中小企業必見! パートタイム・有期雇用労働法への対応ポイント

2020年12月07日
  • 労働問題
  • パートタイム・有期雇用労働法
中小企業必見! パートタイム・有期雇用労働法への対応ポイント

最新の経済センサスによりますと、平成28年時点で姫路市内には約2万3660件の事業所が存在しています。事業所で働く労働者の雇用形態はさまざまです。そして、年々増え続ける非正規雇用労働者と従来型の正規雇用労働者との待遇格差を是正するために、法改正により「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されました。

これにより、企業が行わなければならない対応も増えてきます。そこで本コラムでは、パートタイム・有期雇用労働法の施行に伴い企業が対応すべきポイントについて、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。

1、パートタイム・有期雇用契約法の概要と3つのポイント

  1. (1)法律改正の背景

    平成30年4月1日から施行された一連の働き方改革関連法改正の主眼のひとつに、「多様で柔軟な働き方の実現」というものがあります。これを受けて、これまでのパートタイム労働法が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)に変わりました。
    日本の労働力は正規雇用労働者こそが主力、という考え方はいまだに根強く残っているようです。しかし、日本ではすでに終身雇用制度は過去のものとなりつつあり、労働者全体における正規雇用労働者の比率は年々低下しています。そして、労働者としては向いていない仕事にずっと向き合わなければならない、企業としては雇用の流動性が失われ余剰人員の対応に苦慮する、など正規雇用労働者としての雇用形態の負の側面も顕在化しつつあります。
    そこで、このような状況を変えていくために、正規雇用・非正規雇用というような枠にとらわれず、公平な待遇を実現することを目指すのが今回の法改正なのです。

  2. (2)3つのポイント

    今回の法改正により成立したパートタイム・有期雇用労働法のポイントは、以下の3点です。

    • 正規雇用労働者(正社員、限定正社員など)と非正規雇用労働者(パート、契約社員など)との間の不合理な待遇格差の解消
    • 非正規労働者に対する待遇に関する事業主の説明の義務化
    • 上記2点についての行政(都道府県の労働局など)による裁判外紛争解決手続きの整備


    つまり、雇用主は、正社員とそうではない労働者との不合理な待遇格差をなくすこと、待遇について非正規労働者にしっかりと説明することが求められます。そして行政は、トラブルが起きたときの解決手段を整備することが決められたのです。

2、不合理な待遇格差とは

  1. (1)「不合理な待遇格差」に該当する待遇

    「不合理な待遇格差」とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。
    パートタイム・有期雇用労働法第8条では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、不合理な相違を設けてはならないと規定しています。また、同法第9条では、「職務内容(業務内容、責任の程度)および配置の変更(人事異動)の範囲が同一である場合」において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に格差を設けることを禁止しています。

  2. (2)紛争が起こったときの判断基準

    何が不合理な待遇格差で何が合理的な格差であるかについては、実際のところは個別事情を勘案したうえで判断されることになります。

    ここで、参考となる判例をご紹介します。
    被告である企業に勤務する原告の有期労働契約社員が、正規雇用の社員との間で各種手当に格差があることは改正前労働契約法20条違反であるとして、当該有期労働契約社員が自身は正規雇用の社員と同一の権利があることの確認と、諸手当の格差による差額の支払いを求めて訴訟を提起した事件です(最高裁判所平成30年6月1日判決(最高裁判所民事裁判例集72巻2号88ページ)。

    最高裁の判断は、以下のとおりでした。

    • 合理性がある格差……住宅手当
    • 合理性がない格差……通勤手当、皆勤手当、作業手当、無事故手当、給食手当


    この判決から伺えることは、業務内容が同一である一方で、配置の変更の範囲などが異なるケースでは、住宅手当は転勤の有無についての労働条件に関するものであることから合理的、一方で業務そのものについての手当は均等待遇規定の観点から差別的な扱いは認められないということでしょう。

    なお、本事件では争点となりませんでしたが、均等待遇規定は諸手当以外の福利厚生や教育訓練、休暇などにも及ぶと考えられます。

3、説明義務の強化

今回の法改正により、短時間労働者・有期雇用労働者などの非正規雇用労働者を雇用する事業主には、以下の説明義務が課されることになります。

  • 雇用時の待遇内容などの説明義務(従前と変わらず)
  • 労働者が説明を求めてきた場合に正規雇用労働との待遇格差の内容や理由などに関する説明義務


それとともに、説明を求めた労働者に対する不利益的取り扱いが禁止されることになりました。

したがって、非正規雇用労働者が正規雇用労働との待遇格差に関する説明を求めてきたときは誠実に応じる必要があります。また、給与を下げることや、不合理な配置転換をするなどの報復的措置は決して行ってはなりません。

4、行政型ADRの整備

  1. (1)ADRとは何か?

    本法改正の主眼のひとつは、従来のパートタイマーに認められていた制度や権利について、契約社員まで適用範囲を広げるというものです。「都道府県労働局などの行政機関による裁判外紛争解決手続きの整備」についても、その流れをくんでいます。

    従来のパートタイム労働法には、事業者と労働者の間における紛争解決手段として行政による助言・指導・勧告や労働局による調停というような制度がありました。今回の法改正により、有期雇用労働者もその対象となります。なお、本改正は令和2年4月1日から施行されていますが、中小企業に関しては令和3年4月1日から適用されます。

  2. (2)ADRの種類

    「都道府県労働局などの行政機関による裁判外紛争解決手続き」とは、いわゆるADR(Altanative Dispute Resolution)と呼ばれる手続きを指します。ADRは「裁判外紛争処理制度」や「私的仲裁システム」などと訳されるものです。本来であれば裁判でなされるような紛争の解決について、仲裁や調停などにより解決を試みる手段であり、裁判と比較して時間や費用をあまりかけずに紛争を解決する効果が期待できます。

    ADRには、主に3つの種類があります。

    • 司法型……民事調停や労働審判など、裁判所において運営されるもの。
    • 行政型……労働委員会など、独立した行政機関や行政委員会が運営するもの。
    • 民間型……業界団体や弁護士会が運営するもの。


    パートタイム・有期雇用労働法におけるADRは、上記のうち主に行政型が該当します。

  3. (3)ADRの流れ

    事業主と労働者の間で紛争が生じたときは、まず当事者どうしの話し合いで解決を試みます。これが難しい場合、事業者または労働者は各都道府県労働局に設置されている「総合労働相談コーナー」に相談を行います。総合労働相談コーナーは労働問題に関する相談や情報提供をワンストップサービスで提供しており、労働団体の相談窓口としての役割を果たしています。

    受け付けた相談、つまり紛争解決援助の対象とすべき事案について、都道府県労働局は紛争調整員会における紛争解決に向けたあっせん、あるいは都道府県労働局長による助言・指導を行います。

    また、同じく行政型のADRを担う労働委員会は、不当労働行為の審査・救済のほか、労働争議の調整や個別労働紛争の相談受付やあっせんなどを行っています。労働委員会による紛争調整の手段は、あっせん・調停・仲裁です。このうち、あっせんと調停は労使双方の合意について法的拘束力を持ちませんが、仲裁は労働協約と同一の効力を持つものとして法的拘束力を持ちます。

    なお、行政型のADRで解決できない場合は司法型のADRに移行、それでも解決できない場合はADRではなく裁判に移行することになります。

5、2021年までに必要な準備

  1. (1)職務分析と職務評価

    正規雇用・非正規雇用を問わず、労働者に対し待遇格差について納得性の高い説明をするためには、まず正規労働者および非正規労働者がそれぞれどのような職務内容で、どの程度の責任範囲の仕事をしているのか、それぞれの労働者がどのくらいの能力を発揮しているのか、実態を把握する必要があります。

    この現状把握により、労働者から待遇格差についての説明を求められたとしても「職務内容と責任範囲および発揮している能力の違い」を根拠に、企業として合理的な説明が可能になります。

  2. (2)就業規則の見直し

    現状把握の結果を踏まえながら、パートタイム・有期雇用労働法の規定から逸脱しない人事制度を構築しておく必要があります。それに伴い、就業規則の見直しも必要になるでしょう。これにより、企業としてのリーガルリスクへの対策にもなるのです。
    なお、就業規則の見直しは、時間がかかることが一般的です。したがって、早く着手しておくことに越したことはありません。

6、まとめ

パートタイム・有期雇用労働法だけではなく、労働関連の法令や制度は頻繁に改正が行われ、年々複雑化しています。そして、企業が対応すべきことも増えています。

経営者や人事労務の実務に携わる方にとって、法改正や新制度をタイムリーにキャッチアップし対応することは、決して容易なことではないでしょう。そのようなお悩みをお持ちの方たちにとって、弁護士は企業の心強いパートナーになります。

ベリーベスト法律事務所では、企業が抱えるさまざまな問題にワンストップで対応することができる顧問弁護士サービスを提供しています。もちろん、労働問題にかぎらず、幅広い範囲でご対応させていただくことが可能です。労働関連のご相談は、ぜひベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでお気軽にご依頼ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています