迷惑客を出禁にしたい! 法律違反にならない入店拒否の方法とは
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新型コロナウイルスの感染拡大により4度目の緊急事態宣言が発動された令和3年8月、兵庫県では飲食店に対して、酒類提供禁止要請や客に対してマスク着用を徹底させて応じない場合は退店させるように要請したとし、対応に苦慮する飲食店についての報道がありました。感染症法上の位置づけが5類へ変更された令和5年8月の今、これらの規制は自主判断となっていて、SNSでは入店拒否などの対応をめぐる炎上を見受けられます。
マスクの有無などに限らず、店舗経営者にとって迷惑な客の入店拒否は、店として当然の権利です。しかし、方法を誤った入店拒否は予想もしない二次的なトラブルにつながるばかりか、店が法律的なリスクを負う可能性もあるのです。そこで本コラムでは、迷惑な客の入店拒否を適切に行う方法について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、「入店拒否」も検討せざるを得ない、迷惑な客たちとは?
業種を問わず、迷惑な客に悩んでいる店は多いようです。
以下では、店として入店拒否を検討せざるを得ない、迷惑な客の一例についてご紹介します。
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(1)クレーマー
店側に特段の非がないのにもかかわらず、「料理がまずい」、「サービスが悪い」、「店員の態度が悪い」などと言いがかりをつけてくる客が、典型的なクレーマーといえるでしょう。
特に近年は、店員に対する謝罪の要求や説教にとどまらず、暴言や暴力を伴うものがあるなどの報道が行われるようになりました。このような行為はもはやクレームの域を超え、脅迫やカスタマー・ハラスメントともいえます。
特に以下のような悪質な行為に対しては、それぞれに刑事罰が設けられています。また、被害を受けた店側は損害賠償請求が可能となる場合があります。- 店員に暴力をふるう……暴行罪(刑法第208条)
- 店員に土下座を強要する……強要罪(同第223条)
- 執拗なクレームで業務を妨害する……威力業務妨害罪(同第234条)
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(2)他の客とけんかを起こす客
アルコール類を提供する飲食店では、酔った勢いで他の客とけんかを起こす客が少なからず存在します。
このような行為は、他の客に不快感を与え営業妨害になるばかりか、止めに入った店員がけんかに巻き込まれたり店の器物を損壊したりするなど、店に物的な被害が出かねません。
なお、けんかが原因で店の器物に被害が出た場合、客は刑法第261条に規定する器物損壊罪に問われる可能性があります。 -
(3)ドレスコードなどのマナーに違反する客
入店時にトレーナー姿やサンダル履きを禁止することや、ネクタイの着用を入店の条件とするドレスコードは、他の客に見た目の不快感を与えないようにするだけではなく、客・店員ともにマナーの整った店にするという営業戦略のひとつでもあります。
それにもかかわらず、店側が定めたドレスコードを守らずにしつこく入店しようとするという客や、愉快犯のように入店後わざとドレスコードに反した服装に変えるという迷惑な客も存在するようです。
ただし、民族衣装を着ている外国人客に対して一律にドレスコードを要求することは、後述するレイシャル・ハラスメントに該当することがあり得ますので、注意が必要です。 -
(4)店舗が求めてもマスクを付けずに騒ぐ客
法律で義務付けられているわけではありませんが、新型コロナウイルス感染拡大防止などを理由に、入店時は手を消毒する、店の中ではマスクを付けるということを引き続き行いたいと考える店舗運営者もいるでしょう。その背景には、家庭で介護・看護をしているなど諸事情があるケースは少なくありません。
しかし、個人的なポリシーなどから、たとえ人が集まる屋内であろうとマスクは付けない、入店時に手を消毒しないという人も一定数存在するようです。このような客が店に入ることにより、最悪の場合は営業が立ちいかなくなる可能性もあります。
2、入店拒否を伝えるための適切な方法は?
入店拒否に関する具体的な法律はありません。ただし、民法第521条に規定する「契約の自由」に基づき、店の営業にとってふさわしくないと考えられる客に対しては、店側の裁量で入店拒否できるというのが一般的な考え方です。
では、迷惑な客に入店拒否を伝えるためには、どのような方法がもっとも適切といえるのでしょうか。
口頭で伝える方法も考えられますが、記録に残らないため後日に「言った・言わない」になる可能性があります。さらに感情的になっている客には、入店拒否の意思が伝わらないどころか暴言を伴う反論を受けるなど、トラブルがさらに拡大しかねません。
したがって、「今後一切の入店をお断りします」という内容の「通告書」という書面で伝えることが有効といえるでしょう。
入店拒否の意思を押印済みの通告書という形にすることにより、ひとりの店員ではなく店という事業体として、今後は一切入店拒否することを客に伝えることができます。
また、それでも入店しようとするため刑法第130条に規定する建造物侵入罪・不退去罪で警察に告訴する場合においても、事前に店が入店拒否していたことを証明する証拠となります。
3、入店拒否を行う場合は差別問題にならないように要注意
ただし、店側の意向だけで入店拒否をすることは好ましくありません。差別的な入店拒否は、法律違反やレピュテーショナルリスクにつながる可能性があります。
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(1)差別的な主観で判断しないようにする
正当な理由なく、障害があることや国籍が異なることを理由として入店拒否したり、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件をつけたりする行為は、不当な差別的取り扱いにあたると考えられます。
たとえば、「営業の邪魔になるから」などという理由で、盲導犬や車いすなどの障害者を入店拒否すると、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)違反に該当する可能性があるのです。
なお、事業者が障害者差別解消法に反した取り扱いを繰り返し、自主的な改善が期待できない場合などには、同法第12条等の規定により各事業の担当大臣が事業者に対して報告を求めることができます。この求めに対して、虚偽の報告をしたり報告を怠ったりする事業者には、同法第26条の規定により20万円以下の過料が科されます。
また、差別的に外国人を入店拒否することは、レイシャル・ハラスメントに該当する可能性があります。「レイシャル・ハラスメント」とは、海外にルーツがある方に対する、人種・民族・国籍などの違いに基づく差別的な言動や行為、不利益な取り扱いを指します。
具体的には、「外国人は何をするかわからない、マナーが悪い」、「変異型コロナに感染しているかもしれない」などというような先入観や思い込みによる行動が代表的です。差別的対応を行った場合、その事実が後日インターネットなどで公開され、店のレピュテーショナルリスクにつながるおそれがあります。 -
(2)レピュテーショナルリスクにつながることも
レピュテーショナルリスクとは、インターネット上の書き込みや報道、口コミなどでネガティブな評価を受けるリスクを指します。入店拒否したことが事実であれば、その理由や内容によっては、お客さまに対してネガティブなイメージを抱かれかねません。
特に昨今では、インターネット上の書き込みは大きな影響力を持つことが多々あります。場合によっては閉店に追い込まれてしまうケースも少なくないでしょう。
4、客の入店拒否を行う前に、弁護士に相談するべき理由
前述のとおり、軽はずみな入店拒否は二次的なリスクにつながる可能性があります。したがって、たとえ迷惑な客が相手であろうと、入店拒否は慎重に行うべきものと考えられます。
客の入店拒否を検討するときは、ぜひ弁護士に相談することをおすすめします。入店拒否を弁護士に相談することにより、以下のようなメリットが期待できます。
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(1)入店拒否の意思を伝えてもらえる
弁護士は法律上のアドバイスだけではなく、依頼者の代理人になることが認められています。
これにより、感情的な客に対しても、弁護士は店側の代理人として適切な通告書を作成したうえで、入店拒否の意思を伝えることができます。
さらに、入店拒否した客が後日インターネットなどで店を不当に中傷するような書き込みをしてきた場合や、店の前で騒ぎ立てる場合であってもやめるように交渉することができます。
また、それらが店のレピュテーショナルリスクにつながると判断できるほど悪質な場合は、威力業務妨害罪などによる警察への告訴を代行することも可能です。 -
(2)入店拒否が妥当か確認してもらえる
先述のとおり、差別的な入店拒否は障害者差別解消法違反やレイシャル・ハラスメントが原因のレピュテーショナルリスクにつながる可能性があります。しかし、店側が差別的な入店拒否にあたらないと判断しているケースは少なくないようです。その結果、客観的には差別的な入店拒否であり、さらには障害者差別解消法に違反していたということも起こり得ます。
弁護士は、店側が検討している入店拒否について経緯や事情などを踏まえながら、それが障害者差別解消法違反やレピュテーショナルリスクにつながらないか慎重に判断し、アドバイスします。
事前に弁護士に相談しておくことで、障害者差別解消法違反やレピュテーショナルリスクにつながる可能性を極小化できるでしょう。
5、まとめ
特定の迷惑行為をする人物に対して出禁を伝えたり、特定の特徴があるお客さまに対して入店拒否を宣言したりすることは、店としても勇気のいる決断です。そして、入店拒否には客とのやり取りだけではなく、法律的なリスクやレピュテーショナルリスクも伴います。
そのような事業者の悩みを理解し、入店拒否せざるを得ないような客とのトラブル対応に実績のある弁護士に依頼することで、店の負担が大きく減少することが期待できます。ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスでは、リーズナブルな価格から始められる顧問弁護士サービスを提供しています。入店拒否に関する法律的・実務的なご相談も可能です。ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています