小売業で残業が多い方へ! 残業代不払いになりやすいパターンと相談先
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姫路市が公表する「平成29年就業構造基本調査結果概要」の職業別有業者数の構成比によると、小売店の店員など販売従事者は11.0%でした。昨今では社会情勢の影響を受けて、従前よりさらに残業が増えているという方も少なくないと考えられます。法律上の要件を満たせば残業自体は違法ではありませんが、実質的に無償で残業している方も多いでしょう。
今回は小売店の残業の現状や残業代不払いが生じやすいパターン、残業代を払ってもらえない場合の対処方法や相談先について姫路オフィスの弁護士が解説します。
1、小売業の残業は多い? 他業種と比較した現状
小売業と他業種を比較すると、残業時間はそれぞれどの程度になるのかご存じでしょうか。まずは統計から実際の状況を解説します。
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(1)1か月の残業時間について
厚生労働省が業種ごとに発表している「1か月間における法定時間外労働」(厚生労働省・平成25年労働時間等総合実態調査)では、45時間を超えている事業所の割合が発表されています。これによると「全業種の平均」では9.0%となっていますが、小売業が含まれる「接客娯楽業」では12.4%となっています。
月の残業時間が50時間を超える事業所の割合は、全業種平均で7.1%ですが接客娯楽業では10.6%です。
「過労死ライン」といわれる「1か月に100時間以上の残業時間」がある事業所は、全業種では0.8%ですが接客娯楽業では1.7%にのぼります。 -
(2)1年の残業時間について
同じ資料で、1年単位の残業時間についてのデータも発表されています。
1年に360時間以上の法定時間外労働が行われている事業所の割合は、全業種平均では10.5%ですが、接客娯楽業では11.3%となっています。
1年に1000時間以上の法定時間外労働が行われている事業所の割合は、全業種平均では0.5%ですが接客娯楽業では1.7%にのぼり、3倍以上の数字となっています。
このように、小売店を含む接客業では10%を超える事業所で残業が行われています。他業種と比べても残業が多いといえるでしょう。
2、働き方改革関連法のポイントを解説
近年、労働者のワークライフバランスを実現し「働きやすい社会」を作るため、政府主導で「働き方改革」が行われています。以下で働き方改革関連法のポイントをご紹介します。
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(1)年5日の有休取得義務化
これまで、有休は労働者からの申請があって初めて取得が認められるものでした。社内に申請しにくい雰囲気があり、ほとんど消化できなかった方もおられるでしょう。
それでは意味がないので、平成31年4月1日から、年に10日以上の年次有給休暇の取得が認められる労働者に対しては、「年5日以上の有給休暇を取得させねばならない」とされました。「年5日」分については、本人の申請がなくても取得させなければ「違法」となります。
小売業でも、今後は最低限年5日の有休を取得できるようになる方が多いでしょう。 -
(2)労働条件の明示方法がメールで可能に
企業が求人や採用を行うときには、労働条件を明示しなければなりません。これまで、採用時の労働条件明示は「書面」でしなければならないという規定でした。ただ、スマホやパソコンの普及により、メールで受け取りたい労働者も増えています。
そこで法改正により「労働者の希望があれば」メールやFAXによる明示が認められるようになりました。 -
(3)月60時間超の残業に対する割増賃金
法律上、月の法定外労働時間が60時間を超えると、事業者は原則として50%の割増賃金を払わねばなりません。ただし従来は中小企業でこの規定の適用が猶予されており、60時間を超える残業を行っても「25%」の割増賃金を支払えば足りるとされていました。
今般の改正により、中小企業であっても月の法定外労働時間が60時間を超えるなら、50%の割増賃金を払わねばならないとされました。
今後は中小の小売店で働く方が月に60時間を超える残業を行ったら、割増賃金を払ってもらえるようになるでしょう。 -
(4)時間外労働の上限規制
法定外労働時間の上限も変更されます。
従来は、三六協定の「特別条項」をつければ、無制限に法定時間外労働をさせても問題ありませんでした。今回の法改正により特別条項に上限がつけられ、三六協定があっても一定時間以上の時間外労働をさせられなくなっています。
上限は以下のとおりです。- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1か月あたり80時間以内
これまで特別条項を根拠に極めて長い労働時間を強いられていた方も、今後は残業時間が減る可能性があります。万一会社が上記の上限を超えて働かせると違法になるので、労働基準監督署へ相談してみましょう。
3、名ばかり管理職は残業代を請求できる
小売業では「マネージャー」や「店長」などの「管理職」に昇進するとともに、残業代が支給されなくなる例も多々あります。「これまでと仕事内容が変わっていない、むしろ忙しくなったのに給料は減ってしまった」という経験をされた方も多いでしょう。
実はこのような場合「名ばかり管理職」として残業代を請求できる可能性があります。
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(1)名ばかり管理職とは
名ばかり管理職とは、「実際には管理監督者の権限を持っていないのに、名前だけ管理職とされている労働者」のことを指します。名ばかり管理職は、以下のとおり、法律で定められている「管理監督者」に該当しないので、残業代を請求し得ることになります。
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(2)名ばかり管理職で残業代を請求できる理由
労働基準法は、「管理監督者」には残業代に関する労働基準法上の規定が適用されないと規定しています。
中には、「管理監督者」と社内の「管理職」を同視しており、「管理職」に昇進したら残業代を払わなくてよいと考える会社もあります。たとえば「課長」「店長」「マネージャー」などの役職がつくと、「管理監督者」になるので残業代を払わなくてよいと判断するのです。
ところが、労働基準法上の管理監督者と管理職は、必ずしも一致しません。
労働基準法上の管理監督者に該当するか否かは、以下のような要素から判断されます。- 経営者と一体の立場となり、企業経営に関与している
- 採用や部下の人事考課などについて権限を持っている
- 出退勤管理を自分の裁量で行っている
- 賃金面で、地位にふさわしい待遇を受けている
つまり、重要な経営の意思決定に関わり、人事権への発言権があり、自分の裁量で出退勤時間を決めることができて相応の給料の支払いを受けている場合には「管理監督者」に該当しますが、企業経営に関する意思決定に何ら関与していない、勤務時間に関しても何ら裁量がない、業務内容も一般社員とほとんど異ならないなどという場合には、「管理監督者」には該当しないのです。たとえ名前だけ「店長」など、管理職と呼ばれる立場であったとしても、従前と業務内容が変わっていなければ「管理監督者」ではないといえます。
そのようなケースであれば、一般社員と同様に残業代の支払いを受ける権利があるのです。「店長」に昇進したとたんに残業代が支払われなくなった方は、本来支給されるべき賃金が支給されていない可能性が高いので、弁護士に相談してみてください。
4、残業代未払いの対処法
残業代未払いの場合の対応方法としては、おおむね、以下のとおりとなります。
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(1)残業代請求の証拠を集める
まずは残業代請求に向けて「証拠」を集めましょう。以下のような、自身の労働時間に関する資料、自身の労働条件に関する資料が必要な証拠となります。
- タイムカード
- シフト表
- レジの記録
- 日報
- パソコンのログイン、ログオフ記録
- 自分で労働時間をつけた手帳、スケジュール表
- 交通ICカードの記録
- 就業規則、賃金規定
- 給与明細書
- 労働契約書
- 労働条件通知署
自分では証拠が足りないと思っても、弁護士に相談すれば資料となりうるものが見つかるケースが多々あります。店側に資料があって開示に応じない場合でも、弁護士が対応すれば、店側に資料を開示させることは可能ですし、証拠となり得る資料を検討したうえ取得していくことも可能ですので、まずは弁護士にご相談ください。
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(2)残業代の額を計算する
証拠をある程度取得した後に、実際にいくらの残業代が発生しているか計算することになります。
この残業代の額を計算するという作業は、労働基準法の知識が要求される複雑な作業ですので、基本的には、弁護士に一任されるのが最善です。 -
(3)会社へ残業代を請求する
残業代額の算出作業が完了すれば会社側へと残業代を請求することになります。
残業代の額やその算出根拠を明確にして会社側へと請求した場合、中には、未払いの残業代があることを認めたうえで速やかに未払残業代の支払いに応じる会社も存在します。
もっとも、残業代の有無や額を巡り、労働者側と会社側の間にて主張の対立が生じるケースが多く、会社側と交渉を行う必要があるのが一般的です。
会社側が交渉での支払いに応じない場合や残業代の額で折り合いがつかない場合には、労働審判や民事訴訟といった法的手段を用い、会社に対し、残業代を請求していくことになります。
以上のように、未払残業代を会社に支払わせるということは、決して簡単なことではなく、場合によっては労働審判や訴訟といった法的手段を用いることになるため、当初から弁護士に自身の代理人となるよう依頼しておくのがもっともスムーズです。 -
(4)未払残業代問題は弁護士にご相談を
弁護士は、法律の専門家であり、労働関係法令についての深い知見を有しています。
また、残業代の額の算出作業や、場合によっては証拠の収集作業も弁護士であれば行えます。
さらに、会社側との交渉の代理や、労働審判や民事訴訟となった場合の代理人としての活動も行えます。
すなわち、弁護士には、未払残業代問題に関して、証拠の取得から会社側との交渉・訴訟に至るまでの全過程を一任することができるため、未払残業代問題については、まずは弁護士にご相談してみてください。
5、まとめ
小売業に従事する方が未払い残業代問題の請求を検討しているのであれば、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では残業代請求をはじめとする労働事件に積極的に取り組んでいます。未払いとなっている残業代を会社へ請求しようをお考えの方はベリーベスト法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています