死亡後、借金はどうなる? 家族に借金を残さないための3つの生前対策
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裁判所が公表している司法統計によると、令和3年に神戸家庭裁判所に申し立てのあった相続放棄の申述件数は、1万2327件でした。
相続開始後の借金問題については、相続人による相続放棄によって対応することができます。しかし、相続人に対して借金の負担を生じさせないようにするためには、生前に対策を講じておくことが大切です。家族に借金を残さないようにするための生前対策としてはどのような対策があるのでしょうか。
今回は、生前の借金対策について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、借金を抱えて死亡したら家族が負う可能性がある
借金を抱えたまま死亡した場合には、相続人にどのような負担が生じるのでしょうか。
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(1)借金も相続財産に含まれる
相続というと現金、預貯金、不動産といったプラスの財産を相続することをイメージする方も多いでしょう。しかし、相続は、プラスの財産に限らず、借金や負債といったマイナスの財産についても相続の対象に含まれます。
そのため、被相続人に借金がある場合には、相続人全員に相続され、相続人は自己の法定相続分に応じて借金を負担しなければなりません。 -
(2)相続放棄もできるがすべての遺産を手放さなければならない
借金を相続した相続人としては、相続放棄や限定承認という手段を選択することによって、借金の負担を免れることができます。
しかし、相続放棄は、マイナスの財産だけでなくプラスの財産も含めてすべての財産についての権利を放棄する手続きとなりますので、相続放棄をした相続人は、すべての遺産を手放さなければならなくなります。
借金を残したままの状態では、将来相続人に対して相続放棄の手続きをしなければならないという負担をかけるだけでなく、生活に必要となる自宅などを手放さなければならない事態になるおそれもあります。
そのため、借金がある方は、生前にしっかりと対策を講じておくことが大切です。
2、借金を家族に相続しないための生前対策
借金を家族に相続させないための生前対策としては、以下の対策が考えられます。
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(1)債務整理をしておく
生前に借金をすべて返済することが難しい場合には、債務整理をすることによって、借金の減額または免除をすることが可能です。
債務整理の方法には、以下の3つの方法があります。① 任意整理
任意整理とは、債権者と直接交渉することによって、将来利息のカットや返済期間の延長を求めていく方法です。
現状の返済額では、継続的な借金の返済が難しいという場合でも、月々の返済が少なくなれば、返済を継続していくことができる場合があります。そのような場合には、任意整理を行うことによって借金の完済が可能となる場合があります。
ただし、任意整理には、借金額を大幅に減額するという効果は期待できませんので、借金の金額によっては、他の債務整理を検討した方がよい場合もあります。
② 自己破産
自己破産とは、裁判所に申し立てをして、免責決定を受けることによって、借金をゼロにすることができる方法です。すべての借金をなくすことができますので、借金がある場合の生前対策としては、最も効果的な方法となります。
しかし、自己破産をする場合には、一定額以上の資産については、すべて手放さなければなりませんので、自宅や車などを所有している場合には、それらを失ってしまうリスクもありますので注意が必要です。
③ 個人再生
個人再生とは、裁判所に申し立てをして、再生計画の認可を受けることによって、借金を大幅に減額し、減額後の借金を原則3年(最長5年)で返済していく方法です。
自己破産のように資産を手放す必要がありませんので、住宅資金特別条項付きの個人再生を利用すれば、住宅ローンがあったとしても自宅を残したまま債務整理を行うことができます。
ただし、住宅ローンは、個人再生による減額の対象にはなりませんので、住宅ローンが債務のメインである場合には、個人再生による効果はあまり期待できません。 -
(2)生命保険金を残す
相続人が相続放棄をした場合には、遺産を相続する権利をすべて失います。そのため、残された相続人の生活は非常に不安定なものになるおそれがあります。
相続放棄をした相続人の生活を少しでも楽にしてあげる方法としては、生命保険金を残すという方法があります。
被相続人が死亡した場合の死亡保険金は、基本的には相続財産には含まれませんので、相続放棄をしたとしても、相続人がもらうことが可能になります。
また、借金と相殺することができるだけの生命保険金をかけておくことができれば、相続放棄をする必要もなくなります。 -
(3)残したい財産を生前贈与する
法定相続人に対して生前贈与をすることによって、生前に財産を移転することが可能です。生前贈与を受けたとしても、相続放棄をすることができますので、どうしても残したい財産があるという場合には、生前贈与を活用することも有効な手段となります。
ただし、生前贈与をした場合には、贈与を受けた側に「贈与税」という税金がかかりますので、一度に高額の財産を贈与してしまうと高額な贈与税が課税されるリスクがありますので注意が必要です。
年間110万円までの贈与あれば贈与税は非課税となりますので、毎年少額ずつの贈与を繰り返すことで贈与税の負担を抑えることができます。
そのほかにも、以下の特例を利用することによって、贈与税の負担を軽減することが可能となりますので、検討してみるとよいでしょう。
- 相続時精算課税の特例
- 住宅取得資金贈与の特例
- 教育資金贈与の特例
- 結婚、子育て資金贈与の特例
- 夫婦間贈与の特例
3、借金の連帯保証人になっている場合には注意が必要
被相続人または相続人が借金の連帯保証人になっている場合には注意が必要です。
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(1)被相続人が借金の連帯保証人になっている場合
連帯保証人の地位についても相続の対象になります。そのため、被相続人が借金の連帯保証人であった場合には、その地位は相続人に引き継がれることになります。
被相続人に借金がなかったため相続放棄の手続きをとらずにいたところ、連帯保証人としての債務の履行を求められることもありますので、相続開始後は、連帯保証債務の有無も含めてしっかりと調査をすることが大切です。 -
(2)家族が借金の連帯保証人になっている場合
被相続人が借金の主債務者であり、家族がその債務の連帯保証人になっていることがあります。このような場合には、相続人が相続放棄をすることによって、被相続人の借金の負担を免れることができますが、相続人自身の連帯保証債務はそのまま残った状態となります。
そのため、相続放棄をしたとしても、債権者から返済を求められた場合にはそれを拒むことはできません。
家族が借金の連帯保証人になっているという場合には、被相続人の生前に一緒に債務整理をするか、被相続人の死後に債務整理をするしか借金の負担を免れる方法はありません。
4、安心して家族に相続させるためには財産目録の作成が有効
残された家族が借金に気付かずに相続してしまうリスクを回避するには、財産目録の作成が有効な手段となります。
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(1)財産目録とは
財産目録とは、相続が発生した場合に相続人が相続することになる相続財産をまとめた一覧表のことをいいます。
財産目録には、現金、預貯金、有価証券、不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や負債といったマイナスの財産についても記載しますので、財産目録を見るだけでどのような財産があるのかを一目で把握することができます。
相続人であっても被相続人の財産のすべてを把握しているわけではありませんので、財産目録を作成しておけば、相続人の相続財産調査に要する負担を大幅に軽減することができます。
また、借金があることを事前に知らせることができますので、相続放棄をするかどうか余裕をもって検討することができるようになります。 -
(2)財産目録の書き方
財産目録には、決まった書き方はありませんので、インターネットで入手することができる書式サンプルなどを見ながら作成してみるとよいでしょう。以下では、代表的な財産ごとに記載すべき項目を説明します。
① 不動産
不動産は、不動産登記事項証明書を参照しながら以下の項目を正確に記載するようにしましょう。
(土地)
- 所在、地番、地目、地積など
- 所在、家屋番号、構造、床面積など
② 預貯金
預貯金は、口座ごとに残高がわかるように記載します。
- 銀行・支店名、口座番号、残高など
③ 有価証券
有価証券には、株式、投資信託、国債などがありますので、それぞれの種類に分けて記入します。たとえば、株式であれば、以下のような項目を記載します。
- 銘柄、数量、1株あたりの株価、取り扱い証券会社名など
④ 借金
銀行や消費者金融以外にも個人から借り入れがある場合には、漏れなく記載します。
- 負債の種類、債権者、金額など
5、まとめ
借金を残したまま死亡すると、残された相続人が相続放棄などの手続きしなければならなくなります。借金の完済が難しいという場合には、生前に借金の対策を講じておくことによって、将来の相続人の負担を軽減することが可能です。
生前の相続対策は、状況に応じてさまざまな方法がありますので、最適な方法を選択するためにも、まずは、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています