生命保険は遺留分の対象になる? どのように考えるべきか弁護士が解説
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平成30年、姫路市では5688人の方が亡くなっています。相続させる遺産そのものがないという方や、相続人がいないため遺産が国庫に帰属したという方もいるかもしれませんが、基本的にこの数に近い相続が発生したといってよいでしょう。
遺産の取り分と同じように相続でトラブルとなりがちなテーマのひとつが、「何が遺産分割の対象となる相続財産となるか」ということです。特に生命保険の死亡保険金は受取人の固有財産とされるため基本的に遺産分割や遺留分の対象とはならないものの、金額や遺産総額に占める割合などによっては遺産分割や遺留分の対象と考えることができるため、いずれの処理をするかをめぐって相続人間でトラブルになりやすいものなのです。
そこで本コラムでは、相続財産や遺留分の算定の際に生命保険の死亡保険金はどう考えるべきかというテーマで、各判例や法令を交えながらベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士がご説明します。
1、遺留分とは?
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(1)遺留分の意味
民法第900条では、法定相続人の遺産の取り分として「法定相続割合」を規定しています。また、民法第1042条では「遺留分」を規定しています。
遺留分とは、相続人それぞれに対して民法が保障する相続財産の取り分における最低ラインです。遺留分が定められていることにより、配偶者や小さい子どもがいるにもかかわらず、被相続人が遺言などで全財産を愛人などのような家族に関係ない第三者に遺贈し、配偶者や子どもが経済的に困窮してしまうことを防げるのです。
遺言とは、生前に被相続人が自身の遺産の相続人および相続割合を指定する方法として代表的なものです。民法で定められた法定相続割合よりも、遺言による相続割合が優先することはご存じのとおりでしょう。
しかし、たとえ遺言されていたとしても、遺留分の規定を無視した遺産分割割合が指定されているときは、遺留分侵害額請求(令和2年の改正民法が施行される前までは「遺留分減殺請求」と呼ばれていた手続きです)があれば、その内容は無効になります。 -
(2)遺留分の権利者とは?
遺留分が認められる法定相続人のことを、「遺留分権利者」といいます。
民法第1042条では、遺留分権利者として認められるのは「兄弟姉妹以外の(法定)相続人」と規定されています。具体的には、内縁関係および愛人を除く法定相続人の配偶者、養子を含む子ども、代襲相続が発生した場合は孫、両親、両親からの代襲相続が発生した場合は祖父母が、遺留分が認められた相続人なのです。
なお、被相続人の兄弟姉妹に対して遺留分が認められていないということは、当該兄弟姉妹の代襲相続人となる可能性がある甥や姪にも遺留分侵害額請求権が認められていないことを意味します。 -
(3)遺留分を侵害されたときは?
遺留分を侵害された相続人には、民法第1046条の規定に基づき、遺留分権利者として、遺留分を侵害している他の相続人に対して、侵害された財産の返還ないし金銭など他の財産による補償を請求する「遺留分侵害額請求権」が認められています。
遺留分侵害額請求権は、遺言による遺産相続と被相続人による生前贈与の両方について適用されます。仮に被相続人が複数名以上の相続人に生前贈与を行っており、その生前贈与が遺留分侵害に該当すると考えられる場合は、被相続人の相続が発生した日と近い日に行われた贈与分から、順番に減殺されます。
なお、民法第1048条の規定により、遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを遺留分権利者が知ったときから1年、または被相続人が死亡し相続が開始したあと10年を過ぎると時効となります。これにより遺留分侵害額請求権を行使することが認められなくなりますので、注意が必要です。
2、生命保険の死亡保険金は遺留分の対象になる?
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(1)原則論
遺留分の対象は、基本的に相続財産のすべてです。しかし、以下のような生命保険の死亡保険金は保険金受取人の固有財産であり、相続財産には含まれないと考えられています。したがって、以下のような生命保険の死亡保険金は、原則として遺留分には含まれません。
- 契約者……被相続人
- 被保険者……被相続人
- 保険金受取人……相続人
このことは、平成14年11月5日の「死亡保険金の受取人を変更する行為は、遺留分減殺請求の対象となる遺贈(遺言で遺産の受取人を指定すること)または贈与に該当しない」とした最高裁の判例からも確認できます。
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(2)例外論
ただし、例外はありえます。生命保険金請求権について争った平成16年10月29日 最高裁判所の判決文によると、生命保険の死亡保険金は原則として遺贈や贈与の対象にならないとしながらも、
「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」と述べています。
つまり、遺産の総額に比して死亡保険金の金額が著しく大きく他の相続人と著しい不公平が生じるなどの場合は、「特別受益に準じて持戻し(遺産分割前の相続財産総額に加算すること)の対象となる」、つまり例外的に遺留分の対象となる可能性があるのです。
3、特別受益と生命保険の関係について
ここで、特別受益についてご説明しましょう。
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(1)特別受益とは?
民法第903条では、特別受益は、相続財産の算定において加算されるものと規定されています。したがって、生命保険の死亡保険金にかぎらず、遺留分を計算する際は特別受益を考慮する必要があります。
特別受益とは、被相続人から生前に受けた住宅購入資金や結婚資金などの贈与というように、他の相続人と比較して相続人が受けた「特別な利益の供与」のことです。
被相続人から特定の相続人に特別受益があった場合、特別受益がなかった相続人との間で不公平が生じてしまいます。したがって、他の共同相続人との間で公平性を確保するために、他の相続人と比較して相続人が受けた特別な利益については遺産分割の前受け分として特別受益とされるのです。 -
(2)持ち戻し免除の意思表示はどうなる?
持ち戻しをわかりやすくいうと、「被相続人の生前にたくさんの贈与を受けていたのだから、その分は遺産の取り分を少なくする」ということです。
では、被相続人が生前に「生前の特別受益分は相続財産に考慮しない」との意向を示していた場合はどうなるのでしょうか?これを民法第903条第3項が規定する「持ち戻し免除」といいます。
この点については、被相続人が生前に持ち戻し免除の意思表示をしていたとしても、それにより各相続人の遺留分を侵害する結果となる場合は、持ち戻し免除の意思表示は、原則として考慮されません。つまり、被相続人による持ち戻し免除の意思表示に関係なく、特別受益分とされた生命保険の死亡保険金は基本的に遺留分の算定基礎に加算されるのです。
4、生命保険の死亡保険金がある場合の遺留分の計算方法
相続人個別の遺留分は、「遺留分総額×法定相続割合×遺留分割合」により計算します。それぞれの計算方法や割合についてみてみましょう。
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(1)遺留分総額
民法第1043条の規定により、遺留分総額は以下のように算出されます。
「被相続人の遺産(積極財産の時価)」+「被相続人から相続開始前1年前に受けた贈与(そのときの時価)」-「被相続人の債務(消極財産の時価)」
生命保険の死亡保険金が遺留分の対象となった場合、受取金額は被相続人の財産に加算されます。
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(2)法定相続割合
民法第900条で定める法定相続割合は、以下のとおりです。
①配偶者(常に相続人)
●相続人が配偶者のみの場合……全部
●子どもと相続する場合……2分の1
●被相続人の直系尊属と相続する場合……3分の2
●被相続人の兄弟姉妹と相続する場合……4分の3
②子ども(第1順位)
●相続人が子どものみの場合……子どもの数で均分
●被相続人の配偶者と相続する場合……(2×子どもの数)分の1
③直系尊属(第2順位)
●相続人が直系尊属のみの場合……直系尊属の数で均分
●被相続人の配偶者と相続する場合……(3×直系尊属の数)分の1 -
(3)遺留分割合
遺留分割合については、民法第1042条に以下のとおり定められています。
- 相続人が直系尊属のみの場合……3分の1
- 相続人が配偶者と子ども、子どものみ、配偶者と直系尊属のいずれかの場合……2分の1
遺留分割合を侵害されているときは、弁護士に相談してください。遺留分侵害額請求を行えば、侵害された遺留分を取り戻すことができるでしょう。
5、まとめ
相続人それぞれが利害関係者となる相続は、トラブルが生じやすいものです。特に生命保険の死亡保険金を特別受益として遺留分に算入すべきかどうかについては、相続人で意見が分かれることもあるでしょう。場合によっては、相続人どうしの人間関係が修復不能なまでに悪化し、訴訟に発展することもあるのです。
もし相続でトラブルが発生したときに、あなたの心強い味方となるのが弁護士です。相続全般について知見のある弁護士であれば、法的なアドバイスはもちろんのこと、あなたの代理人としてトラブルの相手となっている他の相続人との交渉を行うことができます。相続でお悩みのときは、ぜひお早めにベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士までご相談ください。
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