運行供用者責任と使用者責任の違い│企業が問われる責任とは?

2022年08月23日
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運行供用者責任と使用者責任の違い│企業が問われる責任とは?

2022年の1~4月に兵庫県姫路市で発生した交通事故は720件で、死者が3名、負傷者が831名となっています。中には、業務中に起きた交通事故も一定数含まれていると推測されます。

従業員が起こした交通事故については、会社も被害者に対する「運行供用者責任」または「使用者責任」を負うことがあります。運行供用者責任・使用者責任は、いずれも会社が責任を回避する要件が非常に厳しくなっています。

そのため会社としては、従業員の交通事故によって損害賠償責任を負担するリスクを十分に踏まえたうえで、業務や通勤において車の使用を認めるかどうか、認める場合にはどのようなルールを設けるのかについて慎重に判断すべきでしょう。

今回は、従業員が起こした交通事故に関して、会社が負担する運行供用者責任と使用者責任それぞれの要件・両者の違いなどを、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。

出典:「市区町別・類型別道路別等発生状況」(兵庫県警)

1、従業員が業務中に交通事故を起こした場合、会社も責任を負う

従業員が業務中に起こした交通事故について、被害者にケガなど何らかの損害が生じた場合、会社は「運行供用者責任」または「使用者責任」に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

  1. (1)運行供用者責任とは

    「運行供用者責任」とは、自動車を運行の用に供する者が、人身交通事故について負担する損害賠償責任を意味します(自動車損害賠償保障法第3条)。

    「運行の用に供する者」とは運転者による自動車の運行を支配(コントロール)し、運行により利益を得ることができる立場にある者を指すとされており、会社所有の車(社用車)を従業員が運転している最中に交通事故を起こした場合、車を所有して従業員に使用させている会社は「運行供用者」に該当します。

    また、従業員が自ら所有する自動車(マイカー)で事故を起こした場合にも、会社の業務の一環として運転していた場合には、会社が従業員のマイカーの運行を支配し、利益を得ているとして、「運行供用者」と判断される可能性があるので要注意です

  2. (2)使用者責任とは

    「使用者責任」とは、従業員が事業の執行について第三者に与えた損害につき、使用者が負担する損害賠償責任を意味します(民法第715条第1項)。

    使用者は従業員を働かせることで利益を得る反面、従業員の行為による損失についても負担すべきという「報償責任」の考え方により、使用者責任が認められています。

    なお、「事業の執行について」与えた損害であるかどうかは、現実に職務として運転をしていたかどうかではなく、外形的・客観的に使用者の職務行為の範囲内に属すると認められるかどうかによって判断されます(外形標準説。最高裁昭和29年2月4日判決)。

2、運行供用者責任と使用者責任の違い

従業員が交通事故を起こした場合の会社の責任としては、運行供用者責任と使用者責任の両方が問題になりますが、これらの成立要件にはかなり異なる部分があります。

運行供用者責任と使用者責任の主な違いは、以下のとおりです。

  1. (1)「運行供用者」と「使用者」|雇用関係の要否が異なる

    運行供用者責任は「運行供用者」が、使用者責任は「使用者」がそれぞれ負担する責任です。

    「運行供用者」に該当するかどうかは、「運転者による自動車の運行を支配し、自動車を自分の利益のために運転させているかどうか」によって決まります。運転者の使用者である必要はなく、たとえば単純に自動車の所有者であるというだけでも、事情によっては運行供用者に該当する可能性があります。

    これに対して、交通事故について使用者責任が成立するには、運転者である従業員と会社の間に雇用関係が存在することが必須です。

    このように、運行供用者責任は必ずしも雇用関係を要求しないのに対して、使用者責任は雇用関係を必要とする点が異なります。

  2. (2)物損は運行供用者責任の対象外|使用者責任は物損も対象

    運行供用者責任は、自動車の運行によって他人の生命または身体を害した場合、つまり人身事故の損害についてのみ発生します。

    これに対して、交通事故に関する使用者責任の場合、人身損害・物損を問わず、被害者に発生した損害全般が賠償の対象となります

    したがって、物損事故であれば使用者責任のみが問題となり、人身事故であれば運行供用者責任・使用者責任の両方が問題になり得るということです。

  3. (3)免責要件の違い

    運行供用者責任と使用者責任は、それぞれ一定の要件を満たした場合には免責されます。
    ただし、各免責要件は以下のとおり異なります。

    <運行供用者責任の免責要件>
    以下の3つをすべて証明できた場合、運行供用者責任を免れます。
    • 運行供用者および運転者がいずれも、自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
    • 被害者または運転者以外の第三者に、事故に関する故意または過失があったこと
    • 自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと

    <使用者責任>
    以下のいずれかを証明できた場合、使用者責任を免れます。
    • 使用者が、被用者の選任および事業の監督について相当の注意をしたこと
    • 使用者が相当の注意をしても、損害が生ずべきであったこと

3、ケース別|従業員の交通事故に関する会社の責任の有無

会社の運行供用者責任・使用者責任の成否は、以下の2点について場合分けを行い分析する必要があります。

  • 交通事故時に従業員が運転していた車が社用車だったか、それともマイカーだったか
  • 交通事故が業務中に発生したか、それとも業務外で発生したか


しかし結論としては、多くのケースにおいて、会社には運行供用者責任・使用者責任の両方が成立する可能性が高い点にご注意ください

  1. (1)社用車・業務中の交通事故の場合

    従業員が、業務の一環として社用車を運転中に交通事故を起こした場合、以下の理由により、会社には運行供用者責任・使用者責任の両方が成立すると考えられます。

    ① 運行供用者責任
    会社は社用車の所有者であり、従業員に社用車を使用させることで利益を得ているため、事故車両の運行供用者に該当します。

    ② 使用者責任
    業務中に起こった交通事故であることから、従業員が「事業の執行について」被害者に損害を与えたと評価されます。
  2. (2)社用車・業務外の交通事故の場合

    従業員が、業務外で(たとえば営業先から自宅へ直帰するために)社用車を運転中に交通事故を起こした場合にも、以下の理由により、会社には運行供用者責任・使用者責任の両方が成立すると考えられます。

    ① 運行供用者責任
    会社は社用車の所有者であり、従業員に社用車を使用させることで会社の業務に就かせることができるという利益を得ているため、事故車両の運行供用者に該当します。

    ② 使用者責任
    「社用車を運転している」という客観的な外形が存在するため、業務外であっても、従業員が「事業の執行について」被害者に損害を与えたと評価される可能性が高いといえます。
  3. (3)マイカー・業務中の交通事故の場合

    従業員が、業務のためにマイカーを運転し交通事故を起こした場合にも、以下の理由により、会社には運行供用者責任・使用者責任の両方が成立すると考えられます。

    ① 運行供用者責任
    会社は従業員のマイカーの所有者ではありませんが、業務の一環として運転させ、会社の業務を通じて利益を得ていることから、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)に該当します。

    ② 使用者責任
    業務中に起こった交通事故であることから、従業員が「事業の執行について」被害者に損害を与えたと評価されます。
  4. (4)マイカー・業務外の交通事故の場合

    従業員が業務外でマイカーを運転中に交通事故を起こした場合、原則として会社は運行供用者責任・使用者責任を負いません。

    ただし、従業員がマイカーで通勤中に交通事故を起こしたケースにおいて、会社がマイカー通勤を容認していたと認められる事情があれば、運行供用者責任・使用者責任の両方が発生する可能性があるので要注意です。

4、従業員が起こした交通事故につき、会社は従業員に求償可能か

従業員が起こした交通事故につき、会社が運行供用者責任または使用者責任を負う場合、会社は当該従業員に対して、責任の割合に応じた求償を行うことが認められています(自動車損害賠償保障法第4条、民法第715条第3項)。

ただし、「会社は従業員の行為がもたらす利益・損失の両方を負担する」という報償責任の考え方により、会社が負う損害賠償責任の全額を従業員に転嫁することは認められない可能性が高いです。

たとえば、業務用タンクローリーの車間距離不保持と前方不注視等による交通事故が問題となった最高裁昭和51年7月8日判決では、運転者と会社の責任割合を1:3と判示し、会社から従業員への求償は会社が負担した損害額の4分の1の限度でしか認められないとしました。

会社としては、従業員に社用車を運転させ、またはマイカーを業務・通勤に用いることを容認する場合には、従業員の通勤中に起こった交通事故のリスクを負担する覚悟を持っておくべきでしょう

5、まとめ

従業員が自動車を運転しての業務中または通勤中に交通事故の加害者となった場合、会社が運行供用者責任・使用者責任を負担する可能性があります。

従業員が起こした交通事故につき、会社が運行供用者責任・使用者責任を免れるための要件は厳しく、従業員に対する求償も十分な金額が認められる可能性は低いです。

そのため、業務中または通勤中の従業員に自動車を運転させ、または運転を容認する場合、会社は交通事故による損害賠償請求のリスクを負わざるを得ないことを、正しく認識しなければなりません

ベリーベスト法律事務所は、労務管理に関する企業経営者・担当者からのご相談を随時受け付けております。業務上の運転や、従業員のマイカー通勤に関する問題点についても、法的な観点から丁寧にアドバイスいたします。

従業員が起こした交通事故への対応にお悩みの場合は、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスにご相談ください。

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