 事件を起こした直後で気が動転してしまいその場から逃げてしまった
・ 警察官が逮捕のために自宅にやってきたので裏口から脱出して逃げた
・ 警察官を振り切って逃げた
といったケースは処罰の対象になりません。
ただし、交通事故を起こして必要な救護を怠り逃げた場合は救護義務違反に、逮捕を振り切るために警察官に暴行をふるえば公務執行妨害罪に問われるなど、別の犯罪が成立してしまう危険があります。
また、現場から逃げた、逮捕から逃げたといった事情があると、逃走しなかった場合と比べると検察官や裁判官が厳しい処分を下す可能性があるため「逃げ得」が許されるわけではないと心得ておきましょう。 -
(3)単純逃走罪と加重逃走罪の違い
刑法第97条の逃走罪は「単純逃走罪」とも呼ばれています。これは、同第98条に定められている「加重逃走罪」と区別しやすくするためです。
加重逃走罪は、単純逃走罪の対象に加えて、裁判所への出頭を強制する勾引状が執行されている者を処罰の対象としています。これらの者が、拘禁場もしくは拘束のための器具を損壊したり、暴行や脅迫を用いたりして逃走した、または2人以上が通謀して逃走した場合は加重逃走罪です。
施設や拘束具の損壊、暴力行為などを伴うため、単純逃走罪よりも悪質な犯罪として位置づけられており、3か月以上5年以下の懲役という重い刑罰が規定されています。
2、逃走を援助しただけでも犯罪になる! 逃走に関連する犯罪
刑法第6章の「逃走の罪」には、逃走した本人だけでなく、逃走を援助した者も罰する規定が存在します。逃走を援助した者を罰する犯罪について確認していきましょう。
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(1)被拘禁者奪取罪
被拘禁者奪取罪は、刑法第99条に定められている犯罪です。法令によって拘禁された者を奪取した者が処罰の対象で、3か月以上5年以下の懲役が科せられます。
本罪における「奪取」とは、看守者の実力支配から離脱させ、自己または第三者の実力支配下に置く行為です。「法令によって拘禁された者」とは、勾留状や勾引状を執行された人だけでなく、逮捕状を執行された人や、現行犯逮捕されて身柄を拘束されている人も含むと解されています。 -
(2)逃走援助罪
逃走援助罪は、刑法第100条に定められています。法令によって拘禁された者を逃走させる目的で、器具を提供したり、逃走を容易にすべき行為をはたらいたりすると、3年以下の懲役が科せられます。
また、逃走を援助する目的で看守者などに暴行・脅迫をはたらいた場合は、3か月以上5年以下の懲役が科せられます。
逃走援助罪と被拘禁者奪取罪は、たとえば「目の前で逮捕された仲間を助けたい」などの意図でおこなわれる可能性が高い犯罪です。単純逃走罪と比べると、逃走した者よりも「逃走を手助けした者」のほうが厳しく処罰されるという点は、覚えておいたほうがよいでしょう。 -
(3)看守者逃走援助罪
看守者逃走援助罪は、刑法第101条に定められている犯罪です。本罪は、法令によって拘禁された者を看守・護送する者が、拘禁された者を逃走させたときに成立します。
たとえば、警察署の留置担当官が護送中の被疑者を逃走させたり、刑務所・拘置所の刑務官が看守している受刑者・被告人を逃走させたりといったケースが処罰の対象です。看守・護送中のトラブルによって拘禁された者を逃してしまったといったケースは、故意に逃走させたわけではないので本罪には問われません。
本来は拘禁された者を逃さないことが職務である公務員が違背行為をしていることから、法定刑は逃走の罪のなかで最も重い1年以上10年以下が定められています。
3、逮捕されると日常生活にどんな影響が出るのか?
罪にあたる行為をはたらいてしまい逮捕されると、その後はどんな事態が待っているのでしょうか?
