山林の相続を行うときの5つのポイントとは? 弁護士が解説します

2021年06月08日
  • その他
  • 山林
  • 相続
山林の相続を行うときの5つのポイントとは? 弁護士が解説します

姫路市は都市から山林までバランスよく含んだ町であり、市の面積 約53000haのうち森林面積は28000hもあります。したがって、姫路市にお住まいのご両親が持つ財産に森林が含まれることは現実的にありえるでしょう。

しかし、親が亡くなってから、遺産の全体像を始めて把握する方が多くなっています。中には、山林や農地などを親が所有していて、対処に悩むこともあるでしょう。自宅やマンションなどの不動産とは違って、山林の相続には複雑な手続きが含まれます。山林の相続をどのように進めていくのか、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。

1、山林相続の進め方

相続財産に山林が含まれることがわかったら、次の3つの手続きを行う必要があります。

  1. (1)相続財産の調査

    まずは、遺産調査によって、相続財産の全体像をつかみましょう。山林をどうするかは、そのほかの遺産の総額やバランスを見て判断する必要があるからです。

    また、山林がどんな価値を生むのか調べることも遺産調査のひとつです。具体的には、まず被相続人の預金通帳や郵便物をもとに調査をします。郵便物をみると、証券会社の取引や、借金などのマイナスの資産についても把握できる可能性があります。

    さらに、役所からの固定資産税の通知書があれば不動産も把握できるでしょう。固定資産税通知書に記載された土地の地番や建物の家屋番号を手掛かりにして、法務局で登記簿謄本を取得することも可能です。

    なお、不動産が複数ある場合には、「名寄帳」を役所で取得する方法をおすすめします。名寄帳とは、その役所内にある課税不動産のすべてが掲載されたもので、相続人ならば役所に申請すれば取得することができます。

    遺産調査は手間と時間がかかります。しかし、最初に、きちんと整理をしておかないと、後から知らない遺産が出てきたら面倒です。また、万一借金などの負債が出てきたら、相続人に大きな負担が生まれる可能性があります。相続の最初の時点でしっかりと遺産全体を把握しておくことが、あとあとの紛争を防ぐためにも重要なのです。

  2. (2)遺産分割協議

    遺産の全体像がわかったら、相続人間で遺産をどうやって分割するかを話し合うことになります。

    もし遺言があれば遺言に従って分割をすることになりますが、遺言がなければ、相続人全員が参加して協議をしなければなりません。これを、遺産分割協議といいます。

    なお、民法上、誰が相続人となるかは決まっています。亡くなった人の配偶者は常に相続人です。それ以外の相続人は、子どもが第1順位、親が第2順位、兄弟姉妹が第3順位となります。

    自分の父が山林を所有していた場合、母が2分の1、残りの2分の1を子どもたちが均等に共有として相続するのが基本です。

    しかし、山林は管理も必要ですし、その手続きも複雑です安易に相続してしまうと、思わぬ負担がかかる可能性もあります。したがって、誰が山林を相続するか、相続人の間で十分に話し合って納得のうえで決めるべきでしょう。

    なお、遺産分割協議の話し合いで合意が成立するまでは、法律上は、相続人全員で山林を共有している状態が続きます。

  3. (3)法務局への届け出

    山林は、一般的な土地や建物と同じく、不動産に該当します不動産を相続した場合は、法務局への登記名義の変更手続きが必要です

    相続によって山林の登記名義を変更することを、山林の相続登記と呼びます。相続登記に期限はありませんが、放っておいていいことはありません。相続人間で遺産分割協議が完了したら、速やかに法務局で相続登記の手続きをしましょう。

  4. (4)市区町村へ届け出

    一般的な不動産であれば、法務局へ登記の申請を行えば、それで手続きは完了です。しかし、山林の場合は、市区町村への届け出が必須となります。

    具体的には、山林を相続した場合、90日以内に市区町村へ「所有者の届出」をしなければなりません。戸籍謄本や山林の位置を示す図面などの書類も添付します。届け出をしなかった場合は法律上10万円以下の過料と定められているのです。

    90日はあっという間に過ぎますので、うっかり届け出を忘れたことで過料を受けることのないように、早めに手続きをとりましょう。

    なお、山林を相続したけれども、実際に自分で管理するのは難しいという場合もあるでしょうこの場合は、森林組合に対して、山林を売りたい、管理を任せたいといった意思表示をすることが可能です

    この意思表示をしておくことで、森林組合が、山林を買いたい人や借りたいという人を見つけてくれる場合があります。山林を売りたい方や管理に不安がある人は森林組合への意思表示を検討するとよいでしょう。

2、相続したくない場合はどうすべきか

遺産のすべて、もしくは一部を相続したくない場合、相続放棄、もしくは限定承認と呼ばれる手続きを行う必要があります。

  1. (1)相続放棄とは

    「相続放棄」とは、その言葉の通り、相続する財産のすべてを放棄するための手続きです。

    山林を相続すると、さまざまな手続きが必要であるうえに、その後の管理責任もついてきます。また、税金も払っていかなければなりません。こうした負担を考えると、相続したくないとお考えになる方もいるでしょう。確かに相続をすべて放棄すれば、山林を相続して手間を背負い込むことはありません。

    ただし、相続放棄というのは一部の財産だけを放棄するということはできません相続財産のすべてをまとめて放棄することになります。つまり、山林以外の預貯金や不動産についても、相続人としての権利をすべて失うことになるのです。相続放棄をする前に、遺産の全体像を把握して、放棄すべきかどうか慎重に検討すべきでしょう。

    なお、相続放棄手続きは、相続を知ってから3か月以内に行わなければいけないという期限があります。判断に迷う場合は、早めに相続に詳しい弁護士に相談することが望ましいでしょう。

  2. (2)限定承認とは

    「限定承認」とは、相続する財産を限度として債務の負担を受け継ぐという特殊な手続きです。

    限定承認手続きを行えば、仮に多額の借金が発覚した場合でも、自分が相続した遺産以上に支払う必要はありません。

    このように説明すると、とても便利な制度のように思われるかもしれませんが、限定承認は相続放棄と異なり、かなり複雑で面倒な手続きです。参考までに、以下に必要な手続きをまとめておきます。

    ① 家庭裁判所に対する限定承認の申述

    ② 請求申出の公告・催告
    債権者に請求申出の公告をしたり、個別の債権者に催告したりします。

    ③ 財産管理口座の作成
    相続人のうちの1人が相続財産管理人となって新しく財産管理口座を開設します。

    ④ 相続財産の換価手続き
    被相続人名義の銀行預金を財産管理口座に預け替えたり、不動産について競売の申立をしたりして換価します。

    ⑤ 配当弁済手続き
    届け出のあった債権者などに債権額の割合に応じた配当を行います。現時点で返せるだけの借金を返す、というイメージです。

    ⑥ 残余財産の処理
    弁済配当をしても余った財産をやっと処理することができますが、裁判所への報告などの手続きは残ります。


    このように、限定承認の制度は手続きが煩雑すぎるという点がデメリットになりえます。そのためか、実務でもほとんど利用されていません。

3、山林の相続税評価額の計算方法

山林を相続した場合には、相続税が生じる場合があります。ここでは、山林の相続税評価額の評価方法について説明します。

山林の相続税評価は、次に掲げる区分に従って評価を行います。

  1. (1)純山林および中間山林(市街地付近にある山林)

    純山林や中間山林(市街地付近にある山林)は、固定資産税評価額に、国税局長の定める倍率を掛けた価額が評価額となります。

  2. (2)市街地山林(市街地区域などにある山林)

    市街地山林は、原則として、いわゆる宅地比準方式により評価します。具体的には、その山林が宅地とした場合の価額から、その山林を宅地転用する場合において通常必要と認められる造成費用の額を控除して評価します。ただし、森林法で、保安林の指定を受けている山林は、土地の利用または立木の伐採についての制限を受けているため、その制限の度合いに応じた控除割合を控除した金額によって評価します。

    このように、山林評価額の計算は、一般の不動産と比べて、かなり専門的なものなのです。専門の士業に依頼したほうが、スムーズに手続きを進めることができるでしょう

4、山林を相続せずに放置した場合、起こりうる問題とは

手続きが大変だからと、相続手続きを行わないまま時間が経過してしまったというケースがあります。その場合、次のような不都合が起こりえます。

  1. (1)相続人が世代を追うごとに増え、遺産分割協議が難しくなる

    山林の相続は複雑であるために、ついつい放置しがちです。しかし、そのまま放置すればするほど、相続手続きは難しくなります

    なぜなら、時がたてばたつほど、相続人が死亡して次の相続人に権利が引き継がれるからです。父から子どもへの段階なら、多くても数人で済みますが、さらに放置すると、孫、ひ孫と相続人が増えていきます。

    また、お互いの関係も疎遠になり、居場所を探すだけで一苦労ということも珍しくありません。こうなると、次の世代に面倒を残すこととなるのでおすすめできません。

  2. (2)管理責任や税負担を逃れられるわけではない

    遺産分割手続きが完了するまでの間、法的には相続人全員が山林を共有した状態が継続します。つまり、全員が山林の所有者としての責任を負っているわけです。手続き自体をしなくても、所有者としての管理責任を免れるわけではありません。

    また、本人が亡くなっても固定資産税は発生し続けます。税務署は、遺産分割協議が終わるまで納税を待ってくれるわけではありません

  3. (3)災害の原因となる

    山林は、大地に根がしっかりと生えることで地盤を支えています。また、山林には雨水を保水する機能があるため大雨の際には、しっかりと雨を吸って河川が氾濫しないように私たちを守ってくれています。

    ところが、山林が適切に管理されずに放置されていくと、次第に荒れ果てていきます。すると、本来の山林の力、つまり地盤を支えて保水する能力が低くなり、結果として土砂崩れや豪雨被害などの災害に結びつく可能性があります。

    山林を相続した場合は、放置することなく適切に管理することが求められているのです。

5、まとめ

遺産に山林がある場合の手続きは法的にも複雑であるだけでなく、税金の計算も特別な処理が必要です。また、山林を相続する際には、さまざまな責任を負う可能性もあるため、遺産分割には慎重な検討が必要です。

ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは、相続について豊富な知見を持つ弁護士が在籍しています。安心してご相談ください。さらに、ベリーベストグループには、税理士なども在籍しているため、山林の相続という特殊なご相談についてもワンストップで適切なアドバイスをご提供できる体制をご用意しています。ぜひ山林の相続でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています