社会的制裁を受けたら減刑されうるのか? 裁判での判断基準とは

2023年05月30日
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社会的制裁を受けたら減刑されうるのか? 裁判での判断基準とは

神戸地方裁判所姫路支部の2021年における刑事事件の受理人員は1712人でした。犯罪行為をした人の中には、厳しいバッシングや実名報道など、すでに社会的制裁を受けている方もいらっしゃるかもしれません。

罪を犯した場合は、相応の罰を受けることで償わなければなりません。しかし、裁判において社会的制裁があると判断されると、通常よりも軽い刑が言い渡されることがあります。

今回は、社会的制裁を受けているとなぜ減刑されるのか、どの程度減刑されるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「姫路市統計要覧-令和4年(2022年)版-」)

1、社会的制裁とは?

「社会的制裁」とは、刑事裁判を通じて受ける刑罰とは別に、犯罪について社会的な地位・評判を失ったり、バッシングを受けて精神的ダメージを受けたりすることをいいます。

  1. (1)社会的制裁の例

    犯罪者が受ける社会的制裁としては、以下の例が挙げられます。

    • SNSなどを通じて猛烈に批判される(いわゆる「つるし上げ」)
    • マスコミに実名で犯罪者として報道される
    • 会社を解雇される
    • 学校から退学処分を受ける
    • 配偶者と離婚し、子どもとも一緒に住めなくなる
    • 親族や友人などから縁を切られる
    • 近隣住民から仲間外れにされる
    など
  2. (2)社会的制裁を受けた場合、減刑されることがある

    日本の刑罰制度においては、犯罪行為をした者がすでに社会的制裁を受けたと認められる場合、刑事裁判における量刑が減軽されることがあります

    社会的制裁による減刑の理由は、刑罰の目的に関する考え方である「応報刑論」と「目的刑論」の両面から説明することができます(後述)。

  3. (3)社会的制裁と情状酌量の関係性

    社会的制裁を受けたことは、いわゆる「一般情状」のひとつとして、刑事裁判における量刑判断上考慮されます。

    犯罪報道などでは「情状酌量」という用語がよく使われます。情状酌量とは一般に、犯罪に関する事情を総合的に考慮した際、被告人の有利に取り扱う(量刑を減軽する)べき事情があることを意味します。

    社会的制裁も一般情状のひとつであり、情状酌量の一事情と位置付けられるものです。

  4. (4)社会的制裁と酌量減軽の関係性

    なお刑法では、犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができるとされています(刑法第66条)。これを「酌量減軽」といいます。

    酌量減軽は、一般にいう「情状酌量」とは異なるものです。

    酌量減軽は、刑の短期(最短期間)が定められている犯罪について、もっとも軽い量刑でも重すぎると判断される際に行われます。これに対して、刑の短期が定められていない犯罪については、酌量減軽を行う必要がなく、通常の法定刑の範囲内で量刑を定めれば足ります。

    たとえば殺人罪の懲役刑の短期は5年で、減軽されなければ必ず実刑です。しかし殺人罪の事案の中には、長年の介護に苦しんだ揚げ句に無理心中を図ったなど、特に被告人に同情すべきケースもあります。

    このような場合には、酌量減軽を行うことで刑の短期を2年6か月まで短縮できます(刑法第68条第3号)。その結果、3年以下の懲役を言い渡す場合には、執行猶予を付すことも可能となります(刑法第25条第1項)。

    社会的制裁を受けたことも、理論上は酌量減軽の事由に該当する可能性があります。

    ただし、そもそも酌量減軽が問題となるのは、刑の短期が定められている重罪に限ります。そのため、実際に酌量減軽が認められるのは、上記の殺人罪の例のような被告人を減刑にすべき特別の事情が存在するケースです。

    したがって、社会的制裁を受けたというだけでは酌量減軽に足りず、特に酌むべき事情が他にも存在する場合に限って酌量減軽の余地があるというべきでしょう。

2、なぜ社会的制裁を受けると減刑されることがあるのか?

社会的制裁を受けたことによって減刑されることがある理由は、おおむね以下の3点から説明できます。

  • ① 一般情状は幅広く考慮される|社会的制裁もそのひとつ
  • ② 応報刑論の観点|過剰な制裁を防ぐ
  • ③ 目的刑論の観点|社会的制裁も予防に寄与している


  1. (1)一般情状は幅広く考慮される|社会的制裁もそのひとつ

    犯罪の量刑を定めるに当たって、もっとも重視されるのは犯罪行為自体に関する情状事実(=犯情事実)です。

    <犯情事実の例>
    • 法益侵害の結果(例:犯罪被害者が死亡した)
    • 行為の危険性、悪質性(例:確定的な殺意をもって計画的に行った、極めて危険で悪質な犯行)
    • 動機(例:恋愛感情のもつれという独善的な動機による犯行で、情状酌量の余地なし)


    ただし犯情事実以外にも、被告人の更生・再犯防止等の観点から、量刑判断において一般情状事実を幅広く考慮してよいことになっています。

    <一般情状事実の例>
    • 前科(例:前科がないので更生の可能性あり)
    • 反省、更生意欲(例:十分反省しているので、更生の可能性あり)
    • 更生環境(例:家族のサポートを受けられるので、更生の可能性あり)
    • 被害弁償(例:示談が成立しており、被害弁償が行われたので、処罰の必要性が低下した)
    • 被害感情(例:示談によって被害感情が和らいだので、処罰の必要性が低下した)


    被告人が社会的制裁を受けたことも、量刑判断において考慮すべき一般情状事実のひとつです。後述する応報刑論・目的刑論の観点から、すでに十分な社会的制裁を受けている場合には、量刑を軽くすべきとの判断が働く可能性があります

  2. (2)応報刑論の観点|過剰な制裁を防ぐ

    刑罰の目的については、「応報刑論」と「目的刑論」という2つの考え方があります。日本の刑法においては、両方の考え方が併存的に採用されていると解されています。

    「応報刑論」とは、犯罪行為の「報い」として与えられるのが刑罰であるという考え方です。応報刑論の考え方に従うと、犯罪者に対しては、自ら犯した罪に均衡した害悪(懲役など)を与えるべきということになります。

    この点、すでに社会的制裁を受けた犯罪者は、まだ刑罰を科されていない段階で、ある程度の害悪を受けている状態です。この場合、社会的制裁と刑罰を合わせて犯罪に均衡した害悪となるように、量刑を調整すべきという考慮が働きます。

    上記の理由から、応報刑論の考え方に基づくと、社会的制裁を受けた犯罪者を減刑することには一定の合理性があると考えられます

  3. (3)目的刑論の観点|社会的制裁も再犯予防に寄与している

    「目的刑論」とは、刑罰の目的は犯罪予防にあるという考え方です。目的刑論の考え方に従うと、犯罪者に対しては、社会復帰した本人の再犯を防止でき、かつ他の人に同種の犯罪を思いとどまらせることのできる程度の刑罰を科すべきことになります。

    この点、犯罪者がすでに社会的制裁を受けている場合、刑罰を受けずとも自らの行いを強く後悔するケースが多いです。また、犯罪者が強烈な社会的制裁を受けるのを目の当たりにした市民に対しても、犯罪行為に対する抵抗感を植え付ける効果が生じると考えられます。

    上記の理由から、目的刑論の考え方に基づくと、社会的制裁を受けた犯罪者に重い刑を科す必要性は低くなるため、通常よりも減刑すべきとの結論に至ります。

    このように、応報刑論・目的刑論のいずれの観点からも、社会的制裁を受けた犯罪者に対して科す刑罰は、通常よりも減刑すべきと考えるのが合理的です。

3、社会的制裁による減刑はどの程度か?

社会的制裁を受けたことは一般情状事実にすぎないため、それだけを理由に大幅な減刑を得ることは困難です。基本的には、社会的制裁を受けたことを理由とする減刑はわずかな期間にとどまります。

<窃盗罪における減刑の例>
窃盗罪(求刑懲役3年)
本来は懲役3年→社会的制裁を受けたことを考慮して懲役2年6か月


ご自身が犯した罪について大幅な減刑を認めてもらうには、社会的制裁を受けたことだけでなく、被害弁償・反省・更生環境の確保などを通じて有利な情状を積み重ねることが大切です。

なお、死刑に相当するような重罪については、社会的制裁を受けたことを理由とする減刑はまず認められません。

4、重すぎる処罰を回避するには弁護士にご相談を

ご自身やご家族が犯罪を疑われた場合、重い刑罰を科されるリスクを負います。それを回避するためには、弁護士による適切な弁護活動が非常に重要です。

弁護士は、起訴前の段階から精力的に弁護活動を行い、不起訴処分による早期解放を目指して尽力します。検察官によって起訴された場合でも、公判手続きにおいてよい情状を訴え、できる限り量刑が軽くなるような弁護活動に努めます。

ご自身やご家族が逮捕されてしまった場合や、取り調べの対象となった場合には、お早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

被告人が社会的制裁を受けたことは、一般情状事実のひとつとして量刑上考慮され、通常よりも減刑されることがあります。

しかし、社会的制裁を受けたことだけを主張しても、大幅な減刑は期待できません。被害弁償・反省・更生環境の確保など、有利な情状事実を複数積み重ねることが、重い刑罰を回避するためのポイントです。

ベリーベスト法律事務所は、刑事弁護に関するご相談を随時受け付けております。ご自身やご家族が犯罪を疑われて逮捕された場合や、警察による取り調べの対象になった場合には、すぐにベリーベスト法律事務所 姫路オフィスへご相談ください。

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