執行猶予付判決と実刑の違いとは? 猶予の獲得や取り消しの条件を解説
- その他
- 執行猶予
- 実刑
刑事事件のニュースを見て、懲役刑を言い渡されたのにその後通常の生活に戻ったり入院したりしている様子を見て、「刑務所に入らないの?」と疑問に思ったことはありませんか?実は裁判で有罪判決を受けても「執行猶予」が付いていれば、刑務所には収監されないのです。
執行猶予付き判決は珍しいことではありません。たとえば兵庫県姫路市では、平成29年、加重収賄などの罪に問われた元市建設局長に対し懲役2年6か月、執行猶予4年が言い渡されています。
ではどのような場合に執行猶予が付くのでしょうか?実刑とはどう違うのか、よくある疑問を、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。
1、執行猶予付き判決とは? 実刑とどう違う?
「執行猶予」という言葉は裁判のニュースなどでよく聞かれますが、一般の方にとってあまりなじみはないでしょう。まずは執行猶予のしくみを詳しくご説明します。
-
(1)執行猶予とは?
「執行猶予」とは一定期間、刑の執行を猶予する制度です(刑法第25条)。
執行猶予は裁判の判決で「懲役1年、執行猶予3年」など、通常は懲役刑や禁錮刑とともに言い渡されます。
猶予期間中に再び罪を犯さなければ、受けた刑は効力を失い、その後執行されることはありません。つまり懲役刑を言い渡されていても、刑務所には行かずに帰宅し、社会復帰できるのです。
なお原則として猶予期間中の生活に制限はありません。旅行をしてもお酒を飲んでも構わず、仕事に就くこともできます。
逮捕・裁判を受けた方は、判決までの過程で十分に反省しているケースが多々あります。特に軽微な犯罪の場合、刑務所に入る以外の選択肢として、社会の中で反省や立ち直りをしていく手段として執行猶予が選択されているのです。
なお、罰金刑で執行猶予が付くことはほとんどありません。一部執行猶予という制度もありますが、事例が少ないためここでは割愛します。 -
(2)執行猶予の期間
執行猶予の期間を不当に長くすれば、元被告人は長期間、小さな罪でも犯さないように気を張る生活を強いられます。それは必ずしも元被告人のためにならないため、執行猶予期間は「裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間」と定められています。
この期間内であれば、裁判官の裁量で長さを決められます。ただし「懲役3年、執行猶予1年」など、懲役刑よりも執行猶予期間が短くなることはまずありません。
また執行猶予とともに保護観察処分が付くことがあります。保護観察処分とは、再犯防止と更生のサポートが必要と判断される場合に、保護観察官と保護司が協力して対象者を監視・指導するしくみです。
保護観察は以前にも執行猶予判決を受けたことがある場合には必ず付けられますが、初犯でも必要に応じて付されます。 -
(3)執行猶予付き判決と実刑判決の違い
「実刑判決」とは、執行猶予が付かない懲役刑・禁錮刑のことです。
執行猶予期間がないため、通常は判決後すぐに刑務所に収監され、数か月や数年という懲役・禁錮期間中は原則として刑務所で過ごさなければいけません。判決後すぐに社会復帰できる執行猶予とは、大きな差があります。
ただし執行猶予は猶予期間中の行動によっては取り消され、収監されることがあります。 -
(4)執行猶予でも前科は付く
執行猶予はあくまで刑の「猶予」であり、無罪放免ではありません。犯した罪自体は、裁判で認定されているのです。
そのため前科がつきます。前科が付くと一定の職業に就けないなど、生活にある程度の制約や影響が生じます。
またその後再び罪を犯した場合に、前科があることは裁判での量刑を決める際などに、被告人にとって不利な要素になります。
2、執行猶予が付く条件
殺人や強盗など重大な罪を犯した被告人に執行猶予が付いて社会復帰すれば、社会を不安に陥れるでしょう。そのため執行猶予が付けられるのは、刑事裁判のうち一部に限られています。
-
(1)執行猶予が付く条件
執行猶予の対象は、次のように規定されています(刑法第25条)。
- 3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金の言い渡しを受けた
- 禁錮以上の刑に処せられたことがない
- 禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日、またはその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない
そのため刑罰が「死刑または無期、もしくは5年以上の懲役」である殺人罪など、重大な犯罪の被告人については、たとえ前科がなかったとしても執行猶予を受けることはありません。
