失火罪とは? 重過失失火罪との違いと火事を起こした場合の法的責任

2023年01月12日
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失火罪とは? 重過失失火罪との違いと火事を起こした場合の法的責任

令和3年5月、姫路市内で不審火相次いでいることが報道されました。これが放火であれば、放火した犯人は罪に問われることになるでしょう。

他方、わざとではなく火事を起こしてしまった場合のことを「失火」と呼びます。そして失火には重過失失火罪や業務上失火罪などがあり、放火と同様、刑法上の罪となり処罰の対象となっているのです。

本コラムでは、失火罪と重過失失火罪の違いはどこにあるのかについて、姫路オフィスの弁護士が解説します。

1、失火罪が成立するための3つの要素

失火罪とは、過失により火災を起こしてしまった場合に成立する罪のことです。たとえば、「てんぷら火災」などがその例ですが、放火罪ではなく、失火罪が成立するためには、以下の3つの要素が必要となります。

  1. (1)過失があったこと

    「過失」とは、必要な注意をしなかったこと、つまり「不注意」「ついうっかり」を意味します。不注意でものごとを認識しなかったり、危険を認識していながらそれを止める対策を講じなかった場合、過失があったとみなされます。

    失火罪が成立するような場面でいうと、寝たばこをしていてたばこに火がついたまま寝てしまった、自分が火を出してしまったのに消火活動をしなかったなどが過失にあたります。

  2. (2)焼損したこと

    「焼損」とは、失火して建物などが独立して燃え続ける状態のことです。「独立して燃え続ける」とは、たとえばライターで火をつけようとしたものに火をつけた後、ライターの火を消しても燃え続けることを指します。日本は木造家屋が密集しており、いったん火がつくと隣家に燃え広がりやすいため、独立して燃え始めた時期に焼損が成立するとされています。

  3. (3)公共の危険を発生させたこと

    「公共の危険」とは、建物などが燃えて不特定または多数の方々の生命や財産が危険にさらされることを言います。ただし、ここでいう「危険」とは、燃えている時点でその場にいる人たちが「危険だ」と考える状態ではありません。公共の危険があったかどうかは、火災がしずまった後に、まわりに延焼して被害が拡がる可能性があったかなどから判断されます。

2、失火罪・業務上失火罪・重過失失火罪とは

失火罪は、火災が起きた状況や過失の程度から、「失火罪」「業務上失火罪」「重過失失火罪」の3つに分けることができます。ここでは「業務上失火罪」「重過失失火罪」とは何か、また失火罪と重過失失火罪の違いについて解説します。

  1. (1)業務上失火罪とは

    業務上失火罪とは、火気の発生しやすいものを取り扱う職業の方が、不注意により建物などを燃やしてしまうことで成立する罪のことです。業務上失火罪が適用されうる職業には、調理師や溶接作業員、ボイラー技士、給油作業員などのほか、火災の早期発見・防止につとめる警備員や防火責任者などがあります。

  2. (2)重過失失火罪とは

    重過失失火罪とは、重大な過失により建物などを燃やしてしまったときに成立するものです。ここでいう「重大な過失」とは、失火した者がわずかな注意を払ってさえいれば失火のリスクを防げた状態のことを言います。たとえば、たばこの不始末やガスコンロの消し忘れなどが、これにあたる可能性があります。

  3. (3)裁判例からみる失火罪と重過失失火罪の違い

    失火罪にあたるか重過失失火罪にあたるかの判断基準は、「重大な注意力の欠如」つまり「わずかに注意を払ってさえいれば失火のリスクを防げたかどうか」です。どこまでが失火罪で、どこまでが重過失失火罪なのかを判断するのは極めて難しいのですが、過去の裁判では以下のような判断がなされています。

    <重過失と判断された裁判例>
    • ガソリンの入ったビンを、ふたをしないまま点火中の石油ストーブの近くに置き、ビンが倒れて発火したケース(東京地裁平成4年2月17日判決)
    • 身体が不自由なのにもかかわらず、寝たばこの危険性がわかっていながら漫然と喫煙を続けて火災を起こしたケース(東京地裁平成2年10月29日判決)


    <重過失が認められなかった裁判例>
    • たき火をした後、たき火をした場所とその周辺に水をかけて30分程度様子を見て、「消火した」と思い現場を離れたところ、発火したケース(さいたま地裁平成16年12月20日判決)
    • ガスストーブをつけたままベッドで寝ていたところ、掛け布団がストーブの近くにずり落ちてストーブの火が燃え移り、アパートが全焼したケース(新潟地裁昭和53年5月22日判決)

3、失火罪で問われる責任

ついうっかりやってしまったこととは言え、失火すれば刑事・民事の両方で責任を問われる可能性があります。具体的に、どのような責任を問われるのでしょうか。

  1. (1)失火罪で問われる刑事責任

    自分の不注意でやってしまったとしても、失火で建物などを燃やしてしまった場合は、刑事責任に問われ、刑罰を受けることになります。しかし、放火罪に比べて失火罪は非常に刑が軽く、50万円以下の罰金に処せられます。懲役刑や禁錮刑はありません。

  2. (2)失火罪・業務上失火罪・重過失失火罪の刑の重さとは

    一方、業務上失火罪・重過失失火罪が成立すると、3年以下の禁錮または150万円以下の罰金になります。失火罪に比べ、業務上失火罪や重過失失火罪のほうが刑が重いことがわかるでしょう。これは、わずかに注意を払わなかったことにより火事になる危険性が大きかったことや、火気を取り扱う仕事をしている人が仕事として行っていることがその理由だと考えられます。

  3. (3)民事責任が問われる可能性も

    過失または重過失により火災を引き起こしてしまった場合、民事責任が問われることもあります。火災になれば、自分だけでなく他人の財産や資産にまで甚大な被害をもたらすことが往々にしてあるからです。たとえば、たばこの不始末により自宅だけでなく隣の家まで延焼するなどの実害が出た場合は、隣の家の方に損害賠償を請求される可能性があります。

    ただ、日本は木造家屋が多く、失火による被害が甚大なものになる傾向があります。そのため、失火した本人が責任を問われるのは重大な過失があったときのみと失火責任法で制限しているのです。

  4. (4)重大な過失があれば賠償責任が生じる

    失火責任法で失火の責任が制限されていると言っても、重大な過失があると認められた場合には、不法行為に基づく損害賠償責任が生じます。たとえば、平成30年8月に大分県中津市にある温泉で、打ち上げ花火で宿泊棟4棟を全焼させた男性に対し、市が1266万円の損害賠償金を請求する方針を固めたと報道されています。

4、火事で人を死亡させた場合に成立しうる犯罪

火事を引き起こして人を死亡させてしまったとき、どのような罪になりうるのでしょうか。ここでは、放火をした場合と失火をした場合に分けて考えてみたいと思います。

  1. (1)放火をした場合

    放火とは、わざと建物などに火をつけて燃やしてしまうことです。放火の場合、放火行為に及んだものが物か建物か、また放火した対象が建物である場合に人が住んでいるかどうかにより、罪名や刑罰の重さが異なります。

    <現住建造物等放火罪>
    火をつけた時点で人が使用している建物に放火したときは、現住建造物等放火罪にあたります。火をつけたときに、だれかがその建物を使用していたかどうかは関係ありません。たとえば旅行のため住人が数日間留守にしているときに放火した場合も、この現住建造物等放火罪が成立します。成立すれば、死刑または無期もしくは5年以上の懲役に処せられます。

    <非現住建造物等放火罪>
    逆に、火をつけた時点で人が住んでいないもしくは使用していない建物に放火したときは、非現住建造物等放火罪にあたります。ただし、放火したのが放火犯の所有する建物だった場合と他人の所有する建物だった場合とで、刑罰の重さが異なるのがポイントです。

    自分が所有する建物の場合は、自己所有非現住建造物等放火罪となり6か月以上7年以下の懲役に処せられます。ただし、部屋の一部が焼けただけなど公共の危険が生じなかったときは、罰せられません。一方、他人の所有する建物の場合は、他人所有非現住建造物等放火罪が成立し、2年以上の懲役と罪が重くなります。

    <建造物等以外放火罪>
    建物ではなく、ごみや車、自転車など物に火をつけて燃やした場合は、建造物等以外放火罪となります。このときも不特定多数の人々に危険が及ばなかった場合は、罰せられません。

    また、燃やしたのが自分の所有物だったか他人の所有物だったかという点でも、刑罰の重さが異なります。前者は1年以下の懲役または10万円以下の罰金、後者は1年以上10年以下の懲役となります。

  2. (2)失火をした場合

    失火により人を死なせてしまった場合、失火罪に加え以下のような犯罪が成立します。

    <過失致死罪>
    過失により、失火して人を死亡させた場合は、過失致死罪が成立し、50万円以下の罰金になります。

    <重過失致死傷罪>
    重大な過失により、失火して人を死傷させた場合は、重過失致死傷罪が適用され5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処せられます。

    <業務上過失致傷罪>
    業務を行う上で必要な注意をせず人を死亡させた場合は業務上過失致死傷罪が成立し、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処せられます。

  3. (3)失火により人を死亡させた事例

    平成27年7月、ある海上自衛隊員が大分県杵築市の自宅から単身赴任先に戻るときに、見送りにこない妻に腹をたて、土間に灯油をまいてライターに火をつけたところ、火災が起きて子ども4人を焼死させ、子ども1人に全身やけどを負わせました。この事件で、大分地検は、重過失失火と重過失致死傷罪でこの自衛隊員を起訴しています。

    大分地裁は、被告が業務上のストレスにより精神的に不安定になっていたことを認めたものの、責任能力はあると判断しました。そして、可燃物のある場所でライターに点火した点から、「火災になることは容易に想像ができた」として、禁錮4年6月の判決を下しました。

5、失火罪で弁護士はどう弁護活動をするのか

失火罪や重過失失火罪・業務上失火罪のいずれかが成立しそうな場合、弁護士は次のように弁護活動を展開します。

  1. (1)逮捕・起訴の回避

    火災が小規模またはほとんど実害が出なかった場合を除き、逮捕や勾留を免れることは難しいかもしれません。しかし、逮捕・起訴されても、示談が成立すれば、早期釈放や起訴後の保釈請求が認められる可能性も高くなります。ただし、放火罪と認定された事例もあるため、放火罪と認定された場合は保釈が認められない可能性があることも頭に入れておいたほうがよいでしょう。

  2. (2)示談成立を目指す

    失火で他人の身体や財産に被害が及んでしまった場合は、被害者および被害者の家族の方と示談交渉を行います。ただし、失火により隣家やアパートが全焼してしまった場合などは、被害額が数千万円単位や億単位になることも珍しくありません。そうなると、被害弁償しきれないため、実刑判決が避けられないこともあります。

  3. (3)否認をする

    自分はやっていないのに疑いをかけられて逮捕された場合は、被疑事実を否認するために弁護士が検察官に証拠開示請求を行い精査した上で、被疑者の犯行ではないことを証明できる方法を模索します。捜査機関での取り調べの際も、弁護士がアドバイスを行いますので、アドバイス通りに慎重に答えていく必要があるでしょう。そうすることで、嫌疑不十分による不起訴となる可能性もあります。

6、まとめ

「ついうっかりやってしまった」という場合でも、一度火がついてしまうと、たちまち燃え広がってしまいかねません。そうすれば、その場にいる人々を危険にさらしてしまう上に、大きな損害を引き起こしてしまう可能性があります。

ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは、失火罪などで逮捕された・もしくは逮捕されそうな方やそのご家族の方からのご相談を受け付けています。刑事事件は初動が早ければ早いほど早期釈放される可能性が高くなりますので、できるだけ早めにご来所の上、ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています