令和元年の意匠法改正は何が変わった? 知っておきたいポイントを解説

2021年01月05日
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令和元年の意匠法改正は何が変わった? 知っておきたいポイントを解説

特許庁が公表する「特許行政年次報告書2020年版」によると、姫路市を擁する兵庫県において、令和元年度に意匠関係の出願が行われた件数は787件でした。この数字は全国5番目に多い出願数です。

経済活動を行うにおいて、意匠は非常に重要なファクターとなります。意匠が保護されなければ、容易に模倣できてしまうため、企業のブランド構築の妨げになることは間違いないでしょう。

意匠を保護する法律としては、令和元年に改正された意匠法が挙げられます。今回は、令和元年の意匠法改正によって何が変わったのかについて、知っておきたいポイントをベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。

1、意匠法とは

意匠法とは、新しく創作された意匠(デザイン)を保護することによって、意匠の創作を奨励し、これによって産業の発展に寄与するということを目的とする法律です(意匠法1条)。特許権、著作権、商標権などの知的財産権に比べると、なじみが薄い権利ですが、商品パッケージや電化製品など身近なものが意匠登録の対象になっています。

意匠権として保護を受けるためには、特許権と同じように、特許庁への出願と登録が必要になります。もっとも、どのようなデザインであっても意匠登録が認められるとすると、意匠の創作を阻害するおそれがあるため、意匠法では、意匠登録をすることができる要件を定めています。

意匠登録をするための主な要件としては、以下のものがあります。

  • 意匠法上の意匠といえること
  • 工業上利用可能な意匠であること
  • 新規性があること
  • 創作非容易性があること
  • 先に出願された意匠と同一または類似していないこと
  • 不登録事由に該当しないこと
  • 意匠ごとに出願していること
  • 他人よりも早く出願していること


なお、意匠登録には、特許出願と同様に登録料がかかります。

2、拡充された保護対象

従来の意匠法では、「物品」の形状などを保護の対象としていましたが、近年のデジタル技術の発展やデザインの役割の多様性に対応できていない状況でした。そこで、令和元年の意匠法の改正では、意匠法の保護の対象を見直し、以下のとおり「物品」以外にも保護の対象が拡充されることになりました。

  1. (1)画像のデザイン

    従来の意匠法では、「物品」に記録された画像だけが保護の対象とされており、物品に記録されない画像については保護の対象外でした。

    しかし、近年IoTやAIなどの新しいデジタル技術を活用したビジネスが発展し、画像デザインの重要性が注目を浴びるようになってきました。独創性が高く、使いやすい画像デザインを創作したとしても、意匠法による保護を受けられないとすると、誰でも利用することができてしますため、企業がデザイン制作にかけた資本を回収できないというリスクが生じていました。

    そこで、画像デザインについても意匠法の保護の対象とすることによって、物品に記録された画像でなくても保護されることになりました。

  2. (2)建築物、内装のデザイン

    従来の意匠法の保護対象である「物品」は、動産を意味するものとされていたため、建築物などは「物品」には含まれていませんでした。また、建築物の内装については、意匠法上の「組物」には該当しないとされていたため、建築物の内容についても保護の対象とはされていませんでした。

    しかし、企業によっては、ブランド戦略の一環として店舗のデザインに力を入れているところもあり、他社に容易に模倣されてしまったのでは、企業の発展を阻害させることにもなりかねません。そこで、建築物や内装デザインについても意匠法の保護対象に加えられることになりました。

3、その他、主な改正ポイント8つ

令和元年の意匠法の改正では、上記の改正点のほかにも、以下のような改正がなされています。

  1. (1)関連意匠制度の拡充

    関連意匠制度とは、本意匠に類似する意匠の登録を認める制度のことをいいます。
    意匠法上は、先願主義がとられていますので、類似のデザインを後から登録するということはできません。しかし、企業が同一のコンセプトでシリーズ製品を製作するということは、よくあることです。そのため、そのようなケースでは、関連意匠の登録を認めて保護を図ってきました。

    しかし、従来の意匠法では、関連意匠の出願期間は、本意匠の出願から8か月程度しかなく、出願期間としては非常に短いものでした。また、従来の意匠法では、関連意匠として出願できるものは、本意匠に類似するものに限られており、関連意匠に類似するものは出願することができませんでした。
    そこで、改正法では、関連意匠制度を拡充させることとしました。具体的には、本意匠の出願から10年を経過する日まで関連意匠の出願を認め、出願期間を大幅に延ばしています。また、少しずつデザインを改良していくケースにも対応できるように、関連意匠に類似する意匠の登録も認められることになりました。