-
(2)実際に猶予が付くかはケース・バイ・ケース
上記の条件を満たしていたとしても、実際に執行猶予が付くかどうかはケース・バイ・ケースです。
初犯であったとしても以下のようなケースでは、執行猶予が付かずに実刑判決となることがあります。- 手口が悪質
- まったく反省が見られない
- 再犯のリスクが大きい
- 被害者の処罰感情が強い
また執行猶予の期間も、事件の内容や被告人の態度などによっては通常よりも長く設定されることがあります。つまり、それぞれの事件の事情などによると言ってよいでしょう。
なお、実際の執行猶予の割合は、毎年法務省が作成している犯罪白書に掲載されています。令和元年は有期懲役刑が裁判で確定したケースが約4万6000件だったのに対し、全部執行猶予となった率は約60%でした。
3、執行猶予を獲得するためにすべきこと
裁判で執行猶予判決を目指したいのであれば、弁護士のサポートを受けるとともに、以下のような対応が必要となります。
-
(1)示談、被害弁償
刑事事件において、重すぎる処罰を科されないようにするために積極的に行われる弁護活動のひとつが、被害者との示談です。窃盗や詐欺など被害者がいる場合には、謝罪や被害弁償を行うことで、示談を目指すことになります。
示談が成立すると、被害者が一定程度は被告人を許していると判断される材料のひとつとなりえるためです。
ただし被告人は留置場に入っていて自ら対応できないほか、謝罪を申し出ても怖がられたり、逆に被害者の気持ちを逆なでしたりしてしまうケースは少なくありません。そのため示談は信頼できる弁護士に対応を依頼することをおすすめします。 -
(2)真摯な反省
裁判で被告人に反省の様子が見られなければ、裁判官は再犯のおそれがあると考えるでしょう。
そこで刑事裁判ではまず罪をしっかりと認め、被告人質問などの際に被害者に謝罪して反省の態度を示したり、反省文を書いて提出したりするなどして、真摯な反省を裁判官に示しましょう。 -
(3)家族による監督
執行猶予を受けて社会に戻った後、再犯をせず更生の道を歩むためには、周囲のサポートが欠かせません。
特に大事なのは家族による監督です。
そのため家族が裁判に出廷したり書面を提出したりして、社会復帰後の被告人の監督を約束すれば、更生が期待できると判断されて執行猶予を付けてもらえる可能性があります。
家族の裁判協力の方法については、弁護士が適切なアドバイスを行えます。
4、執行猶予中の生活で注意するべき点
執行猶予は期間中の生活の仕方によっては取り消される可能性があります。取り消される条件は具体的には以下の通りです。
-
(1)執行猶予が取り消されるケース
次のような行為をした場合、執行猶予は取り消されます(刑法第26条)。
- 執行猶予期間中に罪を犯し、執行猶予の付かない禁錮以上の刑に処せられた
- 執行猶予付き判決を言い渡される前に犯した罪で、執行猶予の付かない禁錮以上の刑に処せられた
- 執行猶予付き判決を受ける前に、ほかの罪で禁錮以上の刑に処せられたと判明した(例外あり)
また次のケースでは、裁判官の判断によっては執行猶予が取り消される可能性があります。
- 執行猶予期間中に罪を犯し、罰金刑に処せられた
- 保護観察処分を受けたものの、遵守事項を守らない
- 執行猶予付き判決を受ける前に、ほかの罪で執行猶予の付いた禁錮以上の刑に処せられたと判明した
-
(2)服役期間が長くなる
執行猶予期間中に再犯をして懲役刑に処せられた場合、執行猶予は取り消され、執行猶予を受けた前の判決分と合わせて服役しなければいけなくなります。
たとえば懲役2年、執行猶予3年の判決を受け、判決から2年で再び罪を犯して懲役3年を言い渡された場合は次のようになります。
「前の裁判の懲役2年」+「再犯の裁判の懲役3年」=5年服役
2年間、法律を守って静かに生活していたとしても、酒に酔って他人を殴ってけがをさせて実刑判決を受けた場合、それまでの努力はすべて水の泡となってしまいます。
長期間の服役となれば精神的につらく、家族にも影響は大きいでしょう。
5、まとめ
執行猶予は無罪放免ではありません。前科は当然付きますが、刑務所に入らずに通常の生活に戻れるという点は、社会復帰という面においても大きなメリットです。
対象の刑事事件で執行猶予を目指す場合には、弁護士による示談や裁判のサポートが欠かせません。ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは、刑事事件対応の知見が豊富な弁護士が、執行猶予付き判決を目指して力を尽くします。まずはご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています