交通事故で労災保険を使うメリット・デメリット
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兵庫労働局が公表している「業種別事故の型別の労働災害発生状況」によると、令和2年の兵庫労働局管内での労災による死傷者数は、5381件で、交通事故を原因とする労災事故は307件でした。
労働災害というと職場で怪我をするということを想像する方が多いかもしれませんが、通勤途中や出張中の交通事故に関しても労働災害にあたる場合があります。
交通事故による労働災害に関しても労災認定を受けることによって労災保険から給付を受けることが可能になりますが、交通事故で労災保険を使う場合には、なにかデメリットがあるのでしょうか。
今回は、交通事故で労災保険を使うメリットとデメリット、労災を申請する際の注意点について、ベリーベスト法律事務所 姫路オフィスの弁護士が解説します。
(参考:労働災害発生状況(兵庫労働局))
1、交通事故で労災保険を使えるケース
交通事故で労災保険を使うことができるケースとしては、どのようなケースがあるのでしょうか。以下、代表的なケースについて紹介します。
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(1)通勤途中での交通事故
自宅から職場に向かう途中に事故にあった場合や職場から自宅に帰る途中で事故にあった場合には、労災保険を使うことができる可能性があります。この場合、通勤経路が合理的な経路であったかどうかというのがポイントになります。
合理的な経路とは、通勤のために通常利用する経路のことであり、その経路が複数考えられる場合には、いずれの経路を利用したとしても合理的な経路と認められます。
そのため、普段利用している経路だけでなく、当日の交通状況に応じて迂回(うかい)することがある経路なども合理的な経路となります。
ただし、帰宅中に同僚と飲食店に立ち寄るなど、合理的な経路をそれたり、経路上で通勤とは無関係な行為をしたりした場合には、「逸脱」または「中断」にあたり、それ以降は原則として通勤にはあたらず労災認定を受けることはできません。
一方、日用品の購入など、逸脱または中断がやむを得ない事由による最小限度のものである場合、合理的な経路に復帰した後の事故であれば、通勤災害とみなされます。
また、通勤途中に経路近くの公衆トイレを利用する場合や経路上の店でたばこやジュースを購入する場合などささいな行為をする場合には逸脱または中断にあたることはありません。 -
(2)出張中の交通事故
自宅から出張先へ直行する際に交通事故にあった場合や出張先から自宅に帰る際に交通事故にあった場合には、労災保険を利用できる可能性があります。
労災保険法上の通勤は、「業務の性質を有するものを除く」とされていますので、出張のように全体として事業主の支配下にあるものについては、通勤にはあたりません。しかし、職場での事故と同様に業務災害に該当しますので、労災保険を利用することができるのです。
ただし、出張先で飲み歩いている際に事故にあってしまった場合や空き時間に観光をしていた際に事故にあったような場合には業務との関連性がありませんので、労災保険を利用することはできません。
2、交通事故で労災保険を使うデメリット・メリット
交通事故にあった場合には、加害者の自動車保険から賠償を受けることができますが、労災による交通事故の場合には、それに加えて労災保険からも補償を受けることができます。
ただし、交通事故で労災保険を利用する際のデメリットもあります。メリットと併せて確認しておきましょう。
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(1)労災保険を利用するデメリット
労災保険を利用するデメリットとしては、以下のものが挙げられます。
① 労災保険からは慰謝料が支払われない
労災保険の補償内容には被害者が被った精神的苦痛に対する慰謝料が含まれません。
交通事故の場合には、怪我をして入通院を余儀なくされたときには傷害慰謝料を請求することができますし、後遺障害が生じた場合には後遺障害慰謝料を請求することができます。
これらの慰謝料は、労災保険からは支払われませんので、交通事故の加害者や保険会社に対して請求をしなければなりません。労災保険からすべての補償を受けることができるわけではないという点がデメリットとして挙げられます。
② 労災隠しのリスクがある
労災認定を受ける場合には、労働基準監督署に提出する書類に会社の証明を受ける必要があります。労災を利用したい旨を伝えれば、通常、会社が書類作成や労基署への提出を行ってくれるでしょう。
しかし、手続きが面倒、労基署から指導されるおそれがあるなどとして、手続きに協力してもらえない可能性があります。これを労災隠しといいます。
このような労災隠しのリスクがあることはデメリットのひとつといえます。 -
(2)労災保険を利用するメリット
労災保険を利用するメリットとしては、以下のものが挙げられます。
① 治療費の支払いを打ち切られる心配がない
交通事故で自賠責保険を利用する場合には、120万円という限度額がありますので、それを超えた場合には、治療費を自己負担しなければなりません。また、治療が長引いて治療費が高額になってくると加害者の任意保険会社から治療費の打ち切りを打診される可能性もあります。
しかし、労災保険の場合には金額の上限はありませんので、完治または症状固定まで治療費の支払いを打ち切られる心配なく治療を継続することができます。
② 過失相殺をされることがない
交通事故において、被害者にも一定の過失が認められる場合には、被害者の過失割合に応じて賠償額が減額されることになります。
これに対して、労災保険の場合には過失割合による減額はありませんので、被害者に過失があったとしても支給額が少なくなるということはありません。
③ 加害者が無保険でも補償を受けることができる
交通事故の加害者が自賠責保険や自動車保険に加入していれば、交通事故の被害者は保険会社から賠償を受けることによって損害を回復することができます。
しかし、加害者が無保険であった場合には、加害者自身に損害を請求しなければなりません。そのため、加害者に十分な資力がない場合には、満足いく支払いを受けることができません。
これに対して、労災保険は、加害者の保険加入の有無とは無関係に補償を受けることができますので、加害者が無保険であったという場合には、労災保険から補償を受けることによって損害を回復することができます。
④ 労災保険のみに補償があるものが多い
労災保険からは、通常の補償給付のほかにも特別支給金というお金が支払われます。
たとえば、交通事故によって仕事を休むことになった場合には、労災保険から休業補償給付として、給付基礎日額の60%が支払われることになりますが、それとは別に特別支給金として20%が支払われます。
そのため、労災保険を利用した場合には、給与額の80%を受け取ることができます。
この特別支給金は、福祉的な目的で支給されるものですので、損益相殺の対象にならないという特徴があります。交通事故の場合には、労災保険と自賠責保険・任意保険の両方から補償を受けることができますが、二重取りをすることはできません。
しかし、損益相殺の対象にならないということはその部分に関しては、例外的に二重取りが認められることになります。弁護士に相談し、最大限の補償を受けられるようにしっかり確認しましょう。
3、労災保険を使用する注意点
交通事故で労災保険を使用する場合には、以下の点に注意が必要です。
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(1)治療費の支払い方法
労災保険を利用して治療を受ける場合には、治療を受けた病院が労災保険指定医療機関かそれ以外かによって、以下の通り、治療費の支払い方法が異なります。
● 労災保険指定医療機関で治療を受けた場合
被害者自身は病院で治療費を負担する必要はありません
● 労災保険指定医療機関以外で治療を受けた場合
被害者が立て替えて支払わなければなりません。このとき、健康保険を利用することができませんので、治療費の10割を負担しなければなりません。
被害者が立て替えて支払った治療費については、労働基準監督署に所定の手続きをとることによって、被害者に還付されます。
しかし、一時的に立て替えなければならないという負担と手間がかかりますので、できる限り労災保険指定医療機関を受診するようにしましょう。 -
(2)慰謝料については別途請求する必要がある
労災保険からは慰謝料が支払われませんので、慰謝料については、別途加害者または保険会社に対して請求する必要があります。入通院期間が長くなったり、後遺障害が生じたりした場合には、慰謝料の金額も高額になりますので、忘れずに請求するようにしましょう。
4、交通事故の労災は弁護士に相談を
労災の対象になる交通事故にあった場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)労災保険からの補償では不十分
交通事故にあった場合には、慰謝料を請求することができますし、後遺障害が生じた場合には、逸失利益を請求することができます。
しかし、労災保険からは、慰謝料は支給されず、本来得られたはずの収入(逸失利益)についても十分な補償はありません。労災保険からの補償では足りない部分については、加害者または保険会社に請求していかなければなりません。
交通事故の治療や仕事などで時間的な余裕のない被害者が不慣れな交通事故の示談交渉を行わなければならないというのはとても大きな負担となります。このような場合には、弁護士に依頼をすることによって、加害者または保険会社との示談交渉を任せるのが得策といえるでしょう。 -
(2)慰謝料を増額することができる可能性がある
交通事故の慰謝料には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判基準という3つの基準があります。一般的には、自賠責基準が最も低い金額になる基準であり、裁判基準が最も高い金額になる基準です。
被害者としては、当然裁判基準を利用して慰謝料請求したいと考えますが、裁判基準を利用することができるのは、弁護士に示談交渉を依頼した場合、または裁判を起こした場合に限られます。少しでも多くの慰謝料を請求したい場合は、弁護士に依頼をすることをおすすめします。
5、まとめ
通勤中や出張中に交通事故にあったという場合でも労災保険を利用することができる場合があります。労災保険を利用することにはさまざまなメリットがありますが、労災保険からの補償では十分ではありませんので、加害者または保険会社への請求が必要になってきます。
加害者または保険会社への請求をご自身で行うことに不安があるという方は、まずはベリーベスト法律事務所 姫路オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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