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(1)逮捕されても「犯人」と決めつけられるわけではない
まず正しく知っておくべきは、逮捕されても「犯人」と決まったわけではないということです。
新聞やテレビニュースなどの報道をみていると、逮捕=犯人として有罪になるイメージが強いかもしれませんが、日本国憲法の理念に従えば、逮捕された段階では犯人とはいえません。法的に犯人といえるのは、刑事裁判において有罪判決が下されたあとからです。
本来、逮捕や勾留の段階では「罪を犯した疑いがある人」という位置づけであり、有罪判決を受けるまでは「無罪と推定する」という推定無罪の原則がはたらきます。
たとえ容疑が濃厚であったり、本人が罪を認めていたりしても、無罪と推定されるため犯人として不利な扱いを受けることはありません。 -
(2)逮捕・勾留によって最大で23日間にわたる身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察の段階で最大48時間、検察官の段階で最大24時間、合計で最大72時間にわたる身柄拘束を受けます。さらに勾留を受けると10~20日間の身柄拘束が続くので、逮捕から数えると最大23日間にわたって社会から隔離された状態が続きます。
逮捕には事前の通知や前兆がありません。突然、社会から姿を消すことになるので、会社を無断欠勤する状態が続いて解雇の対象になってしまったり、学校から退学処分を受ける可能性があったり、家族とも連絡が取れず心配をかけたりする事態になるでしょう。 -
(3)実名が報道される危険が高い
警察に逮捕されると、新聞やニュースなどで実名が報道されてしまう危険が高まります。
警察は、被疑者を逮捕した事件について、共犯者が存在しており逃亡や証拠隠滅の危険が高いなどの事情がない限り、新聞社やテレビ局に情報を公開することがあります。実名や勤務先名が報道されてしまうと、事件を起こしてしまったことが周囲にばれてしまう事態は避けられません。
会社で事件について説明を求められたり、事件の内容によっては会社に居づらくなったりするでしょう。近隣の住民にも知られてしまい、よからぬうわさ話を立てられたり、同じ場所に住みにくくなったりすることもあります。
まだ法的には本人だと決まっていなくても、逮捕をきっかけにこれまでの生活が壊されてしまうといった事態はめずらしくありません。事件前と変わらない生活を守るためには、できる限り逮捕を避けるための対策を尽くしましょう。
4、逮捕を回避するために取るべき行動とは?
刑事事件の容疑者として逮捕される事態を避けるためには、どのような行動を取ればよいのでしょうか?
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(1)まずは弁護士への相談を急ぐ
逮捕を避けるためにまず取るべき行動は「弁護士への相談を急ぐこと」です。弁護士といえば、刑事裁判の場で検察官や裁判官と争う役割だと思っている方も少なくありませんが、そのイメージは正しくありません。
弁護士は、あらゆる法律問題の解決をサポートする仕事です。自分自身の行動がどのような罪にあたるのか、どういった解決法があるのかなどのアドバイスを提供し、最も穏便な解決に向けて必要な対策を尽くします。
通常の生活を送っている方にとって、法律問題は決して身近なものではないでしょう。ひとりで悩んでいても、解決にはならず、逮捕も避けられないので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)被害者との示談交渉を進めて解決を図る
逮捕を避けるために最も有効なのが、迅速な示談交渉による解決です。
被害者と加害者の間で話し合いの場を設けて、加害者は罪を犯したことを真摯に謝罪したうえで損害や精神的苦痛を賠償します。被害者はこれに応じて被害届や刑事告訴を見送ったり、届け出を取り下げたりするのが一般的な流れなので、早い段階で示談が成立すれば、逮捕の回避が期待できます。
ただし、犯罪被害者の多くは、加害者に対して強い怒りや警戒心を抱いているものです。
加害者からの示談の申し入れでは拒否されてしまう可能性が高いので、安全に交渉を進めるためにも、弁護士に対応をまかせましょう。 -
(3)自首や任意出頭を検討する
被害者が存在しない、あるいは被害者がかたくなに拒否しており示談交渉が難しいといったケースでは、自首や任意出頭を検討したほうがよいかもしれません。
自首とは警察などの捜査機関がまだ認知していない犯罪について自ら申告し処分を委ねること、任意出頭とはすでに捜査が開始している事件について容疑者が自ら警察署などに出向き事情聴取や取り調べに応じることを意味します。
自首や任意出頭をするということは「捜査には全面的に応じる」という意思表示となります。
そもそも逮捕とは、犯罪の容疑がある者について、正しい刑事手続きを受けさせるために逃亡や証拠隠滅を防ぐ目的で捜査機関のもとに身柄を置く強制処分のひとつです。
つまり、逃亡や証拠隠滅を図るおそれが否定できれば、法的に逮捕は認められません。
ただし、単身で警察署などに出向いて「私は罪を犯した」と自ら申告するのは大変な決断と勇気がいるものです。また、任意の事情聴取や取り調べであるのに、警察が不当な扱いをしてくる危険も否定できません。
弁護士に依頼すれば、自首や任意出頭への同行が可能です。事情聴取や取り調べがおこなわれている間は庁舎内に待機しているので、警察官からの質問で返答に困っても、すぐに退席して相談できます。弁護士が同行することで、警察へのけん制となり不当な扱いを抑止できることが期待でき、逮捕の回避にもつながるでしょう。
5、まとめ
単純逃走罪は、勾留状が発付されたあとの被疑者や被告人が刑事施設から逃走した場合に成立します。逃走に伴って刑事施設や拘束具を損壊させたり、看守に暴行をはたらいたりすれば加重逃走罪です。
いずれにしても、事件の現場から逃げた、逮捕が迫りおそろしくなって逃げたといったケースを罰するものではありません。ただし、単純逃走罪や加重逃走罪にあたらなくても、刑事事件を起こしてしまえば逮捕の危険が高まります。
突然の逮捕によって仕事や家庭を失ってしまう事態を避けるには、弁護士への相談を急ぐのが最善策です。刑事事件の解決や逮捕の回避は、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスにおまかせください。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決を目指して全力でサポートします。
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