黙秘権とは? なぜなんのために行使できるのか、その理由と注意点
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- 黙秘権とは
令和5年5月末時点で、姫路警察署管内では702件の刑法犯罪が認知されています。刑事事件は、警察が事件を認知したのち、被疑者を検挙し、逮捕などの措置を行ったうえで取り調べが始まることになります。
被疑者として検挙されると、捜査当局から取り調べを受けるわけですが、「黙秘権」という権利があることをご存じの方は多いのではないでしょうか。黙秘権とは文字通り捜査当局からの追及に対して黙っていてよいという権利です。しかし、使い方を誤ると被疑者または被告人に不利益が生じることもあることはあまり知られていないのかもしれません。
そこで本コラムでは、黙秘権とはどのようなもので、なぜ何のために行使できるのかという説明から黙秘権を行使すべきケースとそうではないケースについて、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、黙秘権とは?
黙秘権は「供述拒否権」とよばれることもあります。黙秘権を簡単な言葉で表現すると、「刑事事件の取り調べや刑事裁判のときに、事件のことを話したくなければ話さないでよい権利」ということができるためです。
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(1)黙秘権は法律で保障されている権利
黙秘権は、以下のように刑事事件の被疑者または被告人に対して法律で保障された権利です。
- 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。(憲法第38条第1項)
- 被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。(刑事訴訟法第311条第1項)
なお、捜査機関や裁判官には、以下のように刑事事件の被疑者または被告人に対して黙秘権の行使が可能であることを告げる義務があります。
- 取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない(刑事訴訟法第198条第2項)。
- 裁判長は、起訴状の朗読が終つた後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げたうえ、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない(刑事訴訟法第291条第3項)。
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(2)黙秘権が保障されている背景とは?
刑事事件の被疑者または被告人に黙秘権が保障されている理由は、警察など捜査機関による人権を侵害するような過酷な取り調べや、それによる虚偽の自白により冤罪が生じてしまうことを防ぐことにあります。もともと刑法には、刑罰などの制裁で供述を強要してはならないと定められています。
それにもかかわらず、黙秘権を行使できずに、取り調べで捜査機関の圧力により言われるがままに自身にとって不利益なことや事実ではないことを話してしまい、供述調書に署名・指印してしまうと、それは刑事裁判で有力な証拠として扱われます。そして、自身に不利益なことについて虚偽の自白をした場合であっても、「捜査機関による不当な取り調べで無理やり自白させられた」という事実を立証しないかぎり、それを取り消すことは非常に難しいのです。
このように、黙秘権は捜査機関による不当な取り調べや捜査から被疑者または被告人としての基本的人権や利益を守るために、とても重要な権利なのです。自身にまったく身に覚えがないこと、あるいは明確な記憶のないことについては、捜査機関から追及があっても不用意に話さず、黙秘権を行使することもひとつの戦略です。
2、黙秘権を行使できるケース
黙秘権は、いつでも、どこでも、誰に対しても行使することができます。何も話さないか、捜査機関や裁判官に「黙秘権を行使します」と言えばよいだけです。また、一部のことだけを黙秘し必要なことだけを話す「一部黙秘」も認められています。
ただし、自分の住所・氏名・生年月日については、黙秘権を行使できないとする考え方もあります。
3、黙秘権を行使すべきではないケース
黙秘権を行使することが、直ちに被疑者または被告人にデメリットを及ぼすことはないといえるでしょう。しかし、以下のような場合であれば黙秘権を行使することは得策ではないと考えられます。
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(1)明確な証拠がある場合
日本の刑事事件において、もっとも有力な証拠とされるのは被疑者本人の自白です。したがって、黙秘権の行使は自白という有力な証拠を出さないという点では有効といえます。
しかし、かけられた容疑について物証や第三者の証言など明確かつ強力な証拠がある場合、たとえ黙秘権を行使していたことにより自白という証拠がなかったとしても、ほとんど意味がなくなってしまうこともあります。むしろ、「反省していない」とみなされ量刑に悪影響を及ぼすことがあり得るのです。
冤罪でもないかぎり、容疑に明確な証拠がある場合は、黙秘権を行使せず自白をしたほうが得策といえるでしょう。 -
(2)早期釈放を目指す場合
あなたに前科・前歴がなく、事件が比較的軽微かつ生活環境などに問題がない場合は、逮捕されたとしても微罪処分が下され、検察などへ送致されることもなく早期に釈放されることがあります。また、送致されたとしても事件の軽重によっては起訴猶予や不起訴処分になりえるでしょう。
さらに、起訴されたとしても証拠隠滅や逃亡のおそれがないと認められた場合は保釈、有罪判決が出たとしても執行猶予となり、早期に身柄拘束が解かれることになります。このような早期の身柄拘束からの解放という処分を得るためには、事件の軽重も重要ですが、「本人が素直に罪を認めているか」という点も考慮されます。
別の言い方をすると、黙秘権の行使による捜査や審理の遅延が、不必要に身柄拘束を長引かせることになることもあるのです。このように、長期の勾留を避けて早期の釈放を目指すためには、冤罪でもないかぎり黙秘権は行使しないほうが得策である場合もあるでしょう。その判断は、個人では非常に難しいものといえます。
4、弁護士に相談するメリット
近いうちに逮捕されることが予想される場合は、できるだけ早いうちに刑事事件の取り扱いに経験と実績をもつ弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、あなたの利益を守るため、以下のようなさまざまな弁護活動を行います。
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(1)黙秘権を行使すべきか否かについて判断できる
これまで述べたように、黙秘権の行使は被疑者または被告人としての利益や基本的人権を守るために与えられた権利です。しかし、黙秘権の行使が逮捕された被疑者にとってメリットがあるか否かということはケース・バイ・ケースです。黙秘権の行使が、かえって長期の身柄拘束あるいは量刑が重くなるなど、自身の不利益につながってしまうこともあるのです。
近いうちの逮捕が予想されるなかで黙秘権を行使するか否かについて迷うときは、逮捕される前に弁護士にご相談しておいてください。弁護士であれば、あなたの個別事情や事件の内容などを総合的に勘案したうえで、黙秘権の行使があなたにとってメリットがあるのか、それともデメリットしかないのか、今後の取り調べへの対応方針を含めアドバイスを行います。 -
(2)捜査機関と交渉する
事件が発覚する前に自首をし、捜査機関に事件の内容を正直に話し犯罪事実を認めれば、捜査機関に逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断され、逮捕される可能性が低くなります。
自首を検討する段階から弁護士に依頼することには、大きなメリットがあります。たとえば依頼を受けた弁護士は、警察への出頭に同行することができます。そのほかにも、逮捕を回避するために弁護士名義の自首報告書を作成します。また、自首したあとも警察と交渉し、あなたに逃亡の危険性や証拠隠滅のおそれがないことを説明します。そのうえで、在宅事件が相当であり、身柄を拘束する必要性はないと説得するのです。
さらに、自首したあとの逮捕を回避するために、警察から取り調べを受ける際の有効なアドバイスが受けることができます。もし逮捕されてしまったとしても、「事件が軽微であること」、「被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと」、そして「被疑者が反省して罪を認めていること」などが捜査機関に対して主張すれば、早期に身柄拘束からの解放を得られる可能性が高くなります。
身柄拘束からの早期の解放を目指すために、これらのことを逮捕された本人やそのご家族などが捜査機関に説明することは困難です。もっとも、刑事事件の経験が豊富な弁護士であれば、捜査機関を説得するために、客観的な事実を示しながら身柄の釈放を求めた交渉を行うことが可能です。
また、弁護士が捜査機関と交渉するうえで、事件の内容などから黙秘権の行使が妥当ではないと判断した場合は、弁護士はあなたにそのようなアドバイスをします。さらに、起訴されてしまった場合も、弁護士は無罪判決や執行猶予付きの判決に持ち込めるように弁護活動を行います。 -
(3)被害者と示談交渉する
示談とは、民事上あるいは刑事上の争いごとを、被害者と加害者の話し合いで解決することです。
被害者に財産的・身体的被害や精神的苦痛が生じている事件の場合、逮捕の回避あるいは早期に身柄拘束からの解放を得るためには、被害者との間で早いうちに示談交渉を成立させることが重要です。
しかし、被害者との示談交渉は、被害者の処罰感情などから、加害者本人はもちろんのこと加害者のご家族が行うと、さらなるトラブルとなってしまう可能性があります。そもそも、捜査機関が加害者側に被害者の住所・連絡先などを教えることはあり得ません。被害者との面識がなければ示談交渉そのものができないでしょう。
しかし、弁護士であれば職権で被害者の連絡先を捜査機関から得ることが可能です。それにより、早期に被害者と示談交渉を開始することができます。そして、被害者の心情を踏まえた示談交渉を行い、その結果示談成立となれば、早期の身柄拘束からの解放等につながることが期待できます。
なお、示談成立が今後の処分によい影響を及ぼすと考えられる場合は、黙秘権を行使しないほうが賢明となるシーンが多々あります。弁護士とよく相談して決定することをおすすめします。
5、まとめ
黙秘権とは、捜査機関による不当な取り調べや捜査から被疑者または被告人としての基本的人権や利益を守るための権利です。しかし、黙秘権を行使すべきか否かは事件の内容などによりケース・バイ・ケースであり、取り調べを受けるときはその行使について慎重な判断が必要です。
黙秘権を行使すべきかどうかについては、事前に刑事事件に経験と実績のある弁護士と相談したうえで判断することを強くおすすめします。捜査機関から取り調べの出頭要請を受けたなどといった場合には、ぜひお早めにベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでご相談ください。あなたの権利と利益を守るために最善を尽くします。
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