  2. (2)意匠権の存続期間の変更

    従来の意匠法では、意匠権の存続期間は、設定登録の日から20年とされていました。

    しかし、意匠法改正により、意匠権の存続期間は、意匠登録出願日から25年に変更されました。

  3. (3)複数意匠の一括出願の導入

    従来の意匠法では、意匠の登録出願は、意匠ごとに行わなければならないとされていました(一意匠一出願の原則)。

    しかし、意匠法改正により、複数意匠の一括出願が可能になっています。

  4. (4)物品区分の扱いの見直し

    従来の意匠法では、意匠登録の出願は、経済産業省令で定める物品区分によりしなければならないと規定されていました。そのため、物品区分表の区分と同程度の区分を記載していない出願については、拒絶理由の対象となり、登録の遅延を招いていたのです。

    そこで、意匠法改正により、物品区分の扱いを廃止し、経済産業省令に一意匠の対象となる基準を設けることとなりました。

  5. (5)創作非容易性の水準の明確化

    意匠登録の要件のひとつとして、創作非容易性の要件があります。従来の意匠法では、創作非容易性の判断の基礎となる資料としては、「公然知られた」ものに限られていました。

    しかし、近年の情報技術の発展により、多くのデザインが刊行物やインターネットを通じて公開されています。そのため、これらの情報から意匠の創作をした場合には、創作非容易性はなく、意匠として保護する価値は低いといえます。

    そこで、意匠法改正により、創作非容易性の判断の基礎資料として、「公然知られた」ものに加え、「頒布された刊行物に記載された」ものと「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったもの」が追加されました。

  6. (6)組物の部分意匠の導入

    意匠法では、一物品一意匠の原則がとられております。しかし、デザインの創作にあたっては、2以上の物品について全体的な統一感を持たせて創作がなされることも多く、そのようなものについては、組物として意匠登録が認められています。

    しかし、従来の意匠法では、組物の場合、物品と異なり部分意匠の登録が認められていませんでした。近年の商品の多様化を受けて、意匠法改正により、組物の部分意匠の登録が可能になったのです。

  7. (7)間接侵害規定と手続救済規定の拡充

    従来の意匠法では、意匠権を侵害する物品を構成部品に分割して、製造・輸入する行為については、取り締まりの対象外とされていました。しかし、意匠法改正により、取締回避目的で物品を構成部品に分割し、製造・輸入する行為について間接侵害として取り締まり対象となりました。

    また、意匠法改正により、指定期間や優先権書類などの提出期間が経過した後も、書類の提出が可能になりました。

  8. (8)損害賠償額算定方法の見直し

    意匠法改正により、権利者の生産・販売能力などを超える部分については、ライセンス料相当額を損害額として認定することが可能になりました。

4、意匠権を侵害したら・されたら

意匠の創作には企業としても多額の資本を投下しているものです。他社に同一意匠を使用された場合には、そのまま放置しておくことはできないでしょう。意匠権が侵害されたときには、弁護士に相談したうえで、以下の手段をとることを検討してください。

  1. (1)意匠権侵害とは

    意匠権者は、「業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する」とされています(意匠法23条)。意匠権者は、独占的・排他的な権利を有することになりますが、通常実施権(通常実施権者)や専用実施権(専用実施権者)との関係では、一部制限がされることもあります。

    意匠権侵害とは、正当な権利なく第三者が、事業において、登録意匠または類似する意匠を実施する行為をいいます。実施とは、物品についていえば「製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為」のことです(意匠法2条2項1号)。

  2. (2)意匠権侵害をされた場合の対応策

    意匠権侵害をされた場合の対策として、意匠権者は、以下の対策をとることが可能です。

    ①差止請求(意匠法37条)
    意匠権侵害をされた場合には、意匠権者は侵害者に対して、意匠権の侵害行為の停止の請求や侵害の予防請求をすることができます。意匠権者は、差し止め請求をするに際しては、侵害製品の廃棄や製造設備の除却などを請求することも可能です。

    ②損害賠償請求
    意匠権侵害をされた場合には、意匠権者は侵害者に対して、意匠権侵害によって被った損害の賠償を求めることができます。
    意匠法では、侵害行為による損害額の推定規定(意匠法39条)や過失の推定規定(40条)を設けていますので、立証のハードルは低くなっています。

    ③信用回復措置請求(意匠法41条、特許法106条)
    意匠権者は、意匠権者の業務上の信用を侵害した者に対して、信用を回復するための措置を求めることができます。
    具体的には、信用を回復するための謝罪広告の掲載などを求めることになります。

5、まとめ

令和元年に意匠法が改正されたことにより、保護の範囲が拡充され、より一層デザインの分野での発展が期待できます。企業としても、新規に意匠を創作した場合には、早期に意匠登録をし、法律による保護を受けられるようにしておかなければなりません。

ベリーベスト法律事務所では、弁護士だけでなく弁理士によるサポートも受けることが可能です。ワンストップで企業の知的財産戦略をお手伝いいたします。意匠登録や意匠権侵害でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています