人手不足で残業を強制できる? 残業させるための条件と注意点を解説
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令和3年度に兵庫県内の労働基準監督署が監督指導を行った1467事業場のうち、違法な時間外労働があったものは493事業場でした。
残業は時間外労働のひとつですが、人手不足の場合、36協定で定められた範囲内であれば、原則として従業員(労働者)に残業を指示できます。ただし従業員は、正当な理由があれば残業を断ることができる点に注意が必要です。
本記事では、人手不足を理由に残業を強制できるのかどうかなどを、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和3年度「長時間労働が疑われる事業場」の重点監督結果について」(兵庫労働局)
1、人手不足を理由に残業を強制できるのか?
会社が人手不足に陥っている場合は、一定の条件を満たせば残業の指示をだすことができます。正当な残業指示(残業命令)であれば、従業員は原則として断ることができません。
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(1)残業を指示できる条件
従業員に対して残業を指示できるのは、以下の①および②の要件をいずれも満たす場合です。
- ① 労働契約または就業規則において、残業があり得る旨が規定されていること
- ② 以下のいずれかに該当すること
(a)残業時間を含めた労働時間が、法定労働時間の範囲内であること
※法定労働時間:原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間(労働基準法第32条)
(b)残業時間を含めた労働時間が法定労働時間を超える場合において、その労働時間が36協定で定められた上限時間の範囲内であること
※36協定:時間外労働および休日労働に関するルールを定めた労使協定(同法第36条第1項)
上記①および②の条件を満たす状態において、業務上の合理的な必要性に基づき残業の指示が行われた場合、従業員は原則として拒否することができません。
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(2)正社員以外の従業員にも、残業の指示は可能
会社が残業を指示できるのは、正社員である従業員に限りません。契約社員やパート・アルバイトなどであっても、上記の要件を満たしていれば、残業を指示することができます。
2、従業員が残業を断ることのできるケース
会社による残業の指示は、無制限に認められるわけではありません。
たとえば以下のいずれかに該当する場合には、従業員は会社の残業指示を断ることができます。
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(1)36協定の上限時間を超えている場合
会社が従業員に指示できる残業の時間数は、36協定で定められた時間数が上限です。
36協定の定めを超える時間の残業を指示することは労働基準法違反であり、従業員は残業指示を拒否できます。 -
(2)残業の必要性がない場合
従業員に残業をさせる合理的な必要性がない場合、残業指示は指揮命令権の濫用として無効です。
たとえば、特に緊急性の高い業務は存在しないものの、上司が気に入らない従業員に嫌がらせをするために残業を指示したようなケースでは、残業の必要性がないと考えられます。 このような場合には、従業員は残業指示を拒否できます。 -
(3)体調不良の場合
会社は、従業員が心身の安全を確保しながら労働できるように、必要な配慮を行う義務を負います(=安全配慮義務。労働契約法第5条)。
安全配慮義務に鑑みると、従業員が体調不良を訴えている場合には、会社はさらに体調を悪化させるような残業を指示することを控えるべきです。そのため、体調不良に陥った従業員は、会社の残業指示を拒否できる場合が多いと考えられます。 -
(4)重要な用事があることを前もって伝えていた場合
従業員が会社に対して、何らかの用事があるためその日は残業できないと伝えていた場合には、会社の残業指示を拒否できるケースが多いでしょう。会社には、代替人員を確保する時間が十分にあったはずだからです。
特に、あらかじめ会社に伝えた用事の重要性が高い場合には、会社の残業指示を拒否できる可能性が高いと考えられます。
たとえば、遠方から来る両親との食事会を前もって計画していて、そのことを会社にあらかじめ伝えていた場合には、会社がその日に残業を指示することは控えるべきでしょう。 -
(5)妊娠中または出産後1年未満の場合
労働基準法では、妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性を「妊産婦」と定義しています(同法第64条の3第1項)。
会社は、妊産婦である従業員が請求した場合には、時間外労働・休日労働・深夜労働をさせてはいけません(同法第66条)。
したがって、妊産婦である従業員が会社に時間外労働・休日労働・深夜労働を指示された場合は、それを拒否することができます。 -
(6)3歳未満の子どもがいる場合
3歳未満の子どもを養育する従業員は、子どもを養育する目的であれば、原則として所定労働時間を超える労働(=残業)をさせないよう会社に請求できます(育児介護休業法第16条の8第1項)。
ただし、労使協定によって上記の請求ができないものとされた場合、または事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りではありません。 -
(7)要介護状態にある家族を介護している場合
要介護状態にある対象家族を介護している従業員も、介護の目的であれば、原則として所定労働時間を超える労働(=残業)をさせないよう会社に請求できます(育児介護休業法第16条の9第1項)。
<対象家族>
以下のいずれかに該当する家族(同法第2条第4号、同法施行規則第3条)- 配偶者(内縁を含む)
- 父母
- 子
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 孫
- 配偶者の父母
ただし、労使協定によって上記の請求ができないものとされた場合、または事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りではありません。
3、違法な残業指示をしないための注意点
従業員に対して違法な残業指示をしないように、会社は以下の各点に十分ご注意ください。
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(1)36協定のルールをあらかじめ確認する
36協定の上限を超える残業の指示は、直ちに労働基準法違反となります。従業員に対して残業を指示する際には、必ず事前に36協定のルールを確認しましょう。
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(2)残業時間を正しく計算し、残業代を支払う
残業時間を正しく計算しないと、会社が把握しないうちに残業時間が36協定の上限を超えてしまうおそれがあります。
また、労働時間に対して適正な残業代が支払われず、サービス残業が発生している場合には、後に従業員から未払い残業代請求を受ける事態になりかねません。
労働基準法違反を防ぐため、従業員の残業時間を正しく計算した上で、適正な残業代を支払うように努めましょう。 -
(3)業務量を適切にコントロールする
従業員の業務量が多すぎると、違法な残業指示が行われるリスクが高まります。また、従業員が心身の健康を害し、労災に発展するケースも少なくありません。
会社としては、業務の量に応じた十分な数の人員を配置し、従業員の業務量を適切にコントロールすべきです。
4、従業員に残業を拒否された場合の対応
従業員に残業を拒否された場合には、会社は以下の対応をとりましょう。
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(1)残業を拒否する正当な理由の有無を確認する
残業指示を従業員が拒否し、または難色を示した場合には、会社はそれを無視しない方が賢明です。従業員から理由を聞いた上で、残業指示が適切であるかどうか、残業を拒否する正当な理由があるかどうかを再考しましょう。
嫌がる従業員に残業を強制することは非効率である上に、後に従業員とのトラブルへ発展するリスクもあるので十分ご注意ください。 -
(2)弁護士に相談する
残業を拒否する従業員への対応に苦慮している場合は、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士は、残業を指示することが適切であるかどうかや、会社の指示に従わない従業員の処遇(改善指導や懲戒処分など)などについて、会社のリスクを踏まえつつ適切な方針をアドバイスします。
職場における規律を維持しつつ従業員とのトラブルを避けたい場合には、法務・労務問題の解決実績がある弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
5、まとめ
人手不足の状況において、従業員に対して残業を指示する場合は、残業を指示できる条件を満たしているかどうかを確認しましょう。条件を満たしていないにもかかわらず残業を指示すると、従業員との間でトラブルに発展するおそれがあるので注意が必要です。判断が難しい場合には、弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、人事労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。従業員に対する残業指示について、分からないことや迷う部分があるときは、まずはベリーベスト法律事務所 姫路オフィスにご相談ください。
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