交通事故後に行った整体院の費用は請求できる? 接骨院はどうか?
- 慰謝料・損害賠償
- 交通事故
- 整体
兵庫県警のホームページでは、兵庫県内で起きた交通事故発生状況を定期的に公開しています。姫路市では、令和4年中に2253件もの交通事故が起きていて、 2594名もの負傷者がいることが明らかになっています。
交通事故に遭って負傷した場合に、一定の要件を満たせば病院での治療費を加害者側に請求できることはご存じの方が多いでしょう。では、整体院・接骨院などに通院した場合はどうなるのでしょうか? ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が、わかりやすく解説します。
1、交通事故の怪我の治療費はどの範囲まで請求できる?
-
(1)医師の指示があることが条件
交通事故で負傷した際、病院で医師による治療を受ける以外にも、整体院・整骨院・接骨院・鍼灸(しんきゅう)院などでの施術を受けることにより痛みの緩和をしてもらいたいと思う方は少なくないようです。その場合、整骨院などは病院ではないので、その費用を加害者自身や加害者が加入している保険会社に請求できるのかどうか気になる方もいるでしょう。
結論から言えば、整骨院など病院以外で行われる治療行為は“医療類似行為”と呼ばれ、医師による診療とは異なるものとみなされるため、原則として、整骨院などで受けた施術に関する費用を加害者側に請求することはできません。裁判例でも、原則として医師の指示がある場合に限り、整骨院・接骨院などの通院費を全額請求できるとされています(東京地裁平成21年6月17日等)。
医師の指示がない場合は、「相当性・必要性」があること、すなわち、整骨院や接骨院における施術が症状の改善に有効であることについて被害者が具体的に証明しなければなりませんが、その証明にはかなりの困難が伴います。つまり、医師の指示や指導がないまま整骨院・接骨院などで施術を受けてしまうと、保険会社から施術費の支払いを拒否されたり、訴訟に発展した際に不利な扱いを受けたりする可能性があるということです。
なお、「接骨院」や「鍼灸院」というのは、医師ではないものの、国家資格を有する者によって運営されており、それぞれの業務に関する法律(柔道整復師法・あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律)が存在します。適用される場面は限定的であるものの、健康保険や労災保険等の適用を受けることもできます。そのため、上記のように「相当性・必要性」が立証できれば、加害者側に費用の負担を求めることもできます。
しかし、整体院や温泉治療、カイロプラクティック、リラクセーションマッサージなどは、法律に基づかない医療類似行為にあたります。したがって、これらについては、その「相当性・必要性」が認められることはほとんどない、すなわち、これらの関して要した費用が相手方保険会社から支払われることはまずないと考えてよいでしょう。
交通事故による治療費をしっかり請求したいのであれば、病院(整形外科)に通院することを強くおすすめします。 -
(2)交通費や仕事を休んだことによる損害も請求できる
交通事故により病院への通院を余儀なくされたときは、治療費だけにとどまらず、通院のための交通費や休業損害(仕事を休んだことによる収入の減少)、通院付添費なども請求できる可能性があります。
通院付添費とは、被害者がひとりで通院できず家族の付き添いが必要と認められる場合に請求できる費用のことです。たとえば、交通事故による怪我で歩行困難な人、幼い子どもなどのケースが想定されます。
なお、保険会社に請求できる通院交通費の具体的な内容は、以下のとおりです。
●自家用車による通院
自宅から病院までの距離分(往復)のガソリン代を計算(基準は1キロあたり15円)したうえで請求できます。
●バス・電車などの公共交通機関で移動した場合
原則として、かかった実費の請求ができます。
●タクシー代
「自家用車がない」「怪我でバス・電車に乗れない」など相当な理由がある場合にのみ請求することができます。
いずれも領収書はしっかり保存しておくことをおすすめします。 -
(3)過失割合が大きいと減額される
病院の治療費や通院交通費などに限らず、全ての損害項目について妥当することですが、ご自身の過失割合が大きいと、過失相殺により、請求できる額が減ってしまうことにも注意が必要です。もっとも、損害額について後述の「自賠責基準」で計算する場合、限度額の120万円(傷害部分)までは、被害者の過失割合が7割未満であれば過失相殺がなされませんので、過失割合を気にしなければならないのは、後述の「裁判所基準」での請求を検討する場合がほとんどでしょう。詳しくは弁護士に相談してみることをおすすめします。
2、接骨院などで治療を受ける際の注意点
-
(1)必ず最初に病院に行き、医師の指示を受ける
前述のとおり、「医師の指示を受けること」が治療費などを請求する際の必須事項となります。保険会社は「医師の作成した診断書」の有無や内容を重視しているため、医師に対しては、遠慮せずに痛みや不調を感じている部位を全て伝えるくらいのつもりで接しましょう。「このくらいなら我慢できる」と痛みのある場所を伝えずにいると、後でそのことが不利に働いてしまうかもしれません。
交通事故に遭い、痛みや不調を感じたら、なるべく早いタイミングで病院(整形外科)に行き医師の指示を受けるようにしましょう。時間がたちすぎてしまうと、怪我や体の異常が交通事故によるものなのか、それとも別の要因によるものなのか、判断がしづらくなるからです。
よくあるのが、事故直後に痛みや異常を感じなかったために放置して後で悪化したというケースです。「これぐらいなら大丈夫」と自己判断をするのではなく、(症状が全くない場合にまで無理に通院する必要はありませんが)たとえ自覚症状が軽くても、必ず医師の診断を受けてください。また、繰り返しになりますが、医師の指示や許可なく、整骨院・接骨院などに通うのはやめた方がよいでしょう。 -
(2)病院への通院は月1回以上のペースで継続すること
交通事故による怪我の治療期間は、怪我の程度によって変わります。たとえば「頸椎(けいつい)捻挫(いわゆるむち打ち損傷)」の場合は、事故後3か月程度の治療期間が目安だとされています。
治療を継続しても症状が改善しなくなることを「症状固定」といい、症状固定時において後遺症がある場合には、「後遺障害等級」の認定を受けることになります。「後遺障害等級認定」を受けるためには、病院で医師に「後遺障害診断書」を作成してもらう必要があります。
この「症状固定」までの間は、最低でも月1回以上は継続して通院するようにしましょう。
特にむち打ちの場合、レントゲンを撮っても骨折や脱臼は認められず、医師からみても痛みの原因がわからないまま自覚症状のみが残っているという状況になるため、治療の必要性を判断するにあたり、どうしても通院頻度が重視されてしまいがちです。そのような中で月1回以上の間隔が空いてしまうと、交通事故の治療として本当に必要なのか疑わしいとして、保険会社から治療費の支払いを打ち切られる可能性があるからです。
3、交通事故の保険会社対応は弁護士に依頼した方がよい
-
(1)交通事故による損害賠償額は3つの基準で算出される
交通事故の損害賠償額を算出するための基準としては、「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判所基準(弁護士基準)」の3つの基準があります。
1つ目の「自賠責基準」は、車の所有者全員に加入が義務付けられている自動車損害賠償責任保険(自賠責)が設定している基準です。自賠責は、被害者に対する必要最低限の補償を目的とする強制加入保険ですので、自賠責基準は、3つの基準の中でもっとも損害賠償金の額が低くなる傾向にあります。
2つ目の「任意保険基準」は、その名のとおり、各任意保険会社が独自に定めた基準です。具体的な数値は公表されていませんが、自賠責基準と同じような額であることも多いです。
最後の「裁判所基準(弁護士基準)」は、3つの基準の中でもっとも高額になりやすい基準であるといえます。過去の判例を基に損害賠償金を算出するもので、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(日弁連交通事故センター東京支部編)」(通称「赤い本」)において公表されています(裁判所基準は地域によってさらに細分化されますが、もっともポピュラーなのが「赤い本」です)。弁護士が保険会社との交渉を行う場合には、この裁判所基準に基づいた交渉を行いますので、損害賠償金の増額が見込めます。
弁護士に依頼するとなると費用面に不安があるという方もいらっしゃるかもしれませんが、前述のとおり、弁護士に依頼すると、裁判所基準で示談することにより示談金額の増額が見込めるため、弁護士費用を考慮しても、最終的に受け取れることのできる金額が多くなるケースも多いです。ご不安であれば、弁護士費用を考慮すると受け取ることのできる金額が減ってしまう、いわゆる「費用倒れ」にならないかを相談時に率直に確認してみるとよいでしょう。また、ご自身の加入する自動車保険等に弁護士特約が付帯されていれば、弁護士に依頼したとしても、原則として弁護士費用を支払う必要はありませんので、弁護士に保険会社との交渉を依頼したうえ裁判所基準にて示談をするメリットが大きいといえます。
依頼するかを迷ったら、まずは法律事務所における無料法律相談を利用することをおすすめします。ご自分のケースが「裁判所基準(弁護士基準)」ではどのぐらいの損害賠償額になるかを聞いてから、決定しましょう。 -
(2)弁護士に依頼すればより適切な補償を受けられる
前述のとおり、保険会社との交渉を弁護士に依頼すると損害賠償金が増額される可能性がでてきます。加害者の保険会社はまず「自賠責基準」、その範囲内に収まらない場合は「任意保険基準」により損害賠償額を計算し、裁判所基準(弁護士基準)よりも低い額を提示してくるためです。「保険会社の提示だから信じて大丈夫だろう」と安易に示談提示に応じることなく、本当にその金額が適切かどうかについて検討する必要があります。
保険会社の提示する金額が低いと感じたら、すぐに弁護士に相談しましょう。
保険会社が、弁護士との交渉において「裁判所基準(弁護士基準)」ベースでの示談に応じるのは、それを拒絶すると弁護士から裁判を起こされてしまうからであって、ご自身で保険会社の担当者と交渉を行っても、保険会社が裁判所基準(弁護士基準)ベースでの交渉に応じることはまずありえません。弁護士だからこそ、後の裁判を見据えた交渉を行えるのです。
4、まとめ
交通事故に遭い、怪我をしたときは、必ず最初に病院で医師の診察を受けるようにしてください。医師による指示なく病院以外の整骨院・接骨院などでの施術を受けたとしても、実際にかかった費用を支払ってもらえない可能性があります。
交通事故で弁護士に依頼すると、保険会社との示談交渉だけでなく、上記のような通院時の注意点や手続きについてのアドバイスも受けることができます。ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは、交通事故事件にご対応にも力を入れて取り組んでいます。まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています