二世帯住宅の相続で兄弟間のトラブルに! 相続時の注意点を解説
- その他
- 二世帯住宅
- 相続
大阪国税局による相続税の申告事績の概要によると、姫路税務署管内で平成30年に亡くなった方のうち相続税の課税対象となった被相続人の人数は546人でした。姫路税務署では、兵庫県内で2番目に多く相続税の申告・課税事案を扱っています。
相続が発生した場合に、遺産の評価の大部分を占めるのが不動産です。近年では、親世帯と子世帯が一緒に居住する二世帯住宅が増えてきています。二世帯住宅では、親世帯と子世帯で不動産を共有していることが多いため、親の相続のときに、親の持ち分をめぐって子どもらの間で争いが生じることがあるのです。将来相続争いにならないために事前に対策をしておくことが重要ですし、実際に争いになったとしても対処法を知っていれば安心でしょう。
本コラムでは、二世帯住宅を相続するときの注意点などをベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、二世帯住宅の相続方法
二世帯住宅を相続する際には、通常の相続と比べてどのような違いがあるのでしょうか。以下では、二世帯住宅の相続方法と二世帯住宅の相続税の特例について説明します。
-
(1)二世帯住宅の相続も一般的な相続と同様
結論からいうと、二世帯住宅であっても一般的な相続と同様の方法によって相続をすることになります。したがって、二世帯住宅が親世帯との共有名義であった場合には、親の共有持分が相続の対象になるのです。
そして、遺言書が残されていない場合には、親の共有持分とその他の遺産を含めて、相続人全員で遺産分割協議をして、誰がどの遺産を取得するかを決めます。遺産分割協議によって解決した場合には、その内容を遺産分割協議書に記載し、親の共有持分については、遺産分割協議の内容に従って相続登記を行います。
ただし、二世帯住宅の場合には、後述するような不動産の共有関係から生じる特有のトラブルが起こりえます。そのため、一般的な相続と異なる配慮が必要になるケースがあるでしょう。 -
(2)相続税の特例
一般的な相続の場合には、相続税の基礎控除として、以下の金額が相続財産の合計額から控除され、相続税が計算されることになります。
3000万円+600万円×法定相続人の人数
たとえば、父が亡くなり(配偶者である妻はそれ以前に死亡)、相続人が長男と長女の二人だった場合には、4200万円が基礎控除額になり、相続財産の合計額から控除されることになります。
そして、二世帯住宅の相続においては、上記の基礎控除の他に、小規模宅地等の特例を利用することができます。
小規模宅地等の特例とは、簡単にいうと、被相続人と同居している建物の土地を相続したときには、土地の面積が330平方メートルまでは土地の評価額が80%減額されるという制度です。たとえば、土地(330平方メートル以内)の評価額が1億5000万円であったとしても、相続税の評価においては3000万円に減額されることになります。
減額の幅が大きいため、基礎控除を併せると非課税となるケースも相当数あるといえるでしょう。
小規模宅地等の特例は、節税効果の高い制度です。二世帯住宅の相続の際には、ぜひ利用してみるとよいでしょう。
2、二世帯住宅の相続でトラブルになるケース
二世帯住宅の相続は通常の相続と同様の手続きだとしても、二世帯住宅の相続では二世帯住宅特有のトラブルが生じるおそれがあります。以下では、二世帯住宅で起こりえる代表的なトラブルについて説明します。
-
(1)遺産分割方法をめぐるトラブル
二世帯住宅を建てるときには、親世帯が亡くなったときには、子世帯が引き続きその家に居住していくという予定で建て、双方が所有者として共有登記をしていると思います。そのため、二世帯住宅を相続する場合、通常は、二世帯住宅に居住する子世帯が親の持分を相続し、引き続き居住を希望するというケースが多いのではないでしょうか。
しかし、親の遺産が二世帯住宅の持分部分しかないようなケースだと、子世帯が親の持分を相続してしまうと、他の子が相続する遺産はないということになってしまいます。これでは、子世帯は親のお金で家を建ててもらったということと同じことになり、親から何の援助もなく、遺産ももらえない他の子は不満を募らせることでしょう。
このように、二世帯住宅の相続の場合には、遺産分割方法をめぐって他の相続人とトラブルになるケースがあります。 -
(2)不動産の売却をめぐるトラブル
二世帯住宅の相続の方法として、子世帯が他の相続人と親の持分を共有で取得するというケースもあります。共有名義の不動産を売却することは、「共有物の変更」にあたることから、民法第251条によって、共有者全員の同意がなければ売却をすることができなくなります。
何らかの事情で二世帯住宅を売却したいと考えたとしても、他の共有者の同意がなければ売却することができません。共有持分だけを売却する方法も理論上は可能ですが、共有持分だけでは買い手が見つかりづらく、実際に売却するというのは困難でしょう。
このように、二世帯住宅は、不動産の売却の場面でもトラブルになるケースがあります。 -
(3)不動産の利用をめぐるトラブル
被相続人が亡くなり遺言書が残されていなければ、被相続人の持分は遺産分割協議がまとまるまでは、相続人の共有となります。
共有不動産については、民法第249条によって、共有者が持分に応じて共有不動産全部を使用することができることになります。そのため、二世帯住宅の利用にあたって、他の相続人とどのように利用していくかでトラブルになることがあるでしょう。
また、子世帯が引き続き居住していくとしても、他の相続人に対して使用料を支払わなければならないケースも考えられます。その金額をいくらにするかということでトラブルが生じる可能性も否定できません。
3、二世帯住宅を相続したときの対処法
では、二世帯住宅を相続したときにはトラブルにどのように対処していけばよいのでしょうか。以下では、相続開始前の対処法と相続開始後の対処法に分けて説明します。
-
(1)相続開始前の対処法
相続開始前の対処法としては、以下のものがあります。
①共有名義の解消
相続開始前に被相続人が行うことができる対策として、共有名義を解消するという方法があります。被相続人名義の持分が残ったまま相続が開始することで相続人の間でトラブルが生じることになるため、相続開始前に被相続人の共有持分を子世帯に売却または贈与するという方法です。
しかし、持分を譲渡する場合には、売却であれば譲渡所得税が贈与であれば贈与税がかかることになります。したがって、共有名義の解消によるメリットと税金の負担というデメリットを比較して検討する必要があります。
②遺言の作成
被相続人が生前に遺言書を残しておくという方法もトラブル回避のために有効な手段となりえます。
遺言書が残されていない場合には、相続人同士の話し合いによって二世帯住宅の分割方法を決めることになりますが、お互いの利益や言い分があるケースは少なくありません。そのため、当事者同士の話し合いではなかなか解決しないことも起こりえます。
遺言書で、二世帯住宅の持分を子世帯に相続させる旨の内容を残しておくことで、遺産分割をめぐるトラブルを回避できるでしょう。ただし、子世帯以外の相続人には、遺留分という最低限の権利があります。もし、遺留分を侵害する内容の遺言になってしまうと、遺留分をめぐるトラブルに発展するおそれがありますので注意が必要です。 -
(2)相続開始後の対処法
相続開始後の対処法としては、以下のものがあります。
①遺産分割協議
二世帯住宅でよくあるトラブルは、子世帯に親世帯の持分を相続させてしまうと、子世帯以外の相続人がもらう遺産がなくなってしまうため生じます。
他の相続人としても二世帯住宅に住みたいというわけではなく、相続分に相当する遺産をもらいたいだけということが多いのです。そこで、遺産分割協議のなかで他の相続人の相続分にも配慮した形で遺産分割方法を話し合うことが有効な手段となります。
不動産以外にも現金・預貯金などの遺産が十分にあれば、他の相続人に現金・預貯金を渡すことで解決が可能です。しかし、被相続人に二世帯住宅以外の遺産がほとんどないというケースでは、その方法はとれません。
被相続人に二世帯住宅以外の遺産がほとんどないケースでの遺産分割方法の手段としては、以下のようなものが考えられます。- 子世帯が親世帯の持分を取得し、価格賠償として他の相続人に金銭を支払う
- 子世帯が親の介護をしていたときは寄与分を主張する
②不動産を売却
子世帯が価格賠償をするだけの金銭を捻出できない場合には、二世帯住宅を売却し、売却代金を分けるしかないでしょう。話し合いが長引くときは、他の相続人から共有物分割請求をされる可能性もあります。
この方法では、子世帯は二世帯住宅に引き続き居住することができませんので、最終的な手段になるのではないでしょうか。
4、共同名義にするのは避けるべき?
前述のとおり、共有関係にある不動産は単独所有の場合と異なり、不動産の処分、利用などについて制限を受けることになります。自分の持分のみを売却することも理論上は可能ですが、共有物件を購入してくれる人を探すのはかなり難しいでしょう。さらに、固定資産税をどちらが負担してくかという問題もあります。
相続人同士の話し合いがまとまらず、次の相続が発生した場合には、共有者がさらに増加するという事態にもなり、争いはますます複雑になりえます。そのため、できる限り不動産を共有名義にするということは避けるべきでしょう。
もっとも、共有名義の二世帯住宅には、小規模宅地等の特例による税務上の大きなメリットがありますので、場合によっては共有名義にしておいてもよい場合があります。たとえば、被相続人の生前に推定相続人との間でよく話し合いをして、将来争いにならないような対策を講じているのであれば、二世帯住宅の相続によるトラブルの可能性は低くなります。
相続争いは、相続人の間で生前に十分な交流や話し合いがなされていないケースで多く発生するものです。共有名義とするのであれば、家族で納得できるまでよく話し合うとよいでしょう。
5、まとめ
二世帯住宅を相続するときには、共有不動産特有の問題が生じるおそれがあります。安易に共有名義にするは避けたほうがよいでしょう。起こりうるトラブルを十分に想定し、将来トラブルが発生しないように遺言書などで対策するということが重要になります。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士だけでなく税理士なども所属しています。相続については、法律面だけでなく、税金面からもサポートをすることが可能です。二世帯住宅の相続についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています