遺言信託にはどんなメリットがある? 弁護士に依頼すべき理由とは
- 遺産を残す方
- 遺言信託
- メリット
姫路市が公表する「統計グラフひめじ2019」によると、市では1日当たりに換算すると毎日15.6人の方が亡くなっています。人が亡くなれば相続が開始しますが、残念ながら相続では遺産争いに発展してしまうことも少なくありません。
親族間の争いは避けてほしいとお考えの方の中には、相続対策のひとつとして、「遺言信託」を検討されている方も少なくないのではないでしょうか。「遺言信託」は一般的に信託銀行に相談するイメージがあるかもしれません。しかし、弁護士に相談して進めることによって、トラブルの予防につながる可能性を高めることができます。
本コラムでは、「遺言信託」の概要などについて、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、遺言信託とは
まず遺言信託について、ご説明します。
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(1)遺言信託とは
遺言信託といわれると、信託銀行で提供している、遺言信託として遺言書作成のアドバイス、遺言書保管、さらには遺言執行者になって遺言の内容を実現するサービスをイメージする方が多いのではないでしょうか。
他方、法律用語としての遺言信託とは、信託行為を遺言によってすることを指します。法律上における「信託行為」とは、一定の目的のために委託者が財産を受託者に移転して、そこから生じる利益を受益者にあげるような仕組みを指すのです。
たとえば、Aさんが遺言書に「〇〇不動産は受託者Bが管理・処分し、受益者Cに生活費として渡すこと」などと記載し、実行してもらうなどのケースが代表的です。遺言による信託を行うことで、相続開始後にCさんが認知症などで財産を管理できない状態でも、生活費を確保できるようになるのです。ただし、Bさんは、指名されたからといって必ず受託者になるわけではなく、拒否することも可能です。 -
(2)遺言信託と遺言の違い
遺言は、被相続人の最終的な意思を実現する制度です。民法によって、遺言が有効とされる要件や効果などが定められています。相続では、有効な遺言がない場合に、法定相続分に従い相続人が遺産を承継することになります。
遺言の方法としては、主に自筆証書遺言や公正証書遺言が利用されています。これに対して信託銀行が提供する遺言信託はサービスのひとつであり、遺言と異なり法律によって要件や効果が定められている制度というわけではありません。 -
(3)遺言信託と遺言代用信託の違い
遺言代用信託とは、生前はご自身を受益者として生活費を信託財産から受け取り、亡くなった後は家族などを受益者にする信託のことをいいます。遺言信託と混同されることも多い信託といえます。
いわば遺言の代わりに法律上における信託のスキームを使って、相続開始後はその利益を家族などに譲り渡すようなことをいいます。他方、遺言信託は、前述のとおり、法的なスキームを使うわけではなく、信託銀行が提供するサービスであるという大きな違いがあります。
2、信託銀行などの遺言信託サービスの流れ
信託銀行などが取り扱う遺言信託サービスは、次のような流れで進められます。
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(1)相談
まず遺言信託サービスを利用しようとする方は、信託銀行などに相談して遺言書を作成する準備を行います。遺言書を作成するためには、遺言書の内容や相続人や対象財産などを明確にしていく必要があるでしょう。
遺言の内容によっては、争いが起きる原因となりかねません。法的にも問題はないかなど、十分な注意を払い作成していくことになります。 -
(2)遺言書の作成と申込み
法律上における遺言書は、要件を満たせば自ら手書きした遺言書であっても有効なものとして扱われます(自筆証書遺言)。しかし、信託銀行で提供される遺言信託サービスを利用する場合は、原則として公正証書遺言の形式で作成された遺言しか保管することはできないとされています。
信託銀行への遺言信託の申込みは、遺言書の作成後に行います。そのため、サービスを利用する際には、公証人役場にいき公正証書遺言の形式で遺言を作成する必要があるでしょう。遺言執行者の指定などの詳細や必要書類については、サービスを依頼する信託銀行に確認をしておいたほうがよいでしょう。
また相続人などを死亡通知人に指定しておき、亡くなったときには死亡通知人から銀行に連絡が入るようにしておきます。 -
(3)遺言執行業務の開始
遺言者が亡くなると、遺言者が指定していた死亡通知人が信託銀行に連絡を行います。その連絡を受けて信託銀行は、遺産の調査や財産目録の作成を行い、遺言書に基づいて相続財産を相続人などに分配します。そして不動産の移転登記を備えるなど財産の名義変更を行って、遺言執行が終了します。
なお相続税申告・納付手続きは、相続人本人が行うことになります。
3、遺言信託のメリットとデメリットとは
遺言信託サービスのメリットやデメリットとしては、次のような点が挙げられます。
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(1)メリット
信託銀行が提供する遺言信託サービスを利用するということは、あなたが保有する資産の内容を信託銀行が把握するということになります。そのため、資産を有効に活用するための積極的なアドバイスを受けることになるケースが多いと考えられます。銀行側にも顧客から資産運用を任せてもらえるチャンスになるので、その点も踏まえながら利用すれば有益といえるでしょう。
また、身内や知り合いなどで遺言執行者の適任者がいないときには、遺言信託によって遺言執行者を確保できるというメリットがあります。信託銀行などは大きな組織なので、たとえ担当者が退社したなどの事情が発生しても後任に引き継がれます。そのため個人の遺言執行者のように、遺言者より先に亡くなってしまい遺言執行者が不在になるようなことはありません。 -
(2)デメリット
金融機関が提供するサービスとしての遺言信託では、基本的に公正証書遺言以外は取り扱えないとされます。そのため、サービスを利用する際は公証役場へ足を運び、費用をかけて公正証書遺言を作成しなければなりません。さらに、基本手数料のほか、1年ごとに数万円の保管料を金融機関に支払う必要があります。費用のかからない自筆証書遺言で作成することができないうえに、決して安価ではないサービス利用料がかかるという点は、デメリットといえるでしょう。
また、たとえ遺言執行者として信託銀行などの金融機関を指定したとしても、身分行為をはじめとした遺言の執行については、法律上権限が認められていません。たとえば、遺言によって子どもの認知や相続人の廃除の請求をする必要があるときには、金融機関は対応できないといえます。「財産に関する事項」以外の遺言をしたいとお考えであれば、注意が必要です。
さらに、相続人間で生じたトラブルを法的に解決することはサービス内容に含まれていません。トラブルへの対応ができないという点は、デメリットになりうるでしょう。もしトラブルが解決できずに弁護士に依頼するとなれば、相続人が別途費用を支払わなければならないことになります。実質、費用が二重にかかってしまうことになり、多くの時間や手間もかかる可能性が高いといえます。
したがって、場合によっては、最初から弁護士に遺言信託を依頼したほうがよいケースもあり得ます。申込み前に再度確認したほうがよいかもしれません。
4、弁護士に遺言信託を依頼すべき理由とは
金融機関のサービスとして知られている遺言信託ですが、弁護士も遺言書の作成から保管、遺言執行まで対応することが可能です。
弁護士に遺言信託を依頼したときには、弁護士が入って相続人同士や親族間で起こる争いやトラブルの予防や解決をサポートできるというメリットがあります。また、多くの法律事務所で、自筆証書遺言の作成から保管まで対応可能です。弁護士であれば、遺言作成の際から、法的にどうしたら後にトラブルが生じにくいかといった視点でアドバイスを行うことができます。
また、弁護士を遺言執行者として指定することにより、財産行為はもちろん、子どもの認知や相続人の廃除など身分行為の遺言執行も問題なく行えます。弁護士を介して相続を進めることになるため、親族同士の争いを抑制する可能性が高く、金融機関によるサービスと比べ、安価でかつ適切な遺言信託を実現できます。
また実際にトラブルが起きてしまっても、弁護士が調停や裁判などの法的手段も含めて対応することができます。
5、まとめ
本コラムでは、「遺言信託」の概要や弁護士に依頼すべき理由について解説していきました。信託銀行などが取り扱う遺言信託とは、あくまでも財産に関する事項に関して遺言信託サービスを受けることができるという性質のものです。
ただし相続では、認知など戸籍の問題が関係したり相続人や受遺者などの利益が対立しトラブルになったりすることは少なくありません。弁護士であれば、このような事態に備えた対応が可能となります。
まずは、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士へぜひお気軽にご相談ください。遺言書の作成から遺言執行まで相続全般のご相談を承ります。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています