相続の持分とは? 共有財産があるときの扱い方と考え得るリスク

2022年02月28日
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相続の持分とは? 共有財産があるときの扱い方と考え得るリスク

姫路市役所では、ご家族が亡くなられたときに必要となる市役所での手続きをワンストップで行える「おくやみ窓口」を開設しています。しかし、相続に関してはすべての手続きを市役所のみで完結できるものではありません。

相続が発生した際、遺言書がある場合には、遺言書の内容に従って遺産を分けることになりますが、遺言書がない場合には、原則として法定相続分に従って相続人同士で遺産を分けることになります。

遺産によっては、特定の相続人が単独で取得するのではなく、相続人全員による共有となることがありますが、これにはリスクも伴います。共有状態のままにしておく場合には、将来のリスクも十分に理解した上で判断することが必要です。今回は、相続において共有財産があるときの扱い方とそのリスクについて、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。

1、相続における持分とは

相続が開始した場合、遺言書が作成されていなければ、基本的には、法定相続人がそれぞれの法定相続分に従って遺産を分けることになります。では、法律上、法定相続分としてどのような割合が定められているのでしょうか。

  1. (1)相続人が有する法定相続分

    被相続人が遺言書を残していた場合には、原則としてその内容に従って遺産を分けることになるため、遺産分割協議は必要ありません。
    しかし、遺言書がない場合には、相続人全員による遺産分割協議によって遺産の分割方法を決めることになります。誰にどのように遺産を分配するかについては、相続人全員の同意があれば自由に決めることができますが、公平な遺産分割を行うためにも、法定相続分に従って遺産を分けることが一般的です。

    法定相続分とは、民法で定められている、各法定相続人が相続することができる割合のことをいいます。
    法定相続分の割合は、誰が相続人になるかによって異なってきますので、具体的な割合については、後述します。なお、被相続人の配偶者は常に相続人になり、それ以外の人については、以下の順位で相続人になることができます。

    ① 第1順位
    被相続人の子は、第1順位の相続人になります。被相続人の子が被相続人よりも先に死亡していた場合には、代襲相続によってその子(被相続人の孫)が相続人となります。

    ② 第2順位
    被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)は、第2順位の相続人になります。父母と祖父母など直系尊属が複数の世代にわたって存命であるときは、より被相続人に近い世代である父母のみが相続人となります。
    なお、第2順位の相続人は、第1順位の相続人がいない場合にのみ相続人になることができます。

    ③ 第3順位
    被相続人の兄弟姉妹は、第3順位の相続人になります。被相続人の兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡していた場合には、代襲相続によってその子(被相続人の甥・姪)が相続人になります。
    なお、第3順位の相続人は、第1順位および第2順位の相続人がいずれもいない場合にのみ相続人になることができます。
  2. (2)相続財産の共有持分

    相続人が2人以上いる状況で相続が開始した場合には、遺産分割が完了するまでの間、相続財産は、相続人全員の共有状態となります(民法898条)。すなわち、相続人は、何も手続きをしていなくても、相続財産に対して法定相続分に応じた共有持分を有する状態になります。

    また、預貯金等の物理的に分割できる財産については、各相続人の法定相続分に応じて分けることが容易ですので、共有の問題が生じる可能性は低いでしょう。しかし、不動産などの物理的に分割することが困難な財産は、遺産分割協議の結果、相続人による共有状態のままとされることがあります。この場合には、遺産分割の内容に従って、相続人それぞれが当該財産の共有持分を有することになります。

    さらに、被相続人が不動産の共有持分を有していた場合には、当該共有持分が遺産分割の対象になりますので、相続人は、元々の共有者とともに当該不動産を共有することになります。

2、一般的な相続分の割合

相続が開始した場合には、誰が相続人になるかによって、各相続人の相続分(相続の割合)は異なってきます。以下では、一般的な相続を例にして説明します。

  1. (1)相続人が配偶者と子である場合

    この場合の相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1となります。子が複数人いる場合には、2分の1の相続分をさらに子の人数で割ったものが子それぞれの相続分となります。
    たとえば、子が2人きょうだいである場合には、相続分はそれぞれ4分の1ずつとなります。

  2. (2)相続人が配偶者と直系尊属である場合

    この場合の相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属(父母や祖父母など)が3分の1となります。父母がともに存命の場合は、父および母の相続分は、それぞれ6分の1ずつとなります。

  3. (3)相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合

    この場合の相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。兄弟姉妹が複数人いる場合には、4分の1の相続分をさらに兄弟姉妹の人数で割ったものが兄弟姉妹それぞれの相続分となります。

  4. (4)相続人が配偶者のみ、子どものみ、直系尊属のみ、兄弟姉妹のみである場合

    この場合は、各自が遺産のすべてを取得することになります。同順位の相続人が複数人いる場合は、相続人の数で按分したものが各自の相続分となります。

3、共有持分となる相続で想定しうるリスク

不動産の共有持分を相続することによって、将来、以下のようなリスクが想定されます。

  1. (1)不動産の利用処分に関するリスク

    共有名義の不動産を相続する場合には、不動産の利用処分に関してさまざまな制約を受けることになります。

    たとえば、共有不動産を第三者に貸しているケースで賃借人との賃貸借契約を解除する場合には、共有者の共有持分価格に従ってその過半数で決定しなければなりません(民法252条)。また、農地を宅地に変更する場合や不動産を売却する場合などは、共有物の変更にあたりますので、共有者全員の同意がなければ行うことができません(民法251条)。

    不動産を共有状態にしておくと、共有者1人の判断による不動産の利用処分が大きく制約されることになります。したがって、結果として不動産の有効利用が阻害される事態になる可能性があります。

  2. (2)不動産の費用負担に関するリスク

    不動産の所有者に対しては、固定資産税が課税されます。共有不動産であった場合には、共有者それぞれが固定資産税の納付義務を負うことになります。

    一般的には、市区町村役場に代表者を届けておくことで、代表者のもとに固定資産税の請求が来て、代表者が支払うことになります。代表者が支払った固定資産税については、他の共有者に対して請求することができますが、共有者の連絡先がわからないというような場合には、代表者がすべて負担しなければならないこともあります。

    反対に、代表者が固定資産税を滞納した場合には、他の共有者に対して固定資産税の請求がなされることもあります。請求を受けた共有者は、たとえ不動産を利用していなかったとしても、固定資産税を納めなければなりません。

  3. (3)不動産の権利関係が複雑になるリスク

    不動産の共有者に相続が発生すると、次々に共有者が増えていくことになり、権利関係が複雑になるというリスクが生じます。当初は、顔の見える関係で気軽に連絡もできていたとしても、相続によって代が変わるごとに関係性も希薄になっていき、現在誰が共有者であるのかを把握すること自体が難しくなることもあります。

4、弁護士に相談したほうがよいケース

共有持分を相続した場合には、相続時に共有関係の解消に向けて手続きを進めなければ、将来トラブルになる可能性があります。そのため、以下のようなケースでは、弁護士に相談をしたほうがよいでしょう。

  1. (1)他の共有者が不明であるケース

    共有持分を相続した場合には、当該遺産の利用方法や処分方針について他の共有者と話し合いをしなければならないことがあります。しかし、相続登記をせずに放置していたようなケースでは、現在の所有者が登記簿上からは判明しないことがあり、誰と話し合いをすればよいかわからないという事態が生じるでしょう。

    このような場合には、弁護士に依頼をすることによって、他の共有者の相続関係を調査することができます。調査を行えば、現在の権利者を確定することが可能です。また、弁護士は、代理人として相手と話し合いを進めることができますので、面倒な話し合いをすべて弁護士に任せることができます

  2. (2)他の共有者が共有関係の解消に応じてくれないケース

    不動産などの資産を共有状態にしておくことは、さまざまなリスクが生じますので、相続の機会に共有関係を解消することが望ましいといえます。

    共有関係を解消する方法としては、以下のような方法が考えられます。

    • 自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう方法
    • 自分の持分を第三者に売却する方法
    • 不動産を売却して共有持分に応じて売却金を分配する方法
    • 自分の持分を放棄する方法


    もっとも、共有持分自体を第三者に売却することは困難です。したがって、自分の持分を他の共有者が買い取ってくれない場合には、共有関係を解消することが難しくなります。そのような場合には、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することによって、共有関係の解消について判断してもらうことができます。

    弁護士に依頼をすることによって、他の共有者に対して共有関係の解消に向けた交渉をしてくれるだけでなく、訴訟になった場合の手続きもすべて一任できることは、大きなメリットです。

5、まとめ

相続により共有状態となる財産がある場合には、共有のままにしておくことのリスクを十分に理解した上で相続手続きを進める必要があります。共有状態は、将来さまざまなトラブルが生じる可能性がありますので、できれば相続の時点で共有状態を解消しておくことが望ましいといえます。

共有関係の解消でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでお気軽にご相談ください。ケースによっては税理士法人の税理士などと連携し、ワンストップでトラブルを解決まで導くことが可能です。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています