名義預金は遺産分割の対象になる? 相続手続きの方法を弁護士が解説
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国税庁によると、平成30年度の相続税の申告漏れによる課税価格は3538億円、1件あたりの課税価格は2838万円でした。国税庁による相続税の調査は、毎年1万2000件強も行われています。相続税の申告漏れにはさまざまな種類がありますが、多くの方が陥りやすいのが名義預金の申告漏れです。
名義預金は、遺産分割の対象になるのかどうかという点でも揉めるケースが多くなっています。そこで本コラムでは、姫路オフィスの弁護士が名義預金に関するトラブルや税金との関係、名義預金があった場合の対処法について解説します。
1、名義預金とは?
まずは、「名義預金」の意味や、名義預金と認定された場合のデメリットについて解説します。
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(1)名義預金の意味
名義預金とは、たとえば、夫が生前に妻の名義の銀行口座に夫の収入を貯金していた場合などが該当します。つまり、「名義自体は被相続人のものではないものの、実質的に相続人の財産と判断される預貯金」のことを指します。
また、預貯金だけでなく、証券会社に開設された口座で売買された有価証券等も、被相続人のお金であり、被相続人が管理していた場合は名義預金と判断される可能性が高いでしょう。 -
(2)名義預金に認定されることで生じるデメリット
名義預金に認定されてしまうと、以下のようなデメリットが生じます。
●暦年贈与による相続税対策が無駄になってしまう
相続税対策として、多くの方が実践しているのが、「贈与税の控除額内で毎年贈与をする」という節税方法です。贈与税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産について課される税金です。贈与税には、控除額が存在し、基礎控除は「110万円」となります。
基礎控除の範囲内の贈与であれば非課税です。そのため、毎年子どもや孫、配偶者などに110万円贈与し続けることで、相続税を節税することができます。しかし、その積み立てていた預貯金が、「名義預金」だと認定されてしまうと、これまで贈与した金額が相続税の課税対象になってしまうおそれがあるのです。
●贈与税の時効が成立しなくなる
贈与税には、時効が存在し、申告期限から7年が経過すると支払う必要がなくなります。しかし、名義預金の場合は、贈与したとはされず、自分が保有していたことになりますので、贈与税の対象にはならず、贈与税の時効も成立しません。
2、名義預金の認定基準と税務調査のタイミング
では、名義預金はどのような基準で認定されて、どのようなタイミングで税務調査が入るのでしょうか。ここでは、名義預金の認定基準と税務調査について解説します。
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(1)名義預金の認定に基準はある?
配偶者や子ども、孫などの名義の口座が、「名義預金」と認定される明確な条件は公開されていませんが、以下のような状況を考慮した上で最終的には税務署が判断します。
●預貯金をしていたのは誰か
配偶者や子ども、孫などの名義の口座にお金を貯めていたのが、名義人以外の場合で、被相続人から名義人への贈与ではないとみなされると名義預金と認定されることになります。ただし、預貯金をしていたのが被相続人であっても、「贈与」とみなされれば名義預金とはなりません。
●預金は誰が管理していたか
その口座を通常時は誰が管理していたのかも問題となります。名義人が、通帳やキャッシュカードを持っており自由に使うことができるのであれば、「贈与」とみなされて名義預金には認定されない可能性があります。しかしながら通帳やキャッシュカードを被相続人が持っていて、名義人は使うことができなかったという場合は、「贈与」とみなされずに名義口座と認定されるおそれがあるのです。
●名義人が口座の存在を知っていたのか
名義人が、その口座の存在を知らなかった場合も、「贈与」とみなされず名義口座と認定される可能性が高いと考えられます。 -
(2)名義預金の税務調査のタイミング
名義預金についての税務調査は主に相続税を申告したケースで行われます。申告書に不備がある場合はもちろん、被相続人の推定資産よりも申告額が少ない場合、相続財産が非常に高額の場合、名義預金が疑われる場合などに、調査が行われる可能性が高いと言われています。
調査が行われるタイミングは公表されていませんが、申告書を提出した翌年、もしくは翌々年の9月から12月に行われることが多いと言われています。税務調査が入る時点で、税務署は被相続人およびその相続人についてある程度のお金の流れを把握しています。税務調査で申告漏れが発見された場合は、「過少申告加算税」として10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)が課税されます。悪質な隠蔽があった場合は「重加算税」となり、税率は35%です。また、本来納付すべき期限からの利子に相当する「延滞税」が自動的に課されます。
3、名義預金の遺産分割時に起こりがちなトラブルと対処法
名義預金は、相続税だけでなく遺産分割協議でもトラブルになりやすい財産です。名義預金によって遺産分割協議が揉めやすいケースと、その対処法を解説します。
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(1)名義預金の遺産分割で起きやすいトラブル
名義預金の存在が他の相続人に発覚した場合、「名義預金だから、相続財産に含まれる」と主張される可能性が高いと考えられます。その主張が認められれば、名義預金が相続財産に含まれてしまいます。
たとえば、相続財産の総額が6000万円、名義預金が1200万円、相続人が3人で三等分するという場合、名義預金がなければ、それぞれの相続人が2000万円ずつ相続することになります。結果、名義預金の名義人だけは1200万円をプラスした3200万円が手元に残ることになるでしょう。しかし、名義預金まで相続財産に含まれてしまうと、相続財産は7200万円となり、名義預金の名義人の相続金額は2400万円となってしまうのです。 -
(2)トラブルになった場合の対処法
名義預金が相続財産に含まれるかどうかで揉めた場合、まずはその名義人は、「名義預金ではない」という旨を主張することになります。
贈与契約書が作成されている、贈与税を支払っているなどの場合は、贈与されていると判断されやすくなりますので、名義預金と認定されない可能性が高いと考えられます。それらの証拠がない場合も、預貯金通帳やキャッシュカードの保管状況によって、自分が管理していたものであると主張できれば、名義預金として認定されてしまう事態を回避できる可能性が高まるでしょう。
それでも他の相続人が名義預金であると主張する場合は、遺産分割調停を申し立てて、調停委員に間に入ってもらい話し合いを行います。調停が不成立になった場合は、審判に移行します。
4、名義預金への相続税課税を防ぐ方法とは
名義預金への相続税課税を防ぐ具体的な方法を解説します。
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(1)適切に生前贈与を行う
すでに被相続人が死亡している場合は実践できませんが、生前に適切な贈与が行われていれば名義預金とみなされることはありません。適切な贈与とは、「贈与契約書」が取り交わされているというだけではなく、名義人が口座の存在を知っており、名義人自身でその口座の管理していた場合などをいいます。
名義預金と疑われないために、適切に行われた贈与であることを立証する証拠を残しておきましょう。 -
(2)名義人が当該口座を管理していたことを立証する
名義人が確かに贈与を受けていたことを主張するために、その口座を名義人自身やその親権者が管理していたことを主張します。具体的には、「手元に通帳や印鑑があること」や、「口座の届出住所が名義人の実際の住所であること」などを客観的に立証できる資料を用意しましょう。
たとえば、名義人の手元に通帳や印鑑があって、自由に入出金できていた場合は、自宅近くの銀行窓口やATMで出金した記録は、名義人が管理している口座であるという証拠になり得ます。 -
(3)税理士や弁護士に相談する
名義預金を疑われて相続税が課税される可能性がある場合は、税金の専門家である税理士や弁護士に相談してください。名義預金に該当するかどうかを適切に判断した上で、どのように対策すればいいかをアドバイスすることができます。
弁護士は、法的な観点から、遺産分割協議の際の助言が可能です。名義預金問題は、税金面と遺産分割協議の2つの観点から問題になりやすいものです。税理士であれば、名義預金への相続税の課税を避けようとしたばかりに、悪質な相続税の脱税とみなされて、重加算税が課税されるリスクを回避するための対策について検討可能です。
自己判断ではなく、それぞれの専門家に相談することが大切です。可能であれば、弁護士と税理士が連携できる法律事務所のほうが、何度も相談しなおす必要がなく、スムーズな対応が期待できるでしょう。
5、まとめ
遺産分割協議や、相続税の申告の際に名義預金が問題になるケースは少なくありません。名義預金と認定されてしまうと、遺産分割協議によって他の相続人に財産を分与しなければなりません。また、相続税の申告が終わったあとに名義預金が発覚すると加算税や重加算税が課税される可能性もあります。
これらの問題を総合的に解決するためには、税理士と弁護士への相談が欠かせません。ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは相続に関するご相談を広く受け付けておりますのでお気軽にご相談ください。グループ内には税理士も在籍しておりますので、相続税対策を含めたアドバイスが可能です。
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