会社の悪口を投稿する社員をクビにできる? 懲戒解雇の要件とは
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兵庫労働局が公表した「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、姫路市を含む兵庫県内12カ所に設置された総合労働相談コーナーに寄せられた相談件数は4万7494件でした。
昨今では、公的機関の窓口ではなくSNSなどに会社の悪口や批判を投稿する従業員も見受けられます。こうした行為を就業規則で禁止していれば、非違行為に当たる可能性があります。
ただし、会社の悪口を投稿した従業員をクビにするかどうかは、法的な観点から検討して判断すべきです。判断が難しい場合には、弁護士に相談するのがよいでしょう。今回は、会社の悪口を投稿する従業員をクビ(懲戒解雇)にできるか否かにつき、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況を公表します」(兵庫労働局)
1、会社の悪口を投稿した従業員はクビにしてよいのか?
会社の悪口を投稿する従業員の行為は、悪質な非違行為であることは間違いありません。しかし、従業員をクビにすべきかどうかは、法律上の解雇要件を満たしているか否かを検討した上で判断すべきです。
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(1)従業員を懲戒解雇する際の要件
会社の悪口を投稿したことを理由とする解雇は、「懲戒解雇」に該当します。
懲戒解雇を適法に行うための要件は、以下の2点です。① 就業規則上の懲戒事由に該当すること
会社が従業員を懲戒できるのは、就業規則上の懲戒事由に該当する場合に限られます。したがって、懲戒解雇を適法に行うためには、就業規則上の懲戒事由に該当することが必要です。
② 解雇権濫用の法理に抵触しないこと
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となります(労働契約法第16条)。
特に懲戒処分として行われる懲戒解雇の場合、従業員による行為の悪質性と、従業員の身分を失わせる懲戒解雇という重い処分が釣り合っていることが重要です。
SNSなどへ会社の悪口を投稿する行為については、就業規則上の懲戒事由に該当することは問題なく認められるでしょう。
その一方で、解雇権濫用の法理は厳格に運用されており、会社の悪口の投稿をもって直ちに懲戒解雇相当と判断されるケースは少ないと考えられます。 -
(2)懲戒解雇が認められるケース
会社の悪口の投稿について、懲戒解雇が認められる可能性が高いと思われるのは、以下のようなケースです。
- 何度も悪口の投稿を繰り返しており、会社から注意されてもやめなかった場合
- 会社の悪口の投稿以外にも、無断欠勤やハラスメントなどの問題行動が複数見られる場合
- 悪口の投稿が社会的に大きな問題となり、会社の評判に致命的な悪影響を与えた場合
総じて、従業員による非違行為が頻繁に行われている場合、注意しても反省が見られない場合、複数の非違行為が認められる場合、非違行為の結果が重大な場合などには、懲戒解雇が認められやすいと考えられます。
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(3)懲戒解雇が違法となるケース
これに対して、以下のようなケースでは懲戒解雇が違法となる可能性が高いです。
- 会社の悪口を1度投稿しただけで、他に非違行為は認められない場合
- 会社の悪口を投稿したことにつき、従業員本人が真摯に反省しており、その後は非違行為が認められない場合
- 悪口の内容がそれほど酷いものではなく、投稿によって会社が受けた悪影響も軽微な場合
上記のように、従業員による行為やその結果がそれほど重大でなく、従業員自身もきちんと反省しているようなケースでは、懲戒解雇は「行き過ぎ」、不当解雇であると判断されてしまいます。
このような場合には、戒告・けん責や減給などの軽い懲戒処分を検討すべきでしょう。
2、従業員の不適切投稿により、会社が負うリスク
従業員がSNSなどへ不適切投稿を行った場合、会社は以下のリスクを負うことになります。そのため、会社は不適切投稿を行う従業員を放置せず、懲戒処分を含む厳正な対応で臨むべきです。
- ① 社会からの信用を失う(レピュテーションの低下)
- ② 使用者責任を負う可能性がある
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(1)社会からの信用を失う(レピュテーションの低下)
不適切投稿が従業員個人の判断で行われたものであっても、世間は「○○社の」従業員が投稿したという形で認識するでしょう。
社会的に不適切な内容の投稿であれば、一人の従業員による投稿であっても、会社に所属する構成員全体の人間的資質を疑われてしまうことになりかねません。
また、会社の内部事情をリークする投稿であれば、会社の業務実態や体質が批判の的となってしまう可能性もあります。
このような事態が生じると、会社は社会からの信用を失い、売上や人材確保などに重大な悪影響が生じるおそれがあります。 -
(2)使用者責任を負う可能性がある
従業員による不適切投稿が業務の一環として行われ、その内容が第三者に対する誹謗中傷・名誉毀損に当たる場合、会社も被害者に対して使用者責任(民法第715条第1項)を負う可能性があります。
また、必ずしも業務の一環でなくても、「○○社の従業員」であることを表示したSNSアカウントで不適切投稿が行われた場合には、会社が使用者責任を負う可能性があるので注意が必要です(外形標準説)。
従業員の不適切投稿について会社が使用者責任を負う場合、多額の損害賠償を強いられる可能性があります。
3、従業員が会社の悪口を投稿している場合の対処法
従業員が会社の悪口を投稿しているとの情報を掴んだ場合、会社は以下の流れで適切に対応を行いましょう。
- ① 事実確認・証拠の確保
- ② プレスリリース等による情報開示
- ③ 懲戒処分
- ④ 従業員による不服申立てへの対応
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(1)事実確認・証拠の確保
まずは本人や関係者(周囲の同僚など)に対して事情聴取を行い、不適切投稿の内容や、それが従業員本人によるものであるのかどうかなど、事実関係の正確な把握に努めましょう。
後の懲戒処分などを見据えた場合、投稿内容についてはスクリーンショットなどで保存し、証拠を確保しておくことが大切です。 -
(2)プレスリリース等による情報開示
不適切投稿が報道などによって社会的に拡散されてしまった場合、会社として適切に対応状況などの開示を行い、事態の早期収拾を図るべきです。
初期段階では事実関係を調査中である旨を発表し、事実関係が把握でき次第、今後の対応方針について迅速にプレスリリースなどを公表しましょう。
不適切投稿について会社は関与していないことは明確化しつつ、再発防止には真摯に取り組む姿勢をアピールすることが大切です。 -
(3)懲戒処分
不適切投稿を行った従業員に対しては、懲戒処分を含めた厳正な対応を行いましょう。
ただし、従業員に対して行う懲戒処分の種類については、不適切投稿の内容・悪質性、会社が受けた損害の大きさ、従業員の反省度合いなどを考慮して慎重に決定すべきです。
特に、懲戒解雇・諭旨解雇などの重い懲戒処分は、非違行為としての情状が非常に重いケースに限って認められる点にご留意ください。
法的にどの程度の懲戒処分を行うことができるか、判断が難しい場合は弁護士へのご相談をお勧めいたします。 -
(4)従業員による不服申立てへの対応
懲戒処分に対して、従業員が撤回や無効を求めて不服を申し立てることも想定されます。この場合、会社は従業員との間で、懲戒処分の有効性を巡って争わなければなりません。
円満にトラブルを解決する観点からは、従業員に対して一定の解決金を支払って矛を収めてもらうことも選択肢の一つです。
しかし、従業員があまりにも不当な要求をしてくるようであれば、和解を拒否して労働審判や訴訟で争いましょう。労働審判や訴訟への対応は、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
4、従業員に対する懲戒処分は弁護士にご相談を
会社の悪口などの不適切投稿を行う従業員に対して、どのような懲戒処分を行うべきか、懲戒解雇は認められるのか否かなどは、法的に難しい問題を含む検討事項です。
そのため、従業員に対する懲戒処分を検討する際には、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士は過去の裁判例を踏まえつつ、具体的な事情に応じて懲戒処分の可否や種類などを検討し、会社がとるべき適切な方針をアドバイスします。
懲戒処分について従業員から不服が申し立てられた場合には、弁護士が会社の代理人として対応します。懲戒処分が法的に正当であることを主張し、労使トラブルを会社にとって有利な条件で、早期に解決できるように尽力します。
従業員に対する懲戒処分の是非の検討や、懲戒処分を巡る従業員との紛争への対応については、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
従業員が会社の悪口を投稿する行為は、就業規則違反の非違行為に該当します。しかし、従業員をクビ(懲戒解雇)にしてよいかどうかは、具体的な事情に照らして慎重に検討しなければなりません。
懲戒処分を巡る従業員とのトラブルを予防し、または会社に有利な形で早期に解決するためには、弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務に関する企業からのご相談を随時受け付けております。労働問題に関する経験豊富な弁護士が、クライアント企業のために親身になって尽力いたします。
従業員が会社の悪口を投稿しているのを発見した場合は、お早めにベリーベスト法律事務所 姫路オフィスへご相談ください。